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第四章 心の傷
第十九話
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少しチーズポテトを食べ、バイトに行ったがやはり生理1日目もあってしんどかった藍里。
仕事中は頭もぼーっとして社員の沖田から怒られたり、他の先輩から学校帰りに一緒にいたのは誰? と店からやはりみられていたらしく、揶揄われた。
少しでも生理による貧血の改善にと店のレバニラ炒めを食べるが、やはり美味しいという感じではなさそうだ。
明日もこの調子でバイトはまた入っている。しかも土曜日。家族連れも多くなる。尚更忙しい日と生理のピークが被るのはアウトである。しかもただでさえ一番気の許せる理生が学校の授業の関係でいないというのが一番大変である。
憂鬱になりながらもバイトを終えてエレベーターで部屋に戻る藍里。玄関のドアを開けた途端に例の敷きパッドのことを思い出した。
「ただいま! 時雨くんっ……」
するとリビングにはさくらがいた。少し機嫌は良さそうである。
「おかえり。あんたの作ったチーズポテト、最高だったよ」
「よかった、多めに作っておいて。どう、体調」
「……すこぶるいいわ。カイロお腹と背中に貼られたからね」
と、立ち上がっていちいち見せつけるさくら。時雨に貼ってもらったものだ。
ふと藍里は思い出した。昔もさくらが生理で苦しんでいる時に横になっているだけでも父が機嫌悪かったことを。
生理がまだきてなかった藍里にとって月に一回、母の調子が悪そうな時があったがしんどそうな母の背中をさすったら
「ありがとう。やさしいのね」
といってくれたことを思い出す。そんな藍里も五年生の時に生理になったが、自分もお腹痛かったり、辛かったりしても言ってはダメな気もして我慢していた。恥ずかしさもあってなのか。
だからこそ時雨の優しさが染み入る。きっとさくらもそうだろう、と。
「おかえり、藍里ちゃん」
「ただいま」
「疲れ顔だね。早くお風呂入って寝てね。もうさくらさんも僕もお風呂入ったから」
「ありがとう」
時雨はエプロンを脱ぎ、洗面所に向かっていった。藍里は敷きパッドのことを言おうと追いかけようとしたが、さくらに手招きされる。
「あんた、汚したならちゃんとしなさいよ」
あっ、と藍里は声が出た。
「一度シャワー浴びようと洗濯機の前の籠見たら血の汚れ落ちてない敷きパッドがあったから私が洗っておいた」
「ごめん……なさい。やるつもりが忘れちゃった」
「時雨くんはその辺のセンシティブなことは戸惑ってしまうからね。今日はタオル敷いて寝なさいよ」
そうさくらが言ったタイミングで時雨が戻ってきた。
「どうした?」
藍里母娘の会話をしていた間に入ってしまったかな、気不味そうな顔をしている。
「なんでもない……あ、ママ。学校から書類の書いてないところしっかり書いてくださいって」
藍里は慌てて部屋に戻って書類の入った袋を持ってきてさくらに渡した。
「……明後日までに、って言われた」
嘘である。さくらは昔から忘れやすいことが多く、それを綾人に指摘されて罵られていたのだが、その後もさくらの忘れやすさは直らない。藍里の中で対策はあって期限がなくても何日までにと設定してさくらに促すようにしているのだ。
明日までの方がいいと思ったが夜遅いため明後日までにとしたのも娘である優しさなのだろう。
「はいはい……あ、これね。接客業じゃダメなの」
「ダメだって」
さくらはため息をついて何か悩んでる。
「わかったわ。明後日の朝に渡すから。仕事行く前に」
「無理しちゃダメだよ。今日明日ゆっくり休んで……」
「そうよー。私働かないと2人養っていけないから」
「僕もその分この家のこと頑張ります」
時雨は少しばつの悪い顔をしている。さくらの横に座った。
「そいや藍里、進路相談が今度あるって」
「あ」
忘れやすいさくらだがたまに変なタイミングで思い出すこともある。藍里は普通にこの後部屋に戻ろうとしたが。
「まぁここに越したばかりだし、学校とかわからないよね。岐阜に住んでた頃に比べれば名古屋の大学には通いやすいからね。あ、別に大学じゃなくても就職でもいいけどさ」
「そうだね……まだ考えてない。ママは〇〇女子大だっけ」
「そう。高校で演劇部、大学で演劇サークル……授業は色々と文化を学んでたわ。まぁ何も今に生かされてないけど」
鼻で笑うさくら。
「藍里、女子大はやめときな。社会に出たらいきなり男社会に放り出されて何もできないわよ。ママはすぐ結婚だったけど……あんたを入れてた芸能事務所でマネージャーしてた時に痛感したわ」
「うん……」
心の中で今このタイミングでこの話題にさせてしまったことにヒヤッとした藍里。またネガティヴになりそうだと。
「あ、僕は高校卒業して調理専門学校に入ってそこから紹介してもらったところでずっと働いてた。学生時代二つくらい料理系のバイトしてたんだ。お金より経験……」
手を上げて明るくそういう時雨。
「え、どこのバイト?」
「聞く聞く?」
