恋の味ってどんなの?

麻木香豆

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第八章 決めた!

第四十話

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 そうこうしてる間に時雨も弁当屋で働きにやってきた。
 この日は日曜。朝からの仕事でさくらもやってきた。どうやら娘の様子が気になったようだ。
 朝の仕込みをしている里枝夫婦のもとに菓子折りを持ってきたさくら。

「ありがとね、わざわざ。藍里ちゃんは本当可愛くてお客様にも人気で活気づいてるよ」
「ご迷惑おかけしてませんか。この子はその……」
「あー、もうもう。お母さん、さくらさんだっけ。姉さんから聞いてるけど自分や自分の娘下げんのやめな。藍里ちゃんはがんばってるから。てか手伝ってくれない?」
「え?」
 とさくらが店に来てすぐの対応である。さくらは藍里と目を合わせたがなんのことかわからない。

「ちょーっと今日パートの人が急用でね。子供調子悪いからって。時雨さん来ても間に合わん。藍里ちゃん調理補助、さくらさん、あんたレジやって」
「はい?」
「姉さんからもあなたのことは色々聞いてる。とにかく今は手伝って」

 さくらは菓子折り渡して帰って久しぶりの日曜休みで寝ようと思っていたようだ。

「ママ、そういうことらしいから……エプロン、これ」
「レジなんて学生のバイト以来触ってないよ」
「大丈夫。レジはタブレットだからすごく簡単なの。私でもわかったから、わからなかったらこのはてなのボタン押せばなんとかなる!」
 藍里自身も補助に入るのはなかなかない。が、時雨の補助となると大丈夫なのかな、と思いつつ、時雨もこの日初めてで多忙を極めるのには不安になるかと思いきやタオルを頭に巻き、Tシャツ姿にエプロン、気合が入っている。

「忙しいが一番仕事しやすいです! 今日からよろしくお願いします!」
 と満遍な笑顔。とてもワクワクしてる少年のよう。藍里はいつも家で家事や料理をしているからか彼が料理をしてるのは見慣れているが、家とは違った雰囲気を横で感じてドキッとしたが今はそんな場合ではない、と手を動かした。

 途中から配達を終えた清太郎も手伝いに合流する。
「今日からよろしくね」
 時雨は清太郎にニコッと笑った。
「あ、はい……よろしくお願いします」
「藍里ちゃんもさ、僕の真似してやってくれてるから宮部くんも真似してな」
 清太郎は藍里の様子を見てると時雨ほどどはないがテキパキとやっている。

「藍里、やればできるんじゃん」
「へへへ、よく時雨くんの料理作ってるところ見てたんだ」
「へぇ……見るだけじゃおぼわらん」

 レジではさくらが久しぶりだとか言いながらも明るく接客をしている。
「声が通るねぇ、さくらさんも」
 里枝もかなり声が大きく通っている方だが、さくらの明るい声と笑顔で彼女初めてみるお客さんもすんなりと受け入れている。

 藍里はさくらが舞台女優をやっている映像を子供の頃に見た時のことを改めて思い出した。
 とても生き生きして表情豊かな彼女をみて自分も女優になるんだ! と。それをさくらに伝えたら
『お母さんの分まで頑張って。わたしが支えてあげるから!』
 と涙目で藍里を見ていた。でもその表情は舞台に立っていた母よりも暗かった。

 時雨と付き合ってからのさくらは少しずつ声の大きさも表情も変わってきた。でもまだ綾人から受けた言葉の暴力に怯えている。

 でも今日は久しぶりに明るいさくらを見て藍里はホッとする。
 仕事の時もきっとこれくらい明るく振る舞っているのだろうか。知らない男性たちに自分の裸を見せる役として演じているのであろう。

 自分達の生活のために。

 藍里はグッと手に力が入る。
「……がんばんなきゃ」
 とつい口からこぼれた。
 清太郎はそれに気づいたがそっと見守っていた。

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