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第三章

第37話

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 特に学校の風景は変わらないが廊下は少し広くなったり、トイレも新しくなっているところもある。エレベーターは前から教師用にあったがなんで一階に移ったんだろうか。

 まぁ古い学校だしよ、綺麗にしてかなきゃだし、私立だからある程度寄付とかもらってんだろー。それで改装しないとなんか言われるぞ。生徒も減るぞ……。

 と思いながらついていった先はやっぱり……剣道場の裏。よく俺もここで吸ってたな。でここで語った。湊音とは。
 ああっ、吸いてえ。吸いてえ。仏壇にもタバコ置かれてるけど吸ってねぇんだよ。

「おい、そこにいるのはわかってるぞ」
 ……!!!!! 見つかった。やっぱり見つかるか。

「ずっとうしろにいたろ」
「……わかったんですか?」
「時折窓の反射で見えた」
「あああ……」
 そう言うことか。

「どした、なんか用事でもあるか。ここまできて」
 だからその口のきき方が嫌だが。

「タバコ吸うか?」
「え?」
「なんてな、吸うの見たことないし。吸うキャラでもないよな」
 ……チャンス!!! でもなんかなぁ。吸わない人の身体で吸うのってありか? 無いよなぁ。

「……吸うわけないか。吸わんほうがいい。禁煙しようと思ってもなかなか禁煙できないし、職員室の喫煙所なくなってもここでガツガツ吸うからやめられん」
 ……わかる、わかる! でも入院すれば冴えなくなるぞ……荒療法だが。
 でも……やっぱり……。

「試しに一本……」
 誘惑に負けた。でも吸いたい、それを叶えることはできた……よな。

 久しぶりの喫煙は良いもんだ。タバコあると話も進むもんでさ。
 まぁボロ出ないように聞き役に徹してたが、気弱な湊音もすっかり上司だ。ベテラン教師。
 パートナーともうまくやってるようだし、どうやら高橋を主任に推薦したのは彼のようで。そいや俺も湊音を主任に推薦したことあったなぁ。あのときは本当に不安で心配だったが背中を思いっきり押してやった。

 まるであの時の俺のようだ。……なぁ。そしてなんとか話をこじつけて放課後、剣道部の見学もできる!!

 ……のだが……。
「先生ーまだですかー」
「授業始めないのー」

 生徒たちの声が飛び交う中、俺はパソコンの操作に戸惑っていた。なんでこの数年で色々と変わっちまうんだよ!! 
 パソコンは不得意だったのもあって必死に覚えたのにプロジェクターの接続に戸惑い、やつのファイルは机の上の書類以上に乱雑で何が何だかわからない。

 ……くそっ、諦めた! パン! とノートパソコンを閉じた。そもそも理解2年生の数学、難しい! さっきも教科書見た! わかんねぇっ!!! 俺は文系だっつーの!!

 こう言うときはこれしかない。

「はい、今日は機械の不調ってことでー僕からお話ししたいと思います!!」

「えーっ」
 えーってなんだよ。ってさっきから騒がしい。きっと高橋の授業だからだろう。あいつはなめられるかるな、ヘラヘラしてて。主任になっても威厳なしだな。

 スマホ堂々触ってる奴もいるし、喋ってる奴、騒いでる奴、俺の授業だといなかったぞ。俺の威厳は凄かったぞ。舐められないように教師始めてからいかつい顔して授業、元々剣道で鍛え抜いてた身体をさらに鍛えたこともした。
 怒るときは怒り、褒めるときは褒め、重要なところはしっかり伝えていたわけだが。

「髙橋の話なんてつまんないよ」
「そうだよー、ろくに授業もできないし。へなへなしてるしよ」
「いつも何やったか分からず終わるもんなー」
 ……こんなになめられてたのか? なんだか髙橋の授業を見たがたしかに生徒たちの顔色を伺っているようであまり抑揚のない授業ではあった。まぁ俺的には成立はしていると思ってたけどさ。
 彼なりに工夫はしていた。……にしてもくそっ、教師を舐めやがって。準備もたくさんしてお前らのために時間削ってこちとらやってるんだ。同業者としてここは俺が正してや……。

