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3年目
第四十七話 ハナ……私の過去②
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阿笠先生も知っている。私の過去。お義父さんはお店のカウンターの棚にいくつか写真を飾っている。
みんな気付いているだろうか。私と、お義父さん、そしてお義父さんの隣にいる男の人の写真。
「意外とこれは気づかれない」
と。本当は置かない方がいいんじゃない? と思ったけど大事な写真。この三人で撮ったのはこれだけなんだもの。私との2人の写真はあるけど。親と撮るのは恥ずかしいって。
男の人はお義父さんの息子であり、
私の夫だった人。森巣馨《もりすけい》。苗字が森巣で名前が馨。私とお義父さんは『馨』と、周りは『モリス』と呼んでいた。顔は思いっきり和顔でモリスってギャップあるよね、と笑ってた。生きていれば28歳。……トクさんはいくつなんだろう。私より少し上。常に笑ってて周りを明るくしてくれる人で。
モリスと出会ったのは6年前。私が二十歳になった頃かな。
私の本名は、森巣花。『ハナ』と大野ちゃんが名付けてくれたけど漢字は普通の花。
私たちの出会いは岐阜でなくて名古屋、深夜の名駅前の通り。路上ライブで私はギター片手に弾き語りライブをしていた。
子供の頃から音楽が好きで。ピアノやギターを習っていたのにも関わらず、親にはちゃんとした仕事に就けとか言って大喧嘩して少ない荷物とギター片手に頑張って貯めたバイト代握りしめて家出して名古屋に住み、一人音楽をやり、空いた時間はアルバイトの日々。
見た目は今とは正反対でみんなびっくりすると思う。
髪の毛は金髪、つけまつげに赤いルージュの濃いメイク、革ジャンに短いジーパン、紫のカラータイツ。でも歌うのはバラードというアンマッチ。女の子一人でパフォーマンスするとなるとからかわれる。今の格好にしたら少し減った。
その日も私はダンボールに『愛を込めて歌います edo』と書いた看板を置きギターケースを足元に広げて置いた。
旧姓は恵土《えど》だから「エド」→「edo」。そこにチップを入れてもらうためだ。
少し冷える夜だが私は歌う。足を止める人がいなくても、私は歌う。それが私の生きがいだった。
一曲終わり、少し聞こえるまばらな拍手。この通りはいくつかのグループや人が演奏やパフォーマンスをしている。人気なところには人が群がる。
私のところは……ん?
「e-d-o-?」
看板の前に座って文字を読み上げる一人の黒尽くめの男の人。
「エドって読むんです」
「カッコいいじゃん。でも歌うのは優しい愛の歌だけど……てかさ本当の愛、知らないだろ? 歌詞に深みがない、感情がない」
と初対面で失礼なことを笑顔で言う男こそ、森巣馨だった。目元の笑い皺で少し年上の人だって分かる顔。彼も背中にギターケースを担いでいた。
「じゃあ貴方は本当の愛、知ってるの?」
彼は立ち上がって……すごく背が高い。150センチもない私は厚底シューズ履いてるけどまだ彼を見上げる。
「うーん、まぁそれなりに? ……それよりもまた歌って」
ヘラヘラして笑う彼は後ろの方に座って私を見ている。最悪な印象だったけど許せたのはずっと彼は笑顔だったから。
一人にじっと見られて歌うのは恥ずかしいけど二曲くらい歌ったところでそろそろ撤退する時間。少しチップは入ったけどCD買ってくれる人はいない。自分でカラオケに行って録音した自主制作のだけど。
「俺、一枚買うよ。いやこれ全部頂戴」
「えっ、その……」
「友達に配るから」
「……ありがとう……」
「ございました、でしょ。良かったからまた聞きにくるよ。俺、モリス。多分この辺では名前通じるから。よろしくな」
CD代と一緒にもう一万渡された。
「お茶とか差し入れ渡したいけど怖いでしょ? これで何か食べて」
「いえ、結構です……」
「いいからっ。将来返せよ」
とめっちゃ手を握られてなかった私を見て笑って彼は去っていった。大きな手、暖かかった。
