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スタート
第二十五話 未亡人
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「はじめまして……」
シバは確かに目の前の女性は美人、と思いながらも目のやり場に困る胸元の開いた服にノースリーブでミニの黒のワンピースを着た黒髪ロングの色気のある女性と対面する。
場所は理事室。ジュリがいなければ……とシバは悶々とする。
「彼女は甘南《かんなみ》……じゃなくて大島三葉《おおしまみつは》さん。私の先輩でもあって同じ養護教員、そして……」
「ここの教員で剣道部顧問だった大島和樹の妻です」
シバはハッとした。大島の妻……つまり未亡人。そう思うだけでシバはごくりと唾を飲み込む。見た目も無くなって半年であり、全身が黒のスタイル、喪に服している。
夫を亡くした三葉はとても美しい小柄な女性だった。
「ジュリ、この方が元警察官の方?」
「そうよ。冬月シバさん。大島先生のように剣道の腕前も日本一、刑事時代も活躍してたと紹介されたわ」
「あらまぁ……素晴らしい。そんな方が警察を辞められたなんて」
シバは三葉に褒められてでれっと笑う。辞めた理由は色々あってのことで深掘りされると困るのだが、ここまで褒められるとなると顔をクールに、は無理であった。
ジュリにつねられシバは痛っと言う声を押し殺して笑って取り繕う。
「今日はお会いできて光栄です。みなさんからご主人のことを聞いたり、剣道室のトロフィーや賞状を見たりする限りでは大島先生も本当に素敵な方と」
と、柄にも合わずそう言ってみるシバ。隣のジュリは睨んでいる。
「いえ、主人はただの剣道バカですから……」
シバは驚く。こんな美人からバカと言う言葉が発せられるとは、と。
ますます彼女の魅力に取り憑かれたシバ。
「……教育にも熱心で今でも生徒さんたちが代わる代わるうちに来ては主人の話をしてくれるんです。私もよその学校で働いていましたから彼の教師としての姿を見たことは教育実習の時以来無いですからね……ええ」
少しずつ声が小さくなっていく三葉。まだ夫を亡くして半年、しょうがないであろう。シバはその姿を見てグッとくるものもあった。下心もありつつ。
「実際にそのひき逃げで亡くなったわけではなくて?」
「ええ、その後入院して意識取り戻した後に……あらなんかやっぱり冬月さん刑事さんだったから取り調べ見たいね」
ふふっと三葉は笑った。
「すいません、そういうことをしてましてね、ずっと。お聞きしてもよろしいでしょうか……お辛いだろうに」
三葉は首を横に振る。
「いえ、大丈夫です。お話ししたくて。……で、意識取り戻したけど下半身麻痺に……意識取り戻してからは上半身はもういつものように元気で。下が動かなくなった分鍛えないとって毎日リハビリに取り組んでました」
「普通なら絶望するのにすごい精神力ですね……そういえば車椅子姿で剣道の大会に来ている姿も写真で見ましたが」
「あら、そこも見てるだなんて流石刑事さん。ええ、交流試合を見に行くと言って連れていったのですが部員の皆さん大泣きで。主人はリハビリ以外はぐったりしてるんですが……その時は大きな声で部員の皆様に……喝を……」
三葉の目から一筋の涙がこぼれた。ジュリがティッシュを差し出し、三葉はありがとうとティッシュで目元を拭いた。
「……その数日後、早く回復せねば……車椅子でも剣道ができるってネットで私がぽろっと言ったことで熱を上げてリハビリしてた時に……手元を誤って……滑らせて床に頭を……強打して……亡くなりました」
「なんという……」
シバは声にはならなかった。ジュリも横で泣いている。
「警察もそうそう捜査を打ち切りにしてしまって解決しなくて……目撃者もいなくて……だからジュリから聞いて、あなたのことを。是非とも力を貸してほしい。犯人にはちゃんと罪を償って欲しい!」
目から大粒の涙を流す三葉。シバは彼女が自分のことを見つめ手を両手で強く握り訴える姿には流石に下心よりも事件解決をと心を奮い立たせた。
そしてシバもそんな彼女のすべすべで柔らかくて白い手を握り返した。
「わかりました。やれるところまでやって見せましょう……大島さんの無念、晴らすためにも」
「ありがとう……ございます」
シバはこの美しき女性を泣かせるだなんてと心苦しくなった。今まで多くの事件を担当した。轢き逃げなんてザラだ。強盗、暴行、殺人……事件に大小はない。
だが瀧本からよく事件一つ一つに情を持つなと言われていたがシバは守れなかった。
「……まだマンションのローンに不妊治療代、色々とお金が必要なんです!」
といきなり三葉の目の色が変わった。シバはびっくりする。先ほどもバカと言う言葉が出た。
「犯人をとっちめて……あと今は遺族として本を出す予定で養護教員しながら原稿を書いていますのでこんな朝早くから……ごめんなさい」
涙をハンカチで拭き、立ち上がった。
「もし何かわかったらすぐ連絡ください! それでは」
と足速に三葉は去ってしまった。シバは何が何だか。
「いつまでも女は弱くいてはダメなのよ。そして取れるところからは取る。生活のためには金が必要なのよ」
「はぁ……」
まさ子もそうだがシバは女の人は本当強い人間だ……と。
しかしシバは思った。
「そうそう捜査を打ち切る……そこが引っかかるなぁ」
と。
