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第三章
第30話
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ばあちゃんはすごい困った顔をしている。小橋の野郎……。だから美守も嫌がっていたのか。
そういえば今日は小橋はこの家に来るのだろうか。
『あの男は優しい顔はしているが外面だけじゃ。完全に懲悪ではないが家庭のことは全く疎かにする、若いくせして昭和人間じゃ、って大正生まれのわしが言うのもなんじゃが』
……。まだどの男も俺含めだが昔の考えに縛られたガチガチな男だろ。俺は自覚しているが。……自覚しているつもりだが。うむ。
「美守もあの男を嫌っていた」
『暴力を振るわないんじゃが高圧的な態度を美帆子にしとるからのぉ。目の前で。かわいそうに、母親を目の前で傷つくところを見ているんじゃ』
「いや言葉でそういう行為するのも暴力だよ、ばあちゃん」
『美帆子も傷ついて美守も傷つく。見てられん。結婚したらあっちの親と同居と聞いたんじゃが大抵はうまくいかん』
……それはわかる。妹の若菜も旦那が小橋みたいなやつで義理の親も同居で知り合いがいない中で味方もいなくて苦しんでいた。
そうか、なんとなく小橋を見てるとはらわたが煮えたぎるのは若菜の旦那を思い出すからか。
『ここにも何度か来たんじゃが最初は手を合わせてくれたものの、あまり家にいようとはしない』
「美守に対しては?」
『おもちゃを渡すだけで一緒に遊ぶようなことはしない』
「……」
『美帆子も仕事を辞めて欲しくないんじゃがあいつも仕事ばかりだ。あっちの親たちは美守を守ってくれるのだろうか』
「心配なんだね、ばあちゃん」
『心配じゃ』
でも1人の時でもばあちゃんを始め幽霊たちがいたから寂しくないって言ってた。結婚してあっちでもうまくいけばいいが……。
『幽霊がみえなくなったら美守は一人ぼっちになる』
……。
『わしもわしの親も子供の頃はみえた。美帆子も。じゃがみえなくなってしまいほぼその時の記憶も忘れるんじゃ』
「そうなんだ」
『そうなんじゃ』
でもおばあちゃんは覚えてるんじゃん。
ガラッ
いきなり戸が開いた。美帆子だった。
「もう美守。ここが好きよね。ご飯ができたから来なさい」
「うん……」
「しかも電気つけずに」
電気ついてなかったのか? 気づかなかった。俺は立ち上がらなかった。
「美守?」
「……ばあちゃんを連れていってくれない人のところには行かない」
「えっ……」
『あら、そんなことを言わんくっても』
「考え直して、ねぇ」
「美守……」
「あんな男がお父さんだなんて嫌だ!!!!」
美帆子は苦い顔をする。美帆子、お前だって嫌だろ。嫌なんだろ。誰かが止めないと、救わないと……若菜も俺が助けてやれなかった。手に力が入った。
カタン……
!?
「美守君がそう言うなら……」
小橋?!
「一成さん……」
なんで小橋がここにいるんだ?
「そうか、もうダメだよな……わかったよ君の気持ちは」
「一成さん、ごめんなさい。まだこの子は小さくて、つい」
「つい、ってなんだよ、小さいからってそれが本音だろ。普段何もしゃべらない、遊びもしない、話しかけても気を遣っても笑いやしない! 僕が嫌いだからか」
えっ……。
『美守はあまりこの男とは喋っておらんかったのよ……』
さっきは小橋の方がしゃべったり遊んだりしなかったって。
『……』
ばぁちゃん……!!! 気まずい。この空気。美帆子は狼狽えているし、小橋は固まっているし。
『……わしが好みじゃないのもあるんじゃ。何がなんでも一緒になってほしくない』
ばあちゃんの私情も入ってるんじゃねぇかっ。まぁ俺の私情もなくもないが。小橋の心情といったら……。
「そういうことか、もういい。美帆子……仕事以外のことは連絡してくるな」
「一成さんっ、待って!!!」
あぁ……小橋行っちゃった。ばぁちゃんはフゥと横でため息ついている。……美帆子は小橋の塾で働いている。仕事にも支障をきたしたら……。
美帆子が戻ってきた。暗い顔をしている。
「ごめん……」
これでよかったんだよな、美守は。(ばあちゃんも)
!!
