最高で最強なふたり

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
54 / 99
美佳子と虹雨

美佳子と虹雨3

しおりを挟む
 コウは美佳子お手製のプリンを食べながら話を聞くことにした。
「わたしはね、一応養鶏場継ぐっていうテイで農学校出身だったんだけどさ……やっぱりおしゃれ好きだし、都会に憧れて、ちょうど親とも仲悪くて逃げるように東京に来て、好きなブランドのお店で働いてたの。まぁ楽しいし、芸能人もたくさん見たし。でも何か物足りなかった」
 美佳子は綺麗になったキラキラの爪をいじる。
「美佳子さんは倖田來未さんか浜崎あゆみさんといえば倖田來未さんの方が好きそうやな」
「うんうん! クゥちゃん大好きー!」
「姉ちゃんがよう聞いとった」
「そうなんだーんでさ、でさ」
 美佳子は話を逸らされるのは嫌なようだ。
「仕事は楽しかったけど家は寝て帰るようなもん……ご飯もレトルトとかコンビニ弁当。抜く時もあったわ。あと友達もできなくて。そんな私を見かねた地元の友達からメールが来たの」
「ほぉ」
「招待制のWebサービス⚪︎ixiだったの」
 コウはまたでた、⚪︎ixiと思うが彼女にとっては重要なコンテンツだったようだ。

「⚪︎ixiに招待されてから地元の友だちと交流するようになってすごく懐かしい気持ちになったし仕事もセーブしなきゃなぁって少し都心から離れたアパレル店に転職したんだ」
 やっぱり話が長くなりそうだ、と思いながらも底にカラメルがあるかもしれないとか期待しながら奥を掘り進めても無いことに少しガッカリするコウ。でも普通にプリンは美味しい。

「転職してから余裕が出てから親とは何とか仲直りできてさ、うちからたくさん卵が定期的に送られてきて。食べることをおざなりにしていた私はおばあちゃんやお母さんが教えてくれた料理を思い出しながら毎日自炊するようになったんだよー」
「食は大事や。俺もできるだけ自炊しとるわ」
「すごいね! でも大変でしょ」
「大変だけど、健康のこと考えたら」
「私も、最初のころの不健康な生活が祟って病院通い……あのころの自分に叱ってやりたい!」
 美佳子は見た目丸っとしていで、病気をしているようには感じ取れなかった。

「でもさ、彼氏はなかなかできなくってさ。たまたま⚪︎ixiのなかでのコミュニティで『農学校卒業した人』というのがあってそこでの集まりが近くであったから行ったの。そこで出会ったのがあっくんなのです!」
 話のゴールが見えてきた、とホッとし底つきたプリンの容器を美佳子にご馳走様、とコウは渡した。

「まわりの中で派手すぎて浮いていた私に全く振り向いてくれなくて……一応お友達になったけどさ。で、あっくんが熱出して倒れた時に押しかけてたまご粥を作ってあげたら……そこで告白されたの」
「押しかけたまご粥!」
「押しかけとか言わないで……ついでに風邪もらっちゃったけどいい思い出」
 美佳子は思い出に浸っていた。


「それから付き合い始めて半年、私の実家の養鶏場に行きたいって、あっくんが言ってくれたの」
「自分から彼女の実家に行きたいっていうのはなかなかおらんな」
「でしょー。ずっと料理作ってあげてたし、ふふふ」
「彼の家の実家の酪農場はお兄さんが継いでて、自分もなにかやりたかったって。だから実家の養鶏場見て僕に継がせてください! って私のプロポーズの前に言ったのよ……」
 コウは笑ったが、少し怒った顔の美佳子を見てへこへこした。

「でも嬉しかった……ちゃんとあの後プロポーズし直してくれたし。だから私もあと半年仕事をして引き継いで退職なのよ」
「そか、ちゃんとしてるんやなぁ……あっくんは」
 自分のラブロマンスを語って美佳子はスッキリしたようである。が。
「それにしてもコウくんはなんでここにいるの」
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

池の主

ツヨシ
ホラー
その日、池に近づくなと言われた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

虫喰いの愛

ちづ
ホラー
邪気を食べる祟り神と、式神の器にされた娘の話。 ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。 三万字程度の短編伝奇ホラーなのでよろしければお付き合いください。 蛆虫などの虫の表現、若干の残酷描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 『まぼろしの恋』終章で登場する蝕神さまの話です。『まぼろしの恋』を読まなくても全然問題ないです。 また、pixivスキイチ企画『神々の伴侶』https://dic.pixiv.net/a/%E7%A5%9E%E3%80%85%E3%81%AE%E4%BC%B4%E4%BE%B6(募集終了済み)の十月の神様の設定を使わせて頂いております。 表紙はかんたん表紙メーカーさんより使わせて頂いております。

いなくなって、若返ったお父さんは、私のヒーローになって、永遠の共犯者になった。

かざみはら まなか
ホラー
【永遠不変のものは、あるの?】 お父さんは、私が中学生になる前に、仕事に行けなくなった。 休職して、退職して家にいたお父さんは、変わりたいと言って、ある日、お金を持って家からいなくなった。 私が物心ついたときから、お父さんは、私の面倒をみて、お母さんは妹の面倒をみていた。 お父さんがいなくなっても、その関係は変わらない、なんて思わなかった。 高校生になった私は、お父さんによく似た男の人に会った。 学校から家に向かう方向とは逆方向にある公園で、私達は出会った。 その男の人は、仕事に行けなくなる前の元気でいたお父さんにそっくり。 私が最後に見たお父さんの姿に比べたら、十歳近く若い見た目。 私達は、薄暗くなる公園のベンチで話をするようになった。 話をすればするほど、お父さんと話をしている錯覚に陥った。 でも、お父さんなら、娘と会って、知らんぷりなんて、しないよね? ある雨の日、危ない目にあっていた私を助けにきてくれたその人は、初めて私の名前を呼んだ。 『もう大丈夫だよ、きーちゃん。』 いなくなったお父さんだけが、呼んでいた呼び方で。 お父さんは、私に、したいことしたい、欲しいものを欲しいと言わせてくれる。 私は、もうずっと叶えたい望みがある。 私の家族は、お父さん、お母さん、妹。 私は、家族に、私を愛して大事にしてほしい。 だから、私と生きるために、変わってもらうね。 大人しく待っているだけのお姉ちゃんはもういないの。 ※物語が進むにつれて、ホラー要素の比重が増えます。

日記「905号室」

noi
ホラー
905号室の日記の記録

心霊スポットで今からYouTuberたかしを襲撃する

ギール
ホラー
「大人気YouTuberたちと一緒にあるホラーゲーム企画に参加することになったが、ジュンヤも参加しないか?」  小中学校の頃の友達でゲーム実況で有名YouTuberになったたかしから誘われた俺は、心霊スポットへ向かう。  その企画とは、かつて俺たちが夢中になったホラーゲーム『閉鎖村』の元になった心霊スポット『旧日暮村跡地』でYouTuberたちと一緒に実況するといったこれまでにないイベントだ。  俺はかつての友達と出会える喜びや、ファンと一緒に当時遊んだあの閉鎖村の思い出を語りながら楽しむ予定だったのだが、会場の奥の廃寺で血まみれの男が乱入。  俺は目の前に起きた怪奇現象を受けてだんだん狂っていき…

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...