ジュリは横で真面目に考え込むシバを見る。
「なぁ、事故現場を見たい。どこにあるんだ?」
シバは確かに目の前の女性は美人、と思いながらも目のやり場に困る胸元の開いた服にノースリーブでミニの黒のワンピースを着た黒髪ロングの色気のある女性と対面する。
場所は理事室。ジュリがいなければ……とシバは悶々とする。
「彼女は甘南《かんなみ》……じゃなくて大島三葉《おおしまみつは》さん。私の先輩でもあって同じ養護教員、そして……」
「ここの教員で剣道部顧問だった大島和樹の妻です」
シバはハッとした。大島の妻……つまり未亡人。そう思うだけでシバはごくりと唾を飲み込む。見た目も無くなって半年であり、全身が黒のスタイル、喪に服している。
夫を亡くした三葉はとても美しい小柄な女性だった。
「ジュリ、この方が元警察官の方?」
「そうよ。冬月シバさん。大島先生のように剣道の腕前も日本一、刑事時代も活躍してたと紹介されたわ」
「あらまぁ……素晴らしい。そんな方が警察を辞められたなんて」
シバは三葉に褒められてでれっと笑う。辞めた理由は色々あってのことで深掘りされると困るのだが、ここまで褒められるとなると顔をクールに、は無理であった。
ジュリにつねられシバは痛っと言う声を押し殺して笑って取り繕う。
「今日はお会いできて光栄です。みなさんからご主人のことを聞いたり、剣道室のトロフィーや賞状を見たりする限りでは大島先生も本当に素敵な方と」
と、柄にも合わずそう言ってみるシバ。隣のジュリは睨んでいる。
「いえ、主人はただの剣道バカですから……」
シバは驚く。こんな美人からバカと言う言葉が発せられるとは、と。
ますます彼女の魅力に取り憑かれたシバ。
「……教育にも熱心で今でも生徒さんたちが代わる代わるうちに来ては主人の話をしてくれるんです。私もよその学校で働いていましたから彼の教師としての姿を見たことは教育実習の時以来無いですからね……ええ」
少しずつ声が小さくなっていく三葉。まだ夫を亡くして半年、しょうがないであろう。シバはその姿を見てグッとくるものもあった。下心もありつつ。
「実際にそのひき逃げで亡くなったわけではなくて?」
「ええ、その後入院して意識取り戻した後に……あらなんかやっぱり冬月さん刑事さんだったから取り調べ見たいね」
ふふっと三葉は笑った。
「すいません、そういうことをしてましてね、ずっと。お聞きしてもよろしいでしょうか……お辛いだろうに」
三葉は首を横に振る。
「いえ、大丈夫です。お話ししたくて。……で、意識取り戻したけど下半身麻痺に……意識取り戻してからは上半身はもういつものように元気で。下が動かなくなった分鍛えないとって毎日リハビリに取り組んでました」
「普通なら絶望するのにすごい精神力ですね……そういえば車椅子姿で剣道の大会に来ている姿も写真で見ましたが」
「あら、そこも見てるだなんて流石刑事さん。ええ、交流試合を見に行くと言って連れていったのですが部員の皆さん大泣きで。主人はリハビリ以外はぐったりしてるんですが……その時は大きな声で部員の皆様に……喝を……」
三葉の目から一筋の涙がこぼれた。ジュリがティッシュを差し出し、三葉はありがとうとティッシュで目元を拭いた。
「……その数日後、早く回復せねば……車椅子でも剣道ができるってネットで私がぽろっと言ったことで熱を上げてリハビリしてた時に……手元を誤って……滑らせて床に頭を……強打して……亡くなりました」
「なんという……」
シバは声にはならなかった。ジュリも横で泣いている。
「警察もそうそう捜査を打ち切りにしてしまって解決しなくて……目撃者もいなくて……だからジュリから聞いて、あなたのことを。是非とも力を貸してほしい。犯人にはちゃんと罪を償って欲しい!」
目から大粒の涙を流す三葉。シバは彼女が自分のことを見つめ手を両手で強く握り訴える姿には流石に下心よりも事件解決をと心を奮い立たせた。
そしてシバもそんな彼女のすべすべで柔らかくて白い手を握り返した。
「わかりました。やれるところまでやって見せましょう……大島さんの無念、晴らすためにも」
「ありがとう……ございます」
シバはこの美しき女性を泣かせるだなんてと心苦しくなった。今まで多くの事件を担当した。轢き逃げなんてザラだ。強盗、暴行、殺人……事件に大小はない。
だが瀧本からよく事件一つ一つに情を持つなと言われていたがシバは守れなかった。
「……まだマンションのローンに不妊治療代、色々とお金が必要なんです!」
といきなり三葉の目の色が変わった。シバはびっくりする。先ほどもバカと言う言葉が出た。
「犯人をとっちめて……あと今は遺族として本を出す予定で養護教員しながら原稿を書いていますのでこんな朝早くから……ごめんなさい」
涙をハンカチで拭き、立ち上がった。
「もし何かわかったらすぐ連絡ください! それでは」
と足速に三葉は去ってしまった。シバは何が何だか。
「いつまでも女は弱くいてはダメなのよ。そして取れるところからは取る。生活のためには金が必要なのよ」
「はぁ……」
まさ子もそうだがシバは女の人は本当強い人間だ……と。
しかしシバは思った。
「そうそう捜査を打ち切る……そこが引っかかるなぁ」
と。
ジュリは横で真面目に考え込むシバを見る。
「なぁ、事故現場を見たい。どこにあるんだ?」
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