18 / 53
一夜の過ち
第十六話 湊音という男
しおりを挟む
「おい、そこまで深刻に考えていたのかよ。てかメインは教職だったんじゃないのか? 剣道だって教職についてから始めたとか言ってたしよ」
湊音は洗剤のついた手でずれたメガネを上げたせいで洗剤がついてしまっている。
「……本当は教職、父が望んだものだった」
「自分で、じやなくて親の敷いたレールに乗った感じか?」
「ああ、子供の頃から俺の背中見て教師になれ、だなんて言われてて。かと言って自分のなりたいものはなかった。だから教職しか僕にはなかった」
シバの食器も洗い始める湊音。シバはその彼の横に立つ。
「でも高校の時にな、あの大島先生が担任になって……そこから考えは変わった」
ほぉ、ここから話長くなるか? とシバは壁に背中をつけ、腕組みをした。完全に右から左へである。
「父は完全に教師、という人間だったが大島先生はとてもラフで。堅苦しくない。まぁとにかく熱い男だった。あの頃の僕にとってはうざったいやつだったが」
「いるよなー、たまに暑苦しいやつ」
とりあえず同調しておくシバ。
「でもその暑苦しさはだんだん違う熱量であることがわかった。彼が剣道をしている時の目、オーラが全く違う。それを見てから授業をまともに受けよう、と思った」
「あれ、その時に剣道はしようとは思わなかったのか?」
シバは少し前のめりになった。
「ああ、やろうとは思わなかった。部活動自体めんどくさいなーって感じで。それは後悔している」
まぁよくわからんな、とシバはまた壁にもたれかかった。
「シバは高卒で警察に?」
「ああ。一応これでも優等生でな」
ふふん! と偉そうにシバは言う。
「信じられない」
「信じろよー。能ある何たらは爪を隠すって言うじゃん? で、湊音も大島さんみたいに堅苦しくない教師になりたいとか言いつつもthe堅苦しい教師じゃないか」
「……そこは……父に似てしまった」
湊音は手を洗ってメガネについた泡を服で拭う。
「ご馳走様。じゃあ僕は帰るよ」
湊音は荷物を手にして帰ろうとするが、シバは玄関を塞ぐ。
「……ちょ、どけよ」
「湊音はよ、昨晩のことはどう思ってんだ?」
「あ、いや……その。事故だと……記憶にないし」
「事故……」
シバはその言い方に唖然とする。湊音はシバの肩を叩いた。
その時だった。
シバは昨晩の記憶を思い出した。
肩を掴むのは自分の下にいる湊音。じっとシバを見ている。トロントした目で。それに惹かれてシバはキスをした……。
という記憶。シバは声が出ない。何故この記憶が?
「じゃあ、ありがとう」
「……お、おう」
湊音は部屋から出て行った。
「事故で済ませるのかよ。なんだあの男は……それになんだ、あの記憶」
ふとテーブルを見ると見覚えのない財布。シバは湊音のだ、と手にして彼を追いかけた。
ドアをダダダダッと降りて一階を降りたところに例の下の階の男と出くわした。
やたらとニヤニヤしている。
「冬月さん、どーしましたか?」
「いや、その……」
さらにニヤニヤする弥富。スゥエット姿だがどうやら1人のようだ。
「弥富さん、今日は……女の子いないんすか?」
「いないよ、今日昼には妻が来るもんでね。呼んだら匂いがついてしまう……で、さぁ」
シバはさっきからニヤニヤされているのが嫌に感じる。
「なんすかさっきから」
「なにって、冬月さんも……昨晩……」
ハッとシバはすぐ反応した。階下の弥富が言いたいことが。
「冬月さんも女の子連れ込んで! もう下まで響いてましたよー激しかった夜、それだけでもいいおかずになりましたよぉ」
記憶にないシバだがやはり自分は昨晩湊音と致してしまったという第三者からの証言を聞き、やはりかぁと頭を抱える。
だがおかずにされたというが、相手は湊音である。それも知らず男同士の営みで……とシバは弥富を同情する。
「お店の子? それとも彼女?」
「ちがうっ、それよりも!」
それよりも湊音である。どこへ行ったのだろうか。シバが財布を出し、弥富に見せる。
「湊音先生の家は知ってるか?」
「ん? 湊音……あーあの人ね。教育委員会会長の息子。すぐ近くのタワマンに住んでるよ」
「タワマン……わかった」
シバは指さされたところに見える唯一高いマンションをみてすごいところに住んでいるなぁと思っていたら
「それ湊音先生のかい? 拾ったの?」
「……あ、ああ。一応俺は用務員でな」
「へぇ。てかあの湊音先生と仲良いのですか?」
弥富にはフゥン、という感じだったがやはり昨夜のシバの相手が湊音というのはわかってない。そしてその言い方に引っかかったシバ。
「あのってなんだ? 確かにちょっと変わったやつだが」
「変わったどころじゃないよ。彼の父である会長はこの学区内でもすごく有名な良い先生で先日も先生のパーティがあった時に多くの同窓生が来て僕らも応援に行ったけどとても物腰の柔らかい人だったのに……その人の息子とは思えないくらい。多分会長もさ、他人の子は上手く育てられても自分の子は上手く育てられなかった……あ、この話はここだけにしてくれよな」
「……」
聞いてもいないことをあけすけに話す弥富に対してシバはため息をついた。そしてニヤッと笑った。
「またお前の弱み握ったからな。何かあったら……それ言ってやるからな」
「ひぃ」
「わかったか?」
シバがニヤッと笑うと弥富はしまった、という顔をして部屋に入っていった。