「謝ることないの。少し目が覚めた……」
美帆子が抱きついてきた。力強く。……あぁ、いい匂い。胸があた……じゃなくって!
「もう別れる、あの人とは」
ええええええっ!!!
「そんなに簡単に別れていいの?」
つい言ってしまったが、いやあんなやつとは別れてもいいが……うぬぬ。これだけで別れるって言うとは思わなかった。
美帆子は笑ってる。
「ずっとモヤモヤしていたの。本当は悪くはない人なんだけど仕事人間だし、子供のあやしかたもわからないし、かといって結婚しても家庭のことかえりみずに自分の子供じゃない子達のことばかり考えているじゃない、仕事で。
だから……美守もかわいそうだし。そもそも私のことなんて恋愛感情はあるけどある意味自分の仕事で働く写真の1人である私って言うのもあるから自分の思い通りに授業しないとうるさいし、デート中も仕事の話ばかりでうんざりだったの」
……納得。てかこの手の話は長くなりそうだな。
「それにねぇー結婚したら東京に行くとかね、結婚式の準備だってほとんど私に丸投げだし、かといって決めたこと全否定、家はまだ決まってなかったけど内覧をオンラインでやっていたいけどもう全部あっちの意見ばかりで私ずっと辛かったの。辛いってわかってたのに嫌だって言えなかったけど美守の一押しでもう決めちゃった!」
やっぱりこの話は長くなるか? だけど美帆子の顔は前よりも清々しいものになっていた。でも明日も仕事だろうし……どうするんだろうか。
「塾も辞めるつもり。違うところで仕事をしようと思うの」
……やること早いな。気づかぬところでいろんな準備して考えて。あとは何かの一押しでっていうところまでしているんだなぁ。
「じゃあご飯食べようね」
「うん、ペコペコ」
いい匂いしているから食べたいぞ。美帆子のご飯食べるのは初めてだ。……あ、ばあちゃん……仏壇の方を振り返ったらばあちゃんはいなくなった。
きっとほっとしたから成仏したのか? いやまだ結婚やめたというのは確実じゃないぞ。でもおばあちゃんにとってほっとしたってことなんだあー。
俺はまだ成仏はしなさそうだ。
そういえば今日は小橋はこの家に来るのだろうか。
『あの男は優しい顔はしているが外面だけじゃ。完全に懲悪ではないが家庭のことは全く疎かにする、若いくせして昭和人間じゃ、って大正生まれのわしが言うのもなんじゃが』
……。まだどの男も俺含めだが昔の考えに縛られたガチガチな男だろ。俺は自覚しているが。……自覚しているつもりだが。うむ。
「美守もあの男を嫌っていた」
『暴力を振るわないんじゃが高圧的な態度を美帆子にしとるからのぉ。目の前で。かわいそうに、母親を目の前で傷つくところを見ているんじゃ』
「いや言葉でそういう行為するのも暴力だよ、ばあちゃん」
『美帆子も傷ついて美守も傷つく。見てられん。結婚したらあっちの親と同居と聞いたんじゃが大抵はうまくいかん』
……それはわかる。妹の若菜も旦那が小橋みたいなやつで義理の親も同居で知り合いがいない中で味方もいなくて苦しんでいた。
そうか、なんとなく小橋を見てるとはらわたが煮えたぎるのは若菜の旦那を思い出すからか。
『ここにも何度か来たんじゃが最初は手を合わせてくれたものの、あまり家にいようとはしない』
「美守に対しては?」
『おもちゃを渡すだけで一緒に遊ぶようなことはしない』
「……」
『美帆子も仕事を辞めて欲しくないんじゃがあいつも仕事ばかりだ。あっちの親たちは美守を守ってくれるのだろうか』
「心配なんだね、ばあちゃん」
『心配じゃ』
でも1人の時でもばあちゃんを始め幽霊たちがいたから寂しくないって言ってた。結婚してあっちでもうまくいけばいいが……。
『幽霊がみえなくなったら美守は一人ぼっちになる』
……。
『わしもわしの親も子供の頃はみえた。美帆子も。じゃがみえなくなってしまいほぼその時の記憶も忘れるんじゃ』
「そうなんだ」
『そうなんじゃ』
でもおばあちゃんは覚えてるんじゃん。
ガラッ
いきなり戸が開いた。美帆子だった。
「もう美守。ここが好きよね。ご飯ができたから来なさい」
「うん……」
「しかも電気つけずに」
電気ついてなかったのか? 気づかなかった。俺は立ち上がらなかった。
「美守?」
「……ばあちゃんを連れていってくれない人のところには行かない」
「えっ……」
『あら、そんなことを言わんくっても』
「考え直して、ねぇ」
「美守……」
「あんな男がお父さんだなんて嫌だ!!!!」
美帆子は苦い顔をする。美帆子、お前だって嫌だろ。嫌なんだろ。誰かが止めないと、救わないと……若菜も俺が助けてやれなかった。手に力が入った。
カタン……
!?
