誰もが誰かに嫉妬する

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
15 / 22
第五章

第十四話

しおりを挟む
「わざわざ来てくれて悪いね」
大貴くんが営む楽器店に私と幸太は行った。あくまでもギターのメンテナンスってことで。

「子供もできちゃったわけだし結婚する分にはおめでたいと思うけどさ、いくらなんでも……柳はひどいよ」
弦を調整しながら大貴くんは冷静にそう答えた。

「そりゃ先に郁弥が芹香と付き合って結婚したのはやられたーって思ったけどさ。2人が離婚して海外行くって言われたから連絡先教えてって言ったけどダメだった。今は自分を成長させたいって」
「手紙とか来た?」
「手紙? 来ないよ。元々あっちは俺の住所知らないし。スマホも番号変わってたしよ」
……私だけだったのかな、手紙。あ、でも我が家の住所はわかってただけだろうし。
手紙は私だけ、ちょっと優越感浸ってたけどそういうことか。

「……好きとか付き合ってとか言わなかったの?」
大貴は手を止めて笑った。

「聞くよねぇ。……言えなかったよ。いままで告白もできなかった俺がさ、離婚して傷ついてでも新しい道に向かう彼女に向かっては軽率に好きだなんて言うタイミングではなかった。そんなこというと言い訳がましくなるけど」
大貴くんは告白するよりもされるタイプだもんね。でも1番の芹香さんからは告白されなかった。

「でも嫌いではなかったと思います」
幸太はそう言う。前からは知り合いだったけど今回の余興でたくさん話すようにはなった仲。
「君……なんでそう思うの?」
「成美も知ってるだろ。クラスでさ生徒たちに揶揄われて好きなタイプはとか言われた時に顔のタイプの人は垂れ目でーとか」
「垂れ目……」
大貴くんはふと店内の鏡に映った自分を見た。

「僕はわかったから他の生徒がいない時にこっそり大貴くんでしょってきいたら頷いた」
私もわかった。芹香さんの周りの垂れ目は大貴くんしか思い浮かばなかった。

「芹香……よく俺のこと笑うとさらに垂れ目になるから可愛いって」
「まぁでもちょっとチャラいからねぇって」
「はぁああああ……そう見られてたかぁ」
幸太、そこまでは言わないでよ。みんなが知ってることだから。

「俺も可能性あったか……てか柳も笑うと垂れ目になるなぁ。ハハッ」
ああ、確かに。幸太の方見るとウンウンと。

「……明日も練習してるから来てね」
「2人で練習してるの? 郁弥は」
「郁弥にいちゃんは……」
「だよな。無理もないわ……」
と調整を終えて演奏をしてくれた。大貴くんのギターもメンテナンスの時に聞くけど良いもんだ。

「……よし、オッケー」
「ありがとう。大貴くん」
私は大事にケースにしまった。

「芹香さんにもだけど柳さんのためにも良い演奏できると思う、ありがとう」
「……だな。少しでも調整ずれたらあいつはすぐいってくるから。また余興前に見てあげるよ」
「ありがとう」

大貴くんは笑った。垂れ目がさらに垂れ目になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...