「たく、湊音……」
湊音は洗剤のついた手でずれたメガネを上げたせいで洗剤がついてしまっている。
「……本当は教職、父が望んだものだった」
「自分で、じやなくて親の敷いたレールに乗った感じか?」
「ああ、子供の頃から俺の背中見て教師になれ、だなんて言われてて。かと言って自分のなりたいものはなかった。だから教職しか僕にはなかった」
シバの食器も洗い始める湊音。シバはその彼の横に立つ。
「でも高校の時にな、あの大島先生が担任になって……そこから考えは変わった」
ほぉ、ここから話長くなるか? とシバは壁に背中をつけ、腕組みをした。完全に右から左へである。
「父は完全に教師、という人間だったが大島先生はとてもラフで。堅苦しくない。まぁとにかく熱い男だった。あの頃の僕にとってはうざったいやつだったが」
「いるよなー、たまに暑苦しいやつ」
とりあえず同調しておくシバ。
「でもその暑苦しさはだんだん違う熱量であることがわかった。彼が剣道をしている時の目、オーラが全く違う。それを見てから授業をまともに受けよう、と思った」
「あれ、その時に剣道はしようとは思わなかったのか?」
シバは少し前のめりになった。
「ああ、やろうとは思わなかった。部活動自体めんどくさいなーって感じで。それは後悔している」
まぁよくわからんな、とシバはまた壁にもたれかかった。
「シバは高卒で警察に?」
「ああ。一応これでも優等生でな」
ふふん! と偉そうにシバは言う。
「信じられない」
「信じろよー。能ある何たらは爪を隠すって言うじゃん? で、湊音も大島さんみたいに堅苦しくない教師になりたいとか言いつつもthe堅苦しい教師じゃないか」
「……そこは……父に似てしまった」
湊音は手を洗ってメガネについた泡を服で拭う。
「ご馳走様。じゃあ僕は帰るよ」
湊音は荷物を手にして帰ろうとするが、シバは玄関を塞ぐ。
「……ちょ、どけよ」
「湊音はよ、昨晩のことはどう思ってんだ?」
「あ、いや……その。事故だと……記憶にないし」
「事故……」
シバはその言い方に唖然とする。湊音はシバの肩を叩いた。
その時だった。
シバは昨晩の記憶を思い出した。
肩を掴むのは自分の下にいる湊音。じっとシバを見ている。トロントした目で。それに惹かれてシバはキスをした……。
という記憶。シバは声が出ない。何故この記憶が?
「じゃあ、ありがとう」
「……お、おう」
湊音は部屋から出て行った。
「事故で済ませるのかよ。なんだあの男は……それになんだ、あの記憶」
ふとテーブルを見ると見覚えのない財布。シバは湊音のだ、と手にして彼を追いかけた。
ドアをダダダダッと降りて一階を降りたところに例の下の階の男と出くわした。
やたらとニヤニヤしている。
「冬月さん、どーしましたか?」
「いや、その……」
さらにニヤニヤする弥富。スゥエット姿だがどうやら1人のようだ。
「弥富さん、今日は……女の子いないんすか?」
「いないよ、今日昼には妻が来るもんでね。呼んだら匂いがついてしまう……で、さぁ」
シバはさっきからニヤニヤされているのが嫌に感じる。
「なんすかさっきから」
「なにって、冬月さんも……昨晩……」
ハッとシバはすぐ反応した。階下の弥富が言いたいことが。
「冬月さんも女の子連れ込んで! もう下まで響いてましたよー激しかった夜、それだけでもいいおかずになりましたよぉ」
記憶にないシバだがやはり自分は昨晩湊音と致してしまったという第三者からの証言を聞き、やはりかぁと頭を抱える。
だがおかずにされたというが、相手は湊音である。それも知らず男同士の営みで……とシバは弥富を同情する。
「お店の子? それとも彼女?」
「ちがうっ、それよりも!」
それよりも湊音である。どこへ行ったのだろうか。シバが財布を出し、弥富に見せる。
「湊音先生の家は知ってるか?」
「ん? 湊音……あーあの人ね。教育委員会会長の息子。すぐ近くのタワマンに住んでるよ」
「タワマン……わかった」
シバは指さされたところに見える唯一高いマンションをみてすごいところに住んでいるなぁと思っていたら
「それ湊音先生のかい? 拾ったの?」
「……あ、ああ。一応俺は用務員でな」
「へぇ。てかあの湊音先生と仲良いのですか?」
弥富にはフゥン、という感じだったがやはり昨夜のシバの相手が湊音というのはわかってない。そしてその言い方に引っかかったシバ。
「あのってなんだ? 確かにちょっと変わったやつだが」
「変わったどころじゃないよ。彼の父である会長はこの学区内でもすごく有名な良い先生で先日も先生のパーティがあった時に多くの同窓生が来て僕らも応援に行ったけどとても物腰の柔らかい人だったのに……その人の息子とは思えないくらい。多分会長もさ、他人の子は上手く育てられても自分の子は上手く育てられなかった……あ、この話はここだけにしてくれよな」
「……」
聞いてもいないことをあけすけに話す弥富に対してシバはため息をついた。そしてニヤッと笑った。
「またお前の弱み握ったからな。何かあったら……それ言ってやるからな」
「ひぃ」
「わかったか?」
シバがニヤッと笑うと弥富はしまった、という顔をして部屋に入っていった。
「たく、湊音……」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる