恋の味ってどんなの?

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
19 / 59
第四章 心の傷

第十九話

しおりを挟む
 少しチーズポテトを食べ、バイトに行ったがやはり生理1日目もあってしんどかった藍里。
 仕事中は頭もぼーっとして社員の沖田から怒られたり、他の先輩から学校帰りに一緒にいたのは誰? と店からやはりみられていたらしく、揶揄われた。

 少しでも生理による貧血の改善にと店のレバニラ炒めを食べるが、やはり美味しいという感じではなさそうだ。

 明日もこの調子でバイトはまた入っている。しかも土曜日。家族連れも多くなる。尚更忙しい日と生理のピークが被るのはアウトである。しかもただでさえ一番気の許せる理生が学校の授業の関係でいないというのが一番大変である。

 憂鬱になりながらもバイトを終えてエレベーターで部屋に戻る藍里。玄関のドアを開けた途端に例の敷きパッドのことを思い出した。

「ただいま! 時雨くんっ……」
 するとリビングにはさくらがいた。少し機嫌は良さそうである。

「おかえり。あんたの作ったチーズポテト、最高だったよ」
「よかった、多めに作っておいて。どう、体調」
「……すこぶるいいわ。カイロお腹と背中に貼られたからね」
 と、立ち上がっていちいち見せつけるさくら。時雨に貼ってもらったものだ。

 ふと藍里は思い出した。昔もさくらが生理で苦しんでいる時に横になっているだけでも父が機嫌悪かったことを。
 生理がまだきてなかった藍里にとって月に一回、母の調子が悪そうな時があったがしんどそうな母の背中をさすったら
「ありがとう。やさしいのね」
 といってくれたことを思い出す。そんな藍里も五年生の時に生理になったが、自分もお腹痛かったり、辛かったりしても言ってはダメな気もして我慢していた。恥ずかしさもあってなのか。

 だからこそ時雨の優しさが染み入る。きっとさくらもそうだろう、と。

「おかえり、藍里ちゃん」
「ただいま」
「疲れ顔だね。早くお風呂入って寝てね。もうさくらさんも僕もお風呂入ったから」
「ありがとう」
 時雨はエプロンを脱ぎ、洗面所に向かっていった。藍里は敷きパッドのことを言おうと追いかけようとしたが、さくらに手招きされる。

「あんた、汚したならちゃんとしなさいよ」
 あっ、と藍里は声が出た。
「一度シャワー浴びようと洗濯機の前の籠見たら血の汚れ落ちてない敷きパッドがあったから私が洗っておいた」
「ごめん……なさい。やるつもりが忘れちゃった」
「時雨くんはその辺のセンシティブなことは戸惑ってしまうからね。今日はタオル敷いて寝なさいよ」
 そうさくらが言ったタイミングで時雨が戻ってきた。

「どうした?」
 藍里母娘の会話をしていた間に入ってしまったかな、気不味そうな顔をしている。
「なんでもない……あ、ママ。学校から書類の書いてないところしっかり書いてくださいって」
 藍里は慌てて部屋に戻って書類の入った袋を持ってきてさくらに渡した。

「……明後日までに、って言われた」
 嘘である。さくらは昔から忘れやすいことが多く、それを綾人に指摘されて罵られていたのだが、その後もさくらの忘れやすさは直らない。藍里の中で対策はあって期限がなくても何日までにと設定してさくらに促すようにしているのだ。
 明日までの方がいいと思ったが夜遅いため明後日までにとしたのも娘である優しさなのだろう。

「はいはい……あ、これね。接客業じゃダメなの」
「ダメだって」
 さくらはため息をついて何か悩んでる。
「わかったわ。明後日の朝に渡すから。仕事行く前に」
「無理しちゃダメだよ。今日明日ゆっくり休んで……」
「そうよー。私働かないと2人養っていけないから」
「僕もその分この家のこと頑張ります」
 時雨は少しばつの悪い顔をしている。さくらの横に座った。

「そいや藍里、進路相談が今度あるって」
「あ」
 忘れやすいさくらだがたまに変なタイミングで思い出すこともある。藍里は普通にこの後部屋に戻ろうとしたが。

「まぁここに越したばかりだし、学校とかわからないよね。岐阜に住んでた頃に比べれば名古屋の大学には通いやすいからね。あ、別に大学じゃなくても就職でもいいけどさ」
「そうだね……まだ考えてない。ママは〇〇女子大だっけ」
「そう。高校で演劇部、大学で演劇サークル……授業は色々と文化を学んでたわ。まぁ何も今に生かされてないけど」
 鼻で笑うさくら。

「藍里、女子大はやめときな。社会に出たらいきなり男社会に放り出されて何もできないわよ。ママはすぐ結婚だったけど……あんたを入れてた芸能事務所でマネージャーしてた時に痛感したわ」
「うん……」
 心の中で今このタイミングでこの話題にさせてしまったことにヒヤッとした藍里。またネガティヴになりそうだと。

「あ、僕は高校卒業して調理専門学校に入ってそこから紹介してもらったところでずっと働いてた。学生時代二つくらい料理系のバイトしてたんだ。お金より経験……」
 手を上げて明るくそういう時雨。

「え、どこのバイト?」
「聞く聞く?」
 こうやってネガティヴを和ませてくれるのが時雨である。少しホッとした藍里。少し遅くまで時雨の話を聞いてこの日は終えた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

行くゼ! 音弧野高校声優部

涼紀龍太朗
ライト文芸
 流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。  そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!  同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日 *『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』 本編は完結。番外編を不定期で更新。 11/11,11/15,11/19 *『夫の疑問、妻の確信1~3』  10/12 *『いつもあなたの幸せを。』 9/14 *『伝統行事』 8/24 *『ひとりがたり~人生を振り返る~』 お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで *『日常のひとこま』は公開終了しました。 7月31日   *『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。 6/18 *『ある時代の出来事』 6/8   *女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。 *光と影 全1頁。 -本編大まかなあらすじ- *青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。 林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。 そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。 みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。 令和5年11/11更新内容(最終回) *199. (2) *200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6) *エピローグ ロンド~廻る命~ 本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。  ※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。 現在の関連作品 『邪眼の娘』更新 令和6年1/7 『月光に咲く花』(ショートショート) 以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。 『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結) 『繚乱ロンド』の元になった2作品 『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

こうして僕らは獣医になる

蒼空チョコ@モノカキ獣医
ライト文芸
これは獣医学科に通い始めた大学一年生たちの物語。 獣医といえば動物に関わる職業の代名詞。みんながその名前を知っていて、それなのに動物園や動物病院で働く姿以外はほぼ知られていないという不思議な世界。 大学の獣医学科とは、動物の治療にも死に立ち会ったこともない学生たちが、獣医師というものに成長していく特別な場所だ。 日原裕司が入学した大学には、専門的な授業を受けるほかに、パートナー動物を選んで苦楽を共にする制度がある。老いた動物、畜産動物、エキゾチックアニマルなど、『パートナー』の選び方は様々。 日原たちはそんな彼らと付き合う中で大切なことを学び、そして夢に向かって一歩ずつ進んでいく。 ただの学生たちが、自分たちの原点を見つけて成長していく物語。

処理中です...