「美守君がそう言うなら……」
小橋?!
「一成さん……」
なんで小橋がここにいるんだ?
「そうか、もうダメだよな……わかったよ君の気持ちは」
「一成さん、ごめんなさい。まだこの子は小さくて、つい」
「つい、ってなんだよ、小さいからってそれが本音だろ。普段何もしゃべらない、遊びもしない、話しかけても気を遣っても笑いやしない! 僕が嫌いだからか」
えっ……。
『美守はあまりこの男とは喋っておらんかったのよ……』
さっきは小橋の方がしゃべったり遊んだりしなかったって。
『……』
ばぁちゃん……!!! 気まずい。この空気。美帆子は狼狽えているし、小橋は固まっているし。
『……わしが好みじゃないのもあるんじゃ。何がなんでも一緒になってほしくない』
ばあちゃんの私情も入ってるんじゃねぇかっ。まぁ俺の私情もなくもないが。小橋の心情といったら……。
「そういうことか、もういい。美帆子……仕事以外のことは連絡してくるな」
「一成さんっ、待って!!!」
あぁ……小橋行っちゃった。ばぁちゃんはフゥと横でため息ついている。……美帆子は小橋の塾で働いている。仕事にも支障をきたしたら……。
美帆子が戻ってきた。暗い顔をしている。
「ごめん……」
これでよかったんだよな、美守は。(ばあちゃんも)
!!
「謝ることないの。少し目が覚めた……」
美帆子が抱きついてきた。力強く。……あぁ、いい匂い。胸があた……じゃなくって!
「もう別れる、あの人とは」
ええええええっ!!!
「そんなに簡単に別れていいの?」
つい言ってしまったが、いやあんなやつとは別れてもいいが……うぬぬ。これだけで別れるって言うとは思わなかった。
美帆子は笑ってる。
「ずっとモヤモヤしていたの。本当は悪くはない人なんだけど仕事人間だし、子供のあやしかたもわからないし、かといって結婚しても家庭のことかえりみずに自分の子供じゃない子達のことばかり考えているじゃない、仕事で。
だから……美守もかわいそうだし。そもそも私のことなんて恋愛感情はあるけどある意味自分の仕事で働く写真の1人である私って言うのもあるから自分の思い通りに授業しないとうるさいし、デート中も仕事の話ばかりでうんざりだったの」
……納得。てかこの手の話は長くなりそうだな。
「それにねぇー結婚したら東京に行くとかね、結婚式の準備だってほとんど私に丸投げだし、かといって決めたこと全否定、家はまだ決まってなかったけど内覧をオンラインでやっていたいけどもう全部あっちの意見ばかりで私ずっと辛かったの。辛いってわかってたのに嫌だって言えなかったけど美守の一押しでもう決めちゃった!」
やっぱりこの話は長くなるか? だけど美帆子の顔は前よりも清々しいものになっていた。でも明日も仕事だろうし……どうするんだろうか。
「塾も辞めるつもり。違うところで仕事をしようと思うの」
……やること早いな。気づかぬところでいろんな準備して考えて。あとは何かの一押しでっていうところまでしているんだなぁ。
「じゃあご飯食べようね」
「うん、ペコペコ」
いい匂いしているから食べたいぞ。美帆子のご飯食べるのは初めてだ。……あ、ばあちゃん……仏壇の方を振り返ったらばあちゃんはいなくなった。
きっとほっとしたから成仏したのか? いやまだ結婚やめたというのは確実じゃないぞ。でもおばあちゃんにとってほっとしたってことなんだあー。
俺はまだ成仏はしなさそうだ。
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