冬月シバの一夜の過ち

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
14 / 53
一夜の過ち

第十二話 号泣する男

しおりを挟む
 シバは寮にもどると、女の子を連れ込んだ男性教員の弥富が部屋に入ってくるところだった。自分よりも年上かと思ったら見た感じそうでもないようだとシバはじろっと見る。

「お疲れ様です……たしか用務員の」
「はい、冬月と申します。上の階に越してきました。まぁもうここにはいられなくなるかもしれませんが」
「あら、早いですね……」
 ニタニタ笑う弥富。

「あ、どこの誰か知らんけど女の子連れ込むのは良くないと思いますよ……あんなヒールで歩かせて。まぁどこのお店の子か知らんけどね」
「……え、な、な、なんのことでしょう」

 シバは閃いた。

「そのことは黙ってますから、もし何かあった時はよろしくお願いしますね」
「は、はい……」

 弥富はたじろいで部屋にあわてて入っていった。

「なんの担保になるかわからんけどな……弱みは握ったもん勝ちだ!」

 シバはまた剣道場に向かった。ジュリたちに途中で会うかもしれないがその時はその時だと。

 あっという間に外は薄暗くなって不気味だ。

「こんな不気味なとこじゃ夜遅くまで練習できんぞ……剣道室も古かったし」

 自分が用務員であったことをすっかり忘れていたシバ。初日からなんたることをと頭を抱えるが剣道場にとりあえず向かう。

 剣道場は明かりがついていた。明かりは薄暗いが。
「まだついている」
 明かりがつく先に向かうと……


「ううううっ」

「うわっ!!!!」
「うわぁああ!!」

 シバはうずくまる黒い物体に驚く。その物体……泣き顔でぐちゃぐちゃな湊音であった。彼もシバの登場に驚いて手のひらで泣き顔を隠すが遅かった。

「な、なにやってんだよ……てか部員や理事長は」
「君こそ帰ったかと思ったら! 他のみんなはもう帰ったよ」
「じゃあお前はずっとそこで泣き喚いてたのか」
「……るさいっ!!! るさいっ!!!」

 と湊音は叫びながら顧問室に入ってしまった。
 そしてシャワーの音。

「ずっと泣いてたのか、ガキか? ……てか雑巾ないのか」

 湊音がうずくまっていた畳の上は涙の跡のシミが。シバは顧問室の雑巾を持ってきて拭く。

「……すまん、そこまでしなくても」
 シャワーから出てきた湊音は上半身裸であった。

「畳がダメになるだろ。てか他のところも悪くなってる。畳をメンテナンスしてるか?」
「……してません。予算がありませんからね」

 シバは立って雑巾を叩きつけた。
「たわけか! 稽古場のメンテナンスもしっかりしろ。足元とか今日沈むところが何箇所あったぞ」
「……すいません」

 湊音に詰め寄るシバ。壁に追い詰める。
「前の顧問の時もこんなんだったのか? 掃除もしっかりできてない」
「……大島先生の時はしっかりしてました」
「じゃあなんでやらないんだ! お前がしっかりしないから部員たちは弱くなっていくんだよ!」

 バン!

 シバは壁に手を当てた。湊音はまた涙目になる。またか、とシバは呆れ顔である。

「……俺がその根性叩き込んでやる! そして今度の大会で優勝して全国大会に行けるようにするぞ!」
「冬月さん……」

 湊音は力が抜けて尻もちをつく。と同時に

 ♪ピンポンパンポーン

 とチャイムが剣道室に響いた。

『シバ先生、よく戻ってきたわね』
「こ、この声はジュリ……理事長! まさか今」
 シバはスピーカーの方を見る。

『管理室よ。あなたったら用務員の仕事も忘れるんだから……初日から』

「す、すいません。そっちからはここが見える……? あ、監視カメラ! こういうところには金掛けてるのか!」

『ええ、見えますわ。この放送も剣道室のみに聞こえるのよ。先ほどからそちらの映像見てましたわ。音声もオンにして』

 湊音はないてるところを見られたかと思い恥ずかしくなったのか手に顔を当てる。

『大丈夫よ、顧問室はプライベート空間ですからカメラはありません。あ、では畳の方のメンテナンス、業者による清掃を早急に取り掛かります。明日明後日は学校休みの日だから』

「ありがとうございます……」
「理事長も外だけでなく中の設備もしっかりしろよな」
 シバはコソッと言ったつもりだったが

『それは申し訳なかったわ……』
 聞こえていたようだ。
「うげっ……てか畳の業者、安いところあるからそこに頼んで欲しいんだが」
 

『はいはい。本日は私がクローズしておくから帰りなさい。湊音先生もね。シバ先生の今後に関してはまた後日……』
 プツっ
 と音が切れた。

「帰るか」
「……ですね」

 ぐうううううううっ

 お腹の音が二人同時に鳴る。
 顔を合わせて見つめ合う。シバはジュリが作り置きしてくれていたシチューでも食べるか、と思っていたが

「……今夜は僕が奢りますよ」
 と湊音がそういうものだから

「じゃあ、飲みに行きましょう。しばらく酒飲んでないから。明日も休みですしねぇ」

 とシバは奢りと知った途端ルンルンに返す。

「新しい顧問の先生が来てくれるとのことで歓迎会のつもりでは今日はいましたが……まだ歓迎はしてませんから。とりあえず食欲を満たすためです」

 と湊音は上の服を着た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

寮生活のイジメ【高校生版】

ポコたん
BL
この小説はBL・性的描写・性的イジメなどが出てきます。 苦手な方はご遠慮ください

処理中です...