……よく思えばこれ、私のはじめての推しからのプレゼントかも知れない。
それからまた次の時にも来てくれた。嬉しかった。からこそが私の最初のファンだ。
みんな気付いているだろうか。私と、お義父さん、そしてお義父さんの隣にいる男の人の写真。
「意外とこれは気づかれない」
と。本当は置かない方がいいんじゃない? と思ったけど大事な写真。この三人で撮ったのはこれだけなんだもの。私との2人の写真はあるけど。親と撮るのは恥ずかしいって。
男の人はお義父さんの息子であり、
私の夫だった人。森巣馨《もりすけい》。苗字が森巣で名前が馨。私とお義父さんは『馨』と、周りは『モリス』と呼んでいた。顔は思いっきり和顔でモリスってギャップあるよね、と笑ってた。生きていれば28歳。……トクさんはいくつなんだろう。私より少し上。常に笑ってて周りを明るくしてくれる人で。
モリスと出会ったのは6年前。私が二十歳になった頃かな。
私の本名は、森巣花。『ハナ』と大野ちゃんが名付けてくれたけど漢字は普通の花。
私たちの出会いは岐阜でなくて名古屋、深夜の名駅前の通り。路上ライブで私はギター片手に弾き語りライブをしていた。
子供の頃から音楽が好きで。ピアノやギターを習っていたのにも関わらず、親にはちゃんとした仕事に就けとか言って大喧嘩して少ない荷物とギター片手に頑張って貯めたバイト代握りしめて家出して名古屋に住み、一人音楽をやり、空いた時間はアルバイトの日々。
見た目は今とは正反対でみんなびっくりすると思う。
髪の毛は金髪、つけまつげに赤いルージュの濃いメイク、革ジャンに短いジーパン、紫のカラータイツ。でも歌うのはバラードというアンマッチ。女の子一人でパフォーマンスするとなるとからかわれる。今の格好にしたら少し減った。
その日も私はダンボールに『愛を込めて歌います edo』と書いた看板を置きギターケースを足元に広げて置いた。
旧姓は恵土《えど》だから「エド」→「edo」。そこにチップを入れてもらうためだ。
少し冷える夜だが私は歌う。足を止める人がいなくても、私は歌う。それが私の生きがいだった。
一曲終わり、少し聞こえるまばらな拍手。この通りはいくつかのグループや人が演奏やパフォーマンスをしている。人気なところには人が群がる。
私のところは……ん?
「e-d-o-?」
看板の前に座って文字を読み上げる一人の黒尽くめの男の人。
「エドって読むんです」
「カッコいいじゃん。でも歌うのは優しい愛の歌だけど……てかさ本当の愛、知らないだろ? 歌詞に深みがない、感情がない」
と初対面で失礼なことを笑顔で言う男こそ、森巣馨だった。目元の笑い皺で少し年上の人だって分かる顔。彼も背中にギターケースを担いでいた。
「じゃあ貴方は本当の愛、知ってるの?」
彼は立ち上がって……すごく背が高い。150センチもない私は厚底シューズ履いてるけどまだ彼を見上げる。
「うーん、まぁそれなりに? ……それよりもまた歌って」
ヘラヘラして笑う彼は後ろの方に座って私を見ている。最悪な印象だったけど許せたのはずっと彼は笑顔だったから。
一人にじっと見られて歌うのは恥ずかしいけど二曲くらい歌ったところでそろそろ撤退する時間。少しチップは入ったけどCD買ってくれる人はいない。自分でカラオケに行って録音した自主制作のだけど。
「俺、一枚買うよ。いやこれ全部頂戴」
「えっ、その……」
「友達に配るから」
「……ありがとう……」
「ございました、でしょ。良かったからまた聞きにくるよ。俺、モリス。多分この辺では名前通じるから。よろしくな」
CD代と一緒にもう一万渡された。
「お茶とか差し入れ渡したいけど怖いでしょ? これで何か食べて」
「いえ、結構です……」
「いいからっ。将来返せよ」
とめっちゃ手を握られてなかった私を見て笑って彼は去っていった。大きな手、暖かかった。
……よく思えばこれ、私のはじめての推しからのプレゼントかも知れない。
それからまた次の時にも来てくれた。嬉しかった。からこそが私の最初のファンだ。
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