彼が幸せになるまで

花田トギ

文字の大きさ
上 下
6 / 43
寺内侑吾27歳、独身、子持ち

近藤くんも登場です

しおりを挟む
 今回もどう返答しこの場を去ろうかと考え込んでいると、鷹司が顔を近付け覗き込んできた。顔に触れられるかと思った刹那、手首を後ろから引っ張られた。突然の出来事に重心が揺らぎ、後ろにひっくり返りそうになる。
「ご、ごめん寺内さん!」
 慌てた様子の彼の胸に、無事支えられ転倒は免れた。彼の声はとても心地よくて、安心して背中を預けられた。胸元から見上げると、思った通り侑吾が会いたかった人物がいた。そこには近藤夏輝が申し訳なさそうに人の良さそうな太い眉を下げている。
 一部を刈り上げたスポーティーな髪型、引き締まった筋肉はコンテストに出られそうなほど出来上がっている。いい筋肉は柔らかいと聞くが、たしかに先ほどクッションになった近藤の胸筋は柔らかかった。
「こっちこそ、ぶつかってしまいすみません」
 離れ難い己を律し、自然と近藤から離れながら謝辞の言葉を伝えると、握ったままだった手首が解かれた。それを侑吾は少し残念に感じるが、握られていた手首をもう片方の手で握る事で誤魔化した。
「えーずるいぞ。俺も侑吾を胸元で抱きたい」
 鷹司はマシンから降りると両手を広げ侑吾へと近づいてくる。ぎゅっと抱きしめようと両手を挟み込むが、抱きしめたのは空気だけだった。
「……こういうとこだけ素早いよね、君」
「お褒めに預かり光栄です。じゃあ、俺そろそろ業務に戻りますので」
 すんでのところで屈み、鷹司の抱擁を逃れた侑吾はさっさと受付の方へと戻っていってしまう。
 残されたのは長身の男が二人。正しく言えば、周りには二人から一定の距離を保って女性会員が熱視線を送っているのだが、そんなものは気にもしない。ギャラリーを背負いなれているのが鷹司という男だし、ギャラリーを背負いなれている鷹司に慣れてしまっているのが近藤だからだ。
「で、感想は?」
「僭越ながら、触れたのはラッキーかなと」
「……次のボーナス査定下げるように言っとく」
「そんなあ!」
「……冗談だよ!」
 侑吾はまだ知らないが、この二人雇用主と被雇用者の関係だ。
 鷹司が社長を務める会社で近藤は会社員として勤めている。大きな会社なのでお互いの存在を知らぬままジムで知り合った二人は、最初侑吾を巡る恋敵でもあった。ふとしたきっかけでお互いの会社名を知り、近藤は一時は怯んだ。しかし、鷹司の方から仕事とプライベートは別だと言われ、今では対等なライバルとお互いを認めあう仲になっていた。
「しかし、そろそろ私も何か一石投じたいところだね」
「と、言うと?」
「それを思いついていれば既に実行しているよ。恋敵くん」
「い、いや、俺は寺内さんに憧れてるだけですから……」
「ふうん……?」
 近藤にとって寺内は高嶺の花らしい。そこにまだ自分の入る余地があると鷹司は策を練り始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初恋も知らなさそうな恋愛少女漫画家と、恋がしたくてたまらない僕の期間限定な日々

あや
BL
かわいい系男子の高城千早(たかしろちはや)は人気少女漫画家“夕凪(ゆうなぎ)くれあ”の描く恋愛マンガが大好きな専門学校生。好きが高じて、SNSで募集されていた夕凪くれあの期間限定アシスタントに応募し、その座を見事ゲットする。 繊細で人間同士の交流を丁寧に描く作風でありながら、当の夕凪くれあ本人は最小限の人としか関わらない半ひきこもり状態。恋愛漫画しか描かないくせに、恋をしたことがあるのかどうかも怪しい状態。 そんな消極的な漫画家と、積極的に彼氏を作ろうと頑張る千早の期間限定な共同制作の日々。 BLですが、性描写はありません。少女漫画家らしいレベルです笑  この作品は「小説家になろう」さまにも掲載しています。 (アルファポリスさま 21:00更新 「小説家になろう」さま22:00更新です)

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。 幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。 人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。 彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。 しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。 命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。 一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。 拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。 王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。

魔王の公妾

眠りん
BL
魔王×見習い兵士  山の奥で自給自足の生活を送っていたギーナは、王女と出会った事により見習い兵士となった。  だが、ある日王女は魔王・リアンに連れ去られてしまった。恩人である王女を助けにギーナは単身一人魔族の国へ向かった。  捕虜でも、奴隷でも、どんな扱いでも受け入れる覚悟だったのだが、全く想定していなかった「公妾」という立場となってしまった。  王妃の公務の補助に、礼儀作法と一般常識の勉強……そしてリアンと過ごす夜。  ギーナの忙しくも充実した毎日が始まる。 表紙:右京 梓様

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

処理中です...