恋の味ってどんなの?

麻木香豆

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第六章 父の面影

第二十九話

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「おれさ、藍里が学校にこなくなって家に行ったら血相変えて探し回ってるお前のお父さんがいたんだ……お前は知らないか? っていつも優しかった人だったのにすごく目の敵にされたかのように……怖かった。俺だってどこに行ったかわからなかった、知りたかった」
「ごめんね……」
「あのあと何度も知らないって言っても嘘だ、藍里と一番仲よかっただろって。なんとかして逃げて家帰ったら家にも来て、母ちゃんにたいしてもどっかに匿ったろって。姉ちゃんはびっくりして泣いてた。二人だって藍里たちがいなくなったこと知らなかったし」
「宮部くんの家まで行ったの、パパ」
藍里はふと綾人がさくらに対して攻めている時の言動を思い出す。普段はよその人の前では見せない姿を他の家庭でも見せたのかと。

「母ちゃんは知らないの一点ばりで家に上がらせないようにしたけどちょうど父ちゃんが早くに帰ってきて……説得して帰ってもらったよ」
藍里は自分達が逃げた後の地元の様子は一切知らない。

「そのあとお前の父ちゃんもだけど学校に連絡したんだろうな。俺らも街の中探した。でも母ちゃんは何か知ってそうだったけど……」
「ママに宮部くんのお母さんの話したらなんでかわからないけど黙っちゃった」
清太郎の胸元で香る匂い、時雨とは違った石鹸と有名メーカー度シャンプーの匂い。こんなに近くにいたのは初めてだ。この間の時雨との距離以上に近すぎてドキドキが増す。

「来週くらいに母ちゃんと姉ちゃんがこっち来る。会わせてやってもいいか。俺もいるから」
「わからない。多分だけど過去のことから完全に断絶したいんだよ、ママは」
「でも断絶してほしくない、母ちゃんのことは。俺らはこうして出会えたんだ。だから……」
藍里は首を横に振った。清太郎はそうか、と少し悲しげだった。

「宮部くんに会えたのは本当に嬉しかった。知らない人ばかりで不安だったの。岐阜から離れて神奈川行ってもうまく人間関係も築けなくて……」
「俺たちだけはずっと繋がっていたい。俺は藍里の味方。それに俺の母ちゃんも藍里と藍里の母ちゃんの味方。それだけは忘れるな」
清太郎はじっと見つめる。藍里は涙を拭いて頷いた。

二人の顔が近くにある。じっと見つめ合う……だが清太郎はハッと我に帰って二人は体を離した。互いに真っ赤な顔になっている。
「……まぁそれより、っていうか身体休ませて学校に戻ってこい。これからポストにコピー入れておくから。毎回毎回家上がってきをつかわせるのもだから。ねぇ、時雨さん」
と二人でリビングのドアの方を見ると数秒後に開いた。時雨は再びリビングに来ていたのであった。

「……今さっきこっちに戻ってきて、その……」
「大丈夫です、そんな仲ではないですから。学校の方では俺がいますので安心してください、今は藍里にとって癒しの一つは時雨さんといることみたいだから」
「だといいな……」
時雨は藍里を見ると彼女は微笑んだ。

「じゃあ俺は帰ります」
「あ、宮部くん……待って」
藍里は自分の部屋からあの封筒を持って行った。

「これなんだけど、先生に渡してほしい」
「おう、わかった」
「ママ、ちゃんと会社の名前書いたから。どこかわからないけどきっとママは私たちのために一生懸命働いている。私もそれに応えて早く元気になって勉強しなきゃ」
と書類の職業欄を見せた。

「エージェントタウン……」
「知ってる? 宮部くん」
「知らない。接客業っていってたけども」
時雨もやってきた。清太郎は書類をしまった。

「宮部くん、弁当屋で働く話はまた連絡するよ」
「わかりました。いつでも面接OK、すぐ働いてもOKだそうなんでお待ちしてます」
そう言って清太郎は帰って行った。すこし時雨はほっとため息をつく。が振り返ると藍里が彼を見ていたことに驚く。

「……時雨くん、何聞いてたの」
「いや、その……ところどころ。だってきになるじゃん……男と二人きりで。さくらさんにも朝言われたんだよ……宮部くん来ても極力二人きりにさせるなって」
「……だからって盗み聞きも酷いじゃん」
「ごめんね、藍里ちゃん~」
すると藍里はべーっと下を出し
「なぁんてねっ。もう、時雨くん心配しすぎ。過保護だよ」
と笑った。

「だよね、過保護だよね……さあさあ片付けしなきゃね。藍里ちゃんは座って休んでなさい」
と時雨は皿を片付ける。

藍里はソファーに座ってクッションに顔を埋める。

「なんで……先に宮部くんと会えなかったんだろう……」
時雨のことは好き、でも幼馴染であり本当は初恋の清太郎と距離を縮められなかったのだろう。苦しくなる。そして頭が痛くなり、そのままソファーにゴロンと横になったのであった。


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