上 下
66 / 78
極彩色

茶壷

しおりを挟む
 男達が戻って来たのを見て、ヤンは茶壺から小さな茶器に液体を注ぎ入れた。ウユチュとエベツは先に味わっていたらしい。
 少し変わった香りがするお茶だったが、飲んでみると案外飲みやすく、特にトゥフタは初めての味を喜んでいる様子だ。
「―では、ウユチュ様とスドゥルはヤンさん達にとてもお世話になったと言う事ですね」
「ええそうなの。特に娘のイーリンはスドゥルの面倒をよく見てくれたのよ」
 女が三人も居れば、話に花が咲くのは仕方がない。今は少々急いでいるものの、まさか女王がこんな所まで追ってくるとも思えず、タシュもしばらくはゆっくりと茶を味わう事にした。
「イーリンは気立てが良くて、美しい子だったわ。ねえヤンさん」
「ああ、特に大きくなってからは美しさに拍車がかかってねぇ」
「……ウユチュ様達に良くしてくれたのがヤンさん一家で、ヤンさん達は第二セル内で子孫を残し続けているそうだ。特に一人娘のイーリンさんはこの辺りで評判の美人らしい」
 ウユチュとヤンの昔話をかいつまみ説明したエベツの言葉に、俄然興味が沸いた。特に美人という部分に。
「へえ、どんな美人さんなんだい?」
 タシュの両横に座ったトゥフタは睨みつけ、スドゥルは呆れたように息を吐いたことなど気にもせず、タシュは続ける。
「ヤンさんと同じ黒い目かい?」
「……あの子は、黒い髪で緑の目をしていたよ」
「じゃあ父親の目が緑なのか?」
 ヤンは、自分の分の茶が入った器を机に置いた。
「そんな単純じゃあないんだよ。……私はこの第二セルで生まれたんだ。私の親もここで生まれた。私達一家は、このセルの中だけで紡いできているんだ。その中にはアクバイの人間も混じっていたから、時々緑や青い目の子が生まれたりもするんだよ」
「へぇ……面白いな。親の特徴を引き継ぐだけじゃないのか……。そのイーリンってのはどこにいるんだ?是非ともそんな美人なら見てみたい」
 前のめりになったタシュの言葉に、ヤンの動きが止まる。タシュを見て、ウユチュを見て、スドゥルを見た。
 最後に視線をタシュに戻し、こう言った。
「――私も見たいよ。娘に会いたいさ」
「それは、どういう意味だ?」
「……第一セルの移設工事の事は知っているかい?」
 ヤンの声のトーンが少し低くなる。
 知らないと首を振るタシュに、スドゥルが注釈を入れた。
「私は第二セルに住んではいたが、学び舎は第一セルの方へ通っていた。その当時第一セルと第二セルの学び舎は繋がっていたんだ。だが、父が死んだあと、ウユチュ様と私が第二セルから出た後、第一セル全体を移設した。女王の命でな」
「クロレバはね、外の人が嫌いなのよ。……だから私の事も許せないの」
「そんな、ウユチュ様、クロレバ様はそんな事思っていらっしゃいませんよ」
「良いの、エベツ。私が全て悪いのです」
 なんと言ってよいものかわからず、しばらく口を噤んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...