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極彩色
茶壷
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男達が戻って来たのを見て、ヤンは茶壺から小さな茶器に液体を注ぎ入れた。ウユチュとエベツは先に味わっていたらしい。
少し変わった香りがするお茶だったが、飲んでみると案外飲みやすく、特にトゥフタは初めての味を喜んでいる様子だ。
「―では、ウユチュ様とスドゥルはヤンさん達にとてもお世話になったと言う事ですね」
「ええそうなの。特に娘のイーリンはスドゥルの面倒をよく見てくれたのよ」
女が三人も居れば、話に花が咲くのは仕方がない。今は少々急いでいるものの、まさか女王がこんな所まで追ってくるとも思えず、タシュもしばらくはゆっくりと茶を味わう事にした。
「イーリンは気立てが良くて、美しい子だったわ。ねえヤンさん」
「ああ、特に大きくなってからは美しさに拍車がかかってねぇ」
「……ウユチュ様達に良くしてくれたのがヤンさん一家で、ヤンさん達は第二セル内で子孫を残し続けているそうだ。特に一人娘のイーリンさんはこの辺りで評判の美人らしい」
ウユチュとヤンの昔話をかいつまみ説明したエベツの言葉に、俄然興味が沸いた。特に美人という部分に。
「へえ、どんな美人さんなんだい?」
タシュの両横に座ったトゥフタは睨みつけ、スドゥルは呆れたように息を吐いたことなど気にもせず、タシュは続ける。
「ヤンさんと同じ黒い目かい?」
「……あの子は、黒い髪で緑の目をしていたよ」
「じゃあ父親の目が緑なのか?」
ヤンは、自分の分の茶が入った器を机に置いた。
「そんな単純じゃあないんだよ。……私はこの第二セルで生まれたんだ。私の親もここで生まれた。私達一家は、このセルの中だけで紡いできているんだ。その中にはアクバイの人間も混じっていたから、時々緑や青い目の子が生まれたりもするんだよ」
「へぇ……面白いな。親の特徴を引き継ぐだけじゃないのか……。そのイーリンってのはどこにいるんだ?是非ともそんな美人なら見てみたい」
前のめりになったタシュの言葉に、ヤンの動きが止まる。タシュを見て、ウユチュを見て、スドゥルを見た。
最後に視線をタシュに戻し、こう言った。
「――私も見たいよ。娘に会いたいさ」
「それは、どういう意味だ?」
「……第一セルの移設工事の事は知っているかい?」
ヤンの声のトーンが少し低くなる。
知らないと首を振るタシュに、スドゥルが注釈を入れた。
「私は第二セルに住んではいたが、学び舎は第一セルの方へ通っていた。その当時第一セルと第二セルの学び舎は繋がっていたんだ。だが、父が死んだあと、ウユチュ様と私が第二セルから出た後、第一セル全体を移設した。女王の命でな」
「クロレバはね、外の人が嫌いなのよ。……だから私の事も許せないの」
「そんな、ウユチュ様、クロレバ様はそんな事思っていらっしゃいませんよ」
「良いの、エベツ。私が全て悪いのです」
なんと言ってよいものかわからず、しばらく口を噤んだ。
少し変わった香りがするお茶だったが、飲んでみると案外飲みやすく、特にトゥフタは初めての味を喜んでいる様子だ。
「―では、ウユチュ様とスドゥルはヤンさん達にとてもお世話になったと言う事ですね」
「ええそうなの。特に娘のイーリンはスドゥルの面倒をよく見てくれたのよ」
女が三人も居れば、話に花が咲くのは仕方がない。今は少々急いでいるものの、まさか女王がこんな所まで追ってくるとも思えず、タシュもしばらくはゆっくりと茶を味わう事にした。
「イーリンは気立てが良くて、美しい子だったわ。ねえヤンさん」
「ああ、特に大きくなってからは美しさに拍車がかかってねぇ」
「……ウユチュ様達に良くしてくれたのがヤンさん一家で、ヤンさん達は第二セル内で子孫を残し続けているそうだ。特に一人娘のイーリンさんはこの辺りで評判の美人らしい」
ウユチュとヤンの昔話をかいつまみ説明したエベツの言葉に、俄然興味が沸いた。特に美人という部分に。
「へえ、どんな美人さんなんだい?」
タシュの両横に座ったトゥフタは睨みつけ、スドゥルは呆れたように息を吐いたことなど気にもせず、タシュは続ける。
「ヤンさんと同じ黒い目かい?」
「……あの子は、黒い髪で緑の目をしていたよ」
「じゃあ父親の目が緑なのか?」
ヤンは、自分の分の茶が入った器を机に置いた。
「そんな単純じゃあないんだよ。……私はこの第二セルで生まれたんだ。私の親もここで生まれた。私達一家は、このセルの中だけで紡いできているんだ。その中にはアクバイの人間も混じっていたから、時々緑や青い目の子が生まれたりもするんだよ」
「へぇ……面白いな。親の特徴を引き継ぐだけじゃないのか……。そのイーリンってのはどこにいるんだ?是非ともそんな美人なら見てみたい」
前のめりになったタシュの言葉に、ヤンの動きが止まる。タシュを見て、ウユチュを見て、スドゥルを見た。
最後に視線をタシュに戻し、こう言った。
「――私も見たいよ。娘に会いたいさ」
「それは、どういう意味だ?」
「……第一セルの移設工事の事は知っているかい?」
ヤンの声のトーンが少し低くなる。
知らないと首を振るタシュに、スドゥルが注釈を入れた。
「私は第二セルに住んではいたが、学び舎は第一セルの方へ通っていた。その当時第一セルと第二セルの学び舎は繋がっていたんだ。だが、父が死んだあと、ウユチュ様と私が第二セルから出た後、第一セル全体を移設した。女王の命でな」
「クロレバはね、外の人が嫌いなのよ。……だから私の事も許せないの」
「そんな、ウユチュ様、クロレバ様はそんな事思っていらっしゃいませんよ」
「良いの、エベツ。私が全て悪いのです」
なんと言ってよいものかわからず、しばらく口を噤んだ。
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