恋の味ってどんなの?

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
33 / 59
第六章 父の面影

第三十三話

しおりを挟む
 台所のコンロの前で時雨は適当に掴んでカゴに入れたライターでタバコに火をつける。久しぶりなのかなかなかつかない。
「前はさジッポーだっだんだよね」
 ようやく火が出て口に咥えたタバコに火がついた。

「お父さんもジッポーだったよ」
「そうなんだ。でも面倒な時はコンロの火でやってたけどね、あー久しぶりだー」
 とコンロの換気扇に煙が行くように時雨は煙を口から吐いた。

「てか藍里ちゃん、座ってなよソファーで。タバコ吸ってるの君に見られるの恥ずかしいな」
「なんで? 私こうやって台所で吸うパパを見てた」
「……そうなんだ。なんかさ、僕の吸う姿がヤンキーみたいだってさくらさんに言われたことある」
「そんなこと言われたんだ。たしかに時雨くんがタバコ吸うイメージ無いなぁ」
 でしょでしょ? と時雨は笑う。

「タバコ買うために慌ててコンビニ行ったの?」
「……まぁ、ね。やっぱ見られるの恥ずかしいや。あっち行ってて」
「わかったよ。終わったらまた来て」
 時雨は久しぶりのタバコを味わう。しかし灰皿がない、それに気づく。

 置いてあったジャムの瓶に灰を落とした。


 時雨はソファーに戻り、藍里の横に座る。
「どうだった? 久しぶりのタバコ」
「うまかった」
「そんなもんなの? よくわかんないけど」
 藍里は時雨の横に行く。ほのかに香るタバコの匂い。時雨はブランケットを取ろうとするが藍里は首を横に振った。

「だめだよ」
 と言われても藍里は時雨に抱きついた。服にまとわりついたタバコの煙の匂い。さっきよりも時雨の鼓動が強いと気づくがブランケットに包まれてる時よりも温もりがさらに伝わる。自分自身もドキドキするのに近くにいたくなる。不思議な気持ちである。
「タバコの匂い、服についてるね」
「だね……」
 時雨も藍里を優しく抱きしめる。柔らかい。さっき沖田に罵られて怒りを抑えきれなかった自分を癒してくれる、そんな気持ちであろう。そして守ってやりたい。……しかしさっきはタオルケットを包んで抱き締めていたが今は違う。そのまま藍里を抱きしめている。さっき走って解消したばかりなのにな、と時雨は少し困った。
 そうこうしてるうちに藍里は時雨の腕の中で寝ていた。
 まだこうやって抱きしめてやりたいが如何にもこうにも理性が保てないと感じた時雨はゆっくりと体をずらして藍里を横たわらせた。

 と、その直後だった。
「ただいまー」
 玄関からさくらの声がした。時雨は慌てて藍里との距離を離してソファーに座る。

 さくらはまだこの時間には帰ってこないはずだったが。
「お、おかえり……早かったね。ご飯の用意できてないよ」
 振り返るとさくらが少し疲れ切った顔をしていた。

「いいよ、まだ食欲ないし。会社の人に今日はもういいよって言われたの。藍里、寝ちゃってるね。こんなとこで寝なくてもいいのに」
「部屋で寝るよりここがいいって」
 するとさくらが鼻ひくひくさせる。

「なんか臭い、タバコ?」
 時雨はハッとした。タバコの吸い殻を台所のジャムの瓶に捨てたまま置いてあったことを思い出した。隠そうと立ち上がったがさくらが近づいてきて服を匂う。

「やっぱり……タバコ吸った?」
「はい……吸いました」
 さくらはもしかしてと台所に行くとタバコの箱と吸い殻を見つけた。

「もう吸わないでって言ったよね」
「ごめん、ついコンビニ行った時に……」
「まぁいいけど、没収。藍里もいるんだから……」
 さくらは自分のカバンの中にタバコとライターを入れた。
「あのさ、あとちょっと聞きたいんだけど」
「なにを」
「……藍里と二人きりの時何してるの」
 時雨はドキッとした。

「テレビを見たり、話をしたりとかゲームとかしたり……」
 流石に今日のことは言えない。

「ふうん……まぁ20も下だしね、話は合うの?」
「まぁそこそこ、藍里ちゃんも最近のことよりもさくらさんの影響で昔のドラマとか好きみたいだし」
「そっか……」
 さくらは少しそっけない。機嫌をまた損ねてしまったかと時雨はソワソワする。

「僕はさくらさんも藍里ちゃんも大事にしたい。幸せにする」
「何を急に。もう幸せにしてもらってるよ十分」
 時雨はハッとした。藍里も似たようなことを言っていた。時雨はさくらを抱きしめた。

 やはり二人は匂いも感触もちがう、さくらなら心置きなく抱きしめられるのか首元にキスをする。
 さくらもぎゅっと抱き返す。
「ごめんね、さっきは嫉妬したの」
「嫉妬?」
「うん、わたしといるより藍里との時間が長いから何してるんだろって気にしちゃった」
「嫉妬しちゃうのか……」
 さくらは時雨にキスをした。さらに身体を密着させる。時雨は藍里との抱擁で少し乱れた理性が崩れかけていた。
「さくらさん、まだ体調良くないんだろ? だめだよ」
「大丈夫……最近してないから溜まってるよ、時雨くん」
「いいの? 生理なんだろ?」
「もうピークは過ぎた……少し血はあるけど」
「休まなきゃ、無理はだめだよ」
「大丈夫……」
「さくらさんっ!!!」

 もう時雨は限界だった。タバコのそばにコンビニの袋があった。その中の避妊具をすぐ使うとは思わなかった。

 そしてその二人の愛し合う声を寝たふりをしていた藍里は聞いていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

どん底韋駄天這い上がれ! ー立教大学軌跡の四年間ー

七部(ななべ)
ライト文芸
高校駅伝の古豪、大阪府清風高校の三年生、横浜 快斗(よこはま かいと)は最終七区で五位入賞。いい結果、古豪の完全復活と思ったが一位からの五人落ち。眼から涙が溢れ出る。 しばらく意識が無いような状態が続いたが、大学駅伝の推薦で選ばれたのは立教大学…! これは快斗の東京、立教大学ライフを描いたスポーツ小説です。

行くゼ! 音弧野高校声優部

涼紀龍太朗
ライト文芸
 流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。  そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!  同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日 *『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』 本編は完結。番外編を不定期で更新。 11/11,11/15,11/19 *『夫の疑問、妻の確信1~3』  10/12 *『いつもあなたの幸せを。』 9/14 *『伝統行事』 8/24 *『ひとりがたり~人生を振り返る~』 お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで *『日常のひとこま』は公開終了しました。 7月31日   *『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。 6/18 *『ある時代の出来事』 6/8   *女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。 *光と影 全1頁。 -本編大まかなあらすじ- *青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。 林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。 そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。 みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。 令和5年11/11更新内容(最終回) *199. (2) *200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6) *エピローグ ロンド~廻る命~ 本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。  ※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。 現在の関連作品 『邪眼の娘』更新 令和6年1/7 『月光に咲く花』(ショートショート) 以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。 『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結) 『繚乱ロンド』の元になった2作品 『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

処理中です...