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~冒険者ギルドの依頼~
第37話 魔食紅蓮丸
しおりを挟む朝は雲雀のような鳥の鳴き声で起床する。
久しく深く眠ったため、まだ頭がぼーっとして目が覚めない。
体感的にはまだ6時ごろだろうか、リリはいびきを立てミーシャは寝相が良すぎて死んでいるのかと一瞬考えてしまった。
ハルトは立ち上がり、少しほつれているカーテンを開けて日光を部屋に取り込んだ。
太陽の眩しさに目が眩むが、「光量調整」によってすぐに戻る。
「――さて今日は何をしようか」
ハルトはまず昨日買った魔力を吸収する指輪をアイテムボックスから取り出し、指に嵌めた。
金のリングに紫の魔石がはめ込まれたその指輪は、フィリップ曰く魔力の少ない者が使用すると魔力枯渇によって最悪死に至る、とのことだ。
今は魔力を抑えているがこれでもかなり漏れているので、初対面で警戒されないようにと買ってみたのだ。
指輪を嵌めた途端、少しくすぐったい感触とともに魔力が吸われていく。
微々たるものだが確かにハルトの魔力は薄まっていく。
しかしすぐにパリン、と音を立てて魔石が割れてしまい貯蔵された魔力は霧散する。
「流石に吸いきれないか…」
だが素材を解析してより強い効果の持つ指輪を製作すれば、いつか完全に吸い取ることもできるだろう。いいアイデアを買ったな。
「もう朝ですか…、ハルト様おはようございます」
リリより先にミーシャが起きた。
窓から差し込む光によって朝だと気づく。
ちょうどハルトは武器製作に取り掛かろうとしていたところだった。
「これからリリの武器作るけど、見る?」
「いいのですか!是非!」
ミーシャは急いで髪を櫛でとかしてハルトのもとに歩み寄った。
ハルトは床にあぐらをかき、自分のベッドをポンポン、と叩いてミーシャはそこに座る。
「創造」によってオリハルコンやミスリル銀を生成することは可能だが、とても時間がかかる上に本物と比べると質も劣りやすい。
結局ハルトは”ミスリル銀”を刀身に採用した。
手に持ったごつごつとしたミスリル銀は、薄く伸ばされる。
さらにハルトは指をゆっくりとすべらせ、鋭く研磨されていく。
「これ触ったら指が落ちるから気を付けてね」
ミーシャは目の前にある刃物が、そこまで恐ろしいものだということに鳥肌を立てる。
三回ほど繰り返したところで終了し、取り付けた柄に木材と紐を巻き付けた。
何も操作を加えなくても十分に強固なのだが、ミスリル銀は魔力を加えれば加えるほど頑丈になる性質を持つ。
ハルトは仕上げとして刀身に魔力を限界を超えるまで注いだ。
真っ黒であったそれは段々と赤く変色をし、光を放ち始める。
限界を超えて注がれた魔力によって、中で小さな魔力暴走が引き起こされて赤く変色するのだ…推測にはなるが。
これらは夜な夜な見張りをしながら実験をした結果分かったことだ。
赤くなった刀身は常に最高硬度を保てるだけでなく、魔力が飽和しているために、ある程度の魔法をはじき返すことも出来た。もはや刀の枠組みを超えているだろう。
「――できた。持ってみる?」
「…は、はい」
ミーシャは息を呑んで受け取るが、その手は震えている。
思わず緋色の美しい刀身に見惚れてしまう。
「――あっ」
ミーシャは顔を近づけじっくりと見ていたためか、刀が両手から落ちてしまう。
地面に向かって落ちた刀はにゅるっと床に突き刺さった。
突然天井から刃物が生えてきた女将は絶叫したことだろう。
「ご、ごめんなさい!!」
「大丈夫だよすぐ直すから」
ハルトは鍔で止まった刀を抜き、床を「創造」で修復した。
この恐ろしい切れ味の刀を”魔食紅蓮丸”と名付けた。
実に厨二病心をそそられるネーミングだが、その性能に見合った名前だろう。
リリが起きたら渡してやろう、とハルトは黒い鞘に”魔食紅蓮丸”を納めてアイテムボックスに仕舞った。
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