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〜グローリア王国にて〜

第7話 ご馳走

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名前は分かるがステータスを覗いたと聞くと、きっとさらに警戒されるので一応聞くこととした。

しゅん、と垂れた猫耳の少女はやっと口を開いた。

「……助けてくれて、ありがとうございます。名前は…ミーシャと言います」

話している時でも、あまり目を合わせてはくれない。
その様子は酷く怯えているようにも見える。
ハルトは頬をポリポリと搔きながらミーシャに聞いた。

「…あのー、僕ってそんなに怖い?」

やっと少しだけ目を合わせてくれた。

「そ、その――魔力が…」

ミーシャに聞くと、ハルトは恐ろしい魔力量を放っているらしく。
そこらの魔物よりもよほど怖いのだそうだ。
―ハルトは完全に自覚症状なしだった。

「それって、抑える方法あったりする…?」

ハルトはミーシャを怖がらせないように柔らかい物腰で問いかける。
ミーシャは一瞬考えた後、何かを思い出したかのように言葉を発した。

「あ、ある程度の技術があれば、溢れる魔力を心臓に抑え込むイメージで可能だと聞いたことがあります…」

やはりイメージなのか魔法は。為になる事を聞くことができたので、ハルトは早速目を瞑りやってみることにした。
――まずは自分を客観視する。三人称視点で自分を見てみるとなるほど、身の毛もよだつ程の魔力だ。
それらを少しずつかき集め、心臓にしまっていく。

ある程度魔力をしまった頃にはハルトの体には生気が満ち、溢れてくるような力を感じる。
莫大な魔力を体に封じ込めたことにより、体の性能が上がっているのだろう。

「…これでどうかな?」

目をまん丸にしたミーシャは無言で二度頷く。

「す、すごいです、あっという間に」

ある程度の技術が求められるという事だったので成功するか疑わしかったが、上手にできたようだ。

「―それで、なにがあったのか教えてくれるかな?」

ミーシャは沈黙を破り、口を開いた。

「何日か前に1人でお花を摘みに、草原まで出かけたんです。そしたらそこを狙っていた盗賊達に襲われて……」

そしてさらに、ミーシャの目に涙が込み上げる。

「……そっか。ご飯、食べて無いでしょ。ご馳走してあげるから、とりあえず王国に戻ろう」

黙ってミーシャはコクッと頷く。
ハルトはアイテムボックスから”万能回復薬”を取り出し、ミーシャに飲ませる。
すると顔の擦り傷や、膝の傷もたちまち治っていった。

――ハルトはミーシャを担ぎ、自分の泊まっている宿へ向かった。
宿の前でミーシャを下ろし、宿に入る。
そしてせっせと料理を運ぶ女将に話しかけた。
この店は宿舎兼、居酒屋としても開いているようだ。

「女将さん、この子を泊めたいんだが、一部屋空いてるか?」

その猫耳を見た女将は驚くが、すぐにカウンターに来て、お会計してくれた。会計中、ハルトに耳打ちをする。

「あんた、その子どっから連れてきたんだい?」

「あぁ、盗賊に捕まってたのを助けたんだよ」

「へぇ、1人で盗賊をやっつけたのかい?まぁいいさ、ご飯食べさせてあげな。すぐ作ってやるから」

なんと気前のいい女将さんなのだろうか。
ハルトはミーシャを部屋に連れて行き、アイテムボックスにしまってあったワイシャツを渡す。

「…これ、1日しか着てないから。とりあえずこれに着替えて」

「……分かりました」

そう言ってミーシャは部屋を出て、自分の部屋で着替えた。

――戻ってきて、ワイシャツを着たミーシャが口を開いた。下着は履いているんだろうな、危ないぞ。
ベッドに座るハルトはぽんぽん、と自分の隣を叩く。
そしてそこにミーシャがぺこりと会釈して腰を下ろす。

「改めて…本当に、助けていただき、ありがとうございます。あの…お名前は?」

「俺は…ハルト。タナカ ハルトだよ」

「…珍しいお名前ですね」

「――あぁ、この世界では珍しいのか」

「まぁ俺の名前はなんでもいいさ、ご飯食べよう」

その言葉を聞いたミーシャは頭に「?」を浮かべている。

ハルトとミーシャは1階に降りて、席に着く。
先程の犬耳少女が注文を聞きにくる。

「何をお持ちしましょ~か!」

ハルトは顎に手を当て、メニュー表をじっくりと見た。
さっき固い肉食べたばっかりだからあんまりお腹は空いてないんだよな。

―これはラム酒か。異世界に来たら是非飲まなくては。
…おっと、俺は未成年であったな。まだ辞めておくか。……飲んだところでハルトを罰する者は誰も居ないが。

「じゃあ、俺は果実搾りだけで」

「ミーシャは?」

ミーシャは渡されたメニュー表をじっと見て、指をさす。

「…じゃあ、これをお願いします」

「はい、羊肉のピザですね!」

犬耳の少女がメモを取る。

「あ、果実搾りとピザ2つずつで」

それを聞いたミーシャは「え、なんで?」とも言いたげな顔で目を丸くしていた。

「今日ぐらい沢山食べな、遠慮はしなくていいから。残ったら俺食べるし」

なんせギフトのお陰で「王宮が買えるのでは?」という程に金貨がある。こんなの出費のうちにも入らない。

――数分経ち、犬耳少女が料理を持ってきた。

「お待たせしました~!こちら果実搾り2つと、羊肉のピザ2枚です!」

香ばしい肉の香りに厚いピザの生地、美味そうだ。
オークの肉なんか食べずに、ここで食えば良かったな。

ミーシャは控えめだが余程お腹が空いていたのだろう。ペロリとピザ2枚を平らげてしまった。
ハルトは追加で野菜など色々頼み、ミーシャの腹をいっぱいにした。

そのままミーシャを風呂に連れて行ったあと、俺たちは部屋の前に戻った。
……もちろん、風呂は覗いてないぞ。育ち盛りであろう女の子の風呂を覗き見する程、俺はゲスではない。

「じゃあ、ミーシャの部屋はここだから。なんかあったら呼んでくれ」

「分かりました、おやすみなさい。ご飯、美味しかったです」

そう言って、自分の部屋に戻った。
ハルトも自分の部屋に入り、布団に身を投じた。

「――明日は、ミーシャの服の買い出しだな」

横になり、天井を見上げながら呟いたハルトは、その意識をシャットダウンさせた。
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