「みんな静かにしてっ」
 !!!
 なんだ、まともな生徒がいるじゃないか。

「あんたたちがうるさいからだけでしょ。私はちゃんと聞いてたよ。わかりやすく話してるけどへなへなしててあれだけどさ、こんなにうるさくても優しくしてくれるの髙橋先生だけだよ!」
 ……あらま。

「そうだよー、それに面白いこともちょいちょい挟んでるし。親父ギャグレベルだけど。お前らに気を利かせようとやってんだよ?」
 ……なぬっ!!!

「ノートもしっかり見てるし。あんたらのところには丸しか打ってないけどちゃんと受けている子のノートにはしっかりコメントやアドバイスもある……絶対あんたたち、内申点低いよ」
 !!!!

 次第に教室は静かになっていく。……内申点の言葉に敏感なんだよな、生徒ってさ。でもちゃんと髙橋も工夫してたのか。
 ……少しハードル上がっちまったが、いいか。久しぶりに30人以上の生徒たちを前にすると改めて緊張するが、すぐ吹っ切れた。俺はベテランの教師……なんだ。

「ありがとう……対してしょうもない、授業と関係ない、もちろん内申点なんて気にしなくていい、ノートも取らなくてもいい、話をただ聞いてほしい。今日だけだ。今日この時間だけ、僕の話……聞いて欲しい。このあと誰かに話してもいい。でもまず真剣に今から言うことを聞いて欲しい」

 ……さらに静まった。さて、どこから何を話すか。本当にこう言うときは何も考えずに話すからな、俺は。

「みんなはいきなり今死んだらどうしますか」
 って投げかけてみた。何人かはえっといい、ざわつく。

「な、なんだ!? バトロワか?」
 1人のやつが騒ぐとどっと笑い声が上がった。あのかの有名の中学生が殺し合う映画にもなった小説のことだ。かなり前の作品だが、知ってるのは親の影響か。漫画の影響か。

「まぁそういうデスゲームで今すぐ死んだとしたらでもいいけど今この時、それだと猶予ないかもだけど……そういうもんなんだよ。死は隣り合わせなんだ」
「そんな不吉なこと言うなよ。髙橋先生、最近身内に不幸でもあったんですか」
 ……やっぱいきなりこういう話題は唐突だったかもしれんが……。

「最近じゃないけど、一年前にこの学校で教師をやっていた大島先生を知っていますか。二年生だから話か聞いているかもだけど」
 ……俺は目の前の生徒たちは知らない。またざわつく。
「知ってます。去年の今頃ですが、事故で入院中だったけどお亡くなりになって全校集会でお別れ会をしました」
 ……したのか……それは知らなかった。
「髙橋先生もすっごく泣いてたなぁ、わんわん泣いてて……」
「そしたら横にいた槻山先生も泣いてて、三年生が特に泣いてたよな。つられるように」
 そうだったのか。湊音も高橋も……生徒達も……。

「あとお兄ちゃんから大島先生が復帰することを見込んで学校の一部をリフォームしたって聞いてます」
 ……そういうことなのか?! 職員室が移動したのも。ん、今のは剣道部の宮野の弟か? 少し顔が似てるし名前も……同じだ!

「兄から聞いているけど下半身麻痺で車椅子って……そうとうやばかったんじゃない?」
 相当、それ以上にやばかった。でも学校は俺を待っててくれていたのか。

「ああ。大島先生は突然事故に遭った。夜の帰り道で……それまでは普通に教師として仕事をして、部活動で剣道を教え、部下と飲みに行った後……」
 うっ、頭が痛い。思い出すだけでも……。でも堪えてまた話すことにした。


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