こうやってネガティヴを和ませてくれるのが時雨である。少しホッとした藍里。少し遅くまで時雨の話を聞いてこの日は終えた。
仕事中は頭もぼーっとして社員の沖田から怒られたり、他の先輩から学校帰りに一緒にいたのは誰? と店からやはりみられていたらしく、揶揄われた。
少しでも生理による貧血の改善にと店のレバニラ炒めを食べるが、やはり美味しいという感じではなさそうだ。
明日もこの調子でバイトはまた入っている。しかも土曜日。家族連れも多くなる。尚更忙しい日と生理のピークが被るのはアウトである。しかもただでさえ一番気の許せる理生が学校の授業の関係でいないというのが一番大変である。
憂鬱になりながらもバイトを終えてエレベーターで部屋に戻る藍里。玄関のドアを開けた途端に例の敷きパッドのことを思い出した。
「ただいま! 時雨くんっ……」
するとリビングにはさくらがいた。少し機嫌は良さそうである。
「おかえり。あんたの作ったチーズポテト、最高だったよ」
「よかった、多めに作っておいて。どう、体調」
「……すこぶるいいわ。カイロお腹と背中に貼られたからね」
と、立ち上がっていちいち見せつけるさくら。時雨に貼ってもらったものだ。
ふと藍里は思い出した。昔もさくらが生理で苦しんでいる時に横になっているだけでも父が機嫌悪かったことを。
生理がまだきてなかった藍里にとって月に一回、母の調子が悪そうな時があったがしんどそうな母の背中をさすったら
「ありがとう。やさしいのね」
といってくれたことを思い出す。そんな藍里も五年生の時に生理になったが、自分もお腹痛かったり、辛かったりしても言ってはダメな気もして我慢していた。恥ずかしさもあってなのか。
だからこそ時雨の優しさが染み入る。きっとさくらもそうだろう、と。
「おかえり、藍里ちゃん」
「ただいま」
「疲れ顔だね。早くお風呂入って寝てね。もうさくらさんも僕もお風呂入ったから」
「ありがとう」
時雨はエプロンを脱ぎ、洗面所に向かっていった。藍里は敷きパッドのことを言おうと追いかけようとしたが、さくらに手招きされる。
「あんた、汚したならちゃんとしなさいよ」
あっ、と藍里は声が出た。
「一度シャワー浴びようと洗濯機の前の籠見たら血の汚れ落ちてない敷きパッドがあったから私が洗っておいた」
「ごめん……なさい。やるつもりが忘れちゃった」
「時雨くんはその辺のセンシティブなことは戸惑ってしまうからね。今日はタオル敷いて寝なさいよ」
そうさくらが言ったタイミングで時雨が戻ってきた。
「どうした?」
藍里母娘の会話をしていた間に入ってしまったかな、気不味そうな顔をしている。
「なんでもない……あ、ママ。学校から書類の書いてないところしっかり書いてくださいって」
藍里は慌てて部屋に戻って書類の入った袋を持ってきてさくらに渡した。
「……明後日までに、って言われた」
嘘である。さくらは昔から忘れやすいことが多く、それを綾人に指摘されて罵られていたのだが、その後もさくらの忘れやすさは直らない。藍里の中で対策はあって期限がなくても何日までにと設定してさくらに促すようにしているのだ。
明日までの方がいいと思ったが夜遅いため明後日までにとしたのも娘である優しさなのだろう。
「はいはい……あ、これね。接客業じゃダメなの」
「ダメだって」
さくらはため息をついて何か悩んでる。
「わかったわ。明後日の朝に渡すから。仕事行く前に」
「無理しちゃダメだよ。今日明日ゆっくり休んで……」
「そうよー。私働かないと2人養っていけないから」
「僕もその分この家のこと頑張ります」
時雨は少しばつの悪い顔をしている。さくらの横に座った。
「そいや藍里、進路相談が今度あるって」
「あ」
忘れやすいさくらだがたまに変なタイミングで思い出すこともある。藍里は普通にこの後部屋に戻ろうとしたが。
「まぁここに越したばかりだし、学校とかわからないよね。岐阜に住んでた頃に比べれば名古屋の大学には通いやすいからね。あ、別に大学じゃなくても就職でもいいけどさ」
「そうだね……まだ考えてない。ママは〇〇女子大だっけ」
「そう。高校で演劇部、大学で演劇サークル……授業は色々と文化を学んでたわ。まぁ何も今に生かされてないけど」
鼻で笑うさくら。
「藍里、女子大はやめときな。社会に出たらいきなり男社会に放り出されて何もできないわよ。ママはすぐ結婚だったけど……あんたを入れてた芸能事務所でマネージャーしてた時に痛感したわ」
「うん……」
心の中で今このタイミングでこの話題にさせてしまったことにヒヤッとした藍里。またネガティヴになりそうだと。
「あ、僕は高校卒業して調理専門学校に入ってそこから紹介してもらったところでずっと働いてた。学生時代二つくらい料理系のバイトしてたんだ。お金より経験……」
手を上げて明るくそういう時雨。
「え、どこのバイト?」
「聞く聞く?」
こうやってネガティヴを和ませてくれるのが時雨である。少しホッとした藍里。少し遅くまで時雨の話を聞いてこの日は終えた。
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