55 / 78
正しい事
まんまる
しおりを挟む
「ホントに良いの、スドゥル?」
大きな目を更にまんまるにさせ、間延びした声をあげたウユチュに、スドゥルは珍しく眉をしかめた。
「この前話していたでしょう?」
「それはそうだけど、冗談か何かだと思っていたの」
「私は冗談なんて言いませんが」
「そ、そうよね。なんだかこの頃スドゥルの雰囲気が変わったから、冗談くらい言うものかと思って」
ウユチュの目が、タシュに助けを求めている。タシュは彼女に同意するように何度も頷いたがスドゥルには華麗にスルーされてしまう。
「どちらにしても、冗談ではないと今分かったんです。さあ、ウユチュ様、旅支度をお願いします」
「でも、私外までなんて歩けやしないわ」
「私が負ぶって参ります」
「そんな……ずっと、ずーっとなんて無理よ。カイルだって、途中で諦めたのに」
初めて聞く名に、思わずタシュの口に疑問が込み上げてきた。
「カイルってだれです?」
「私の夫よ。スドゥルの父親」
「なるほど、ありがとうございます」
カイルという名は、どこかの国で好んでよく付けられる名だったように思う。もしかしたらカイルの母国も同じなのかもしれない。
「ウユチュ様……『チャンスの神は前髪のみ』です」
「それは、あの人の口癖ね。スドゥル……でも……ううん、わかったわ。三人で行ってみましょう」
「お分かり頂けて安心しました」
「じゃあ、あれだけはもっていきましょうか。今、あるだけ」
「もちろんです」
親子だけが分かる会話を交わし、微笑み合っている所に割って入るのは少々気が引けるが、ここでしか言うタイミングが無さそうだ。タシュは、唾液を大きく飲み込んでから口を開いた。
「一つ、二人に相談があるんだ」
「なあに?」
「まだ何かあるのか?」
ウユチュもスドゥルも自分達の事しか考えていなかった。そう、何よりもタシュが救い出したい相手の事だ。
「トゥフタも連れていきたい」
出された名前に、二人は顔を見合わせた。タシュは現役の王を国から連れ出したいと考えている。
ウユチュは元・女王だ。この元が付くか付かないかでは物事はかなり違う。
ウユチュとスドゥルが消えても、クロレバは怒るだろうが国は揺るがない。しかし、トゥフタが消えてしまってはどうだろうか。クロレバは追ってくるかもしれないし、何より国政に与える影響が大きすぎはしないだろうか。
否定的な思いが浮かんだ二人だが、タシュの真剣な眼差しにすぐに反論できずにいた。
「俺はあいつを助けたい。助けたいなんて烏滸がましいかもしれないが、今の現状が良いとは俺には思えないんだ」
「……どうやって、宮に入る?ウユチュ様は一人で長時間は歩けない。私やお前が宮へ行けば、騒動になるだろう」
強い決意を感じさせる言葉に、ついスドゥルは水を向けてしまった。
「――それなんだが、一つ、考えがあるんだ」
スドゥルはタシュが口にした、不敬とも言える計画を聞いてしまった事を後悔した。聞いてしまっては、協力せざるを得ない。なぜなら、タシュはスドゥルを友人だと認めてくれていたから。
スドゥルとタシュによる、トゥフタを奪う計画は、翌日実行される事となった。
大きな目を更にまんまるにさせ、間延びした声をあげたウユチュに、スドゥルは珍しく眉をしかめた。
「この前話していたでしょう?」
「それはそうだけど、冗談か何かだと思っていたの」
「私は冗談なんて言いませんが」
「そ、そうよね。なんだかこの頃スドゥルの雰囲気が変わったから、冗談くらい言うものかと思って」
ウユチュの目が、タシュに助けを求めている。タシュは彼女に同意するように何度も頷いたがスドゥルには華麗にスルーされてしまう。
「どちらにしても、冗談ではないと今分かったんです。さあ、ウユチュ様、旅支度をお願いします」
「でも、私外までなんて歩けやしないわ」
「私が負ぶって参ります」
「そんな……ずっと、ずーっとなんて無理よ。カイルだって、途中で諦めたのに」
初めて聞く名に、思わずタシュの口に疑問が込み上げてきた。
「カイルってだれです?」
「私の夫よ。スドゥルの父親」
「なるほど、ありがとうございます」
カイルという名は、どこかの国で好んでよく付けられる名だったように思う。もしかしたらカイルの母国も同じなのかもしれない。
「ウユチュ様……『チャンスの神は前髪のみ』です」
「それは、あの人の口癖ね。スドゥル……でも……ううん、わかったわ。三人で行ってみましょう」
「お分かり頂けて安心しました」
「じゃあ、あれだけはもっていきましょうか。今、あるだけ」
「もちろんです」
親子だけが分かる会話を交わし、微笑み合っている所に割って入るのは少々気が引けるが、ここでしか言うタイミングが無さそうだ。タシュは、唾液を大きく飲み込んでから口を開いた。
「一つ、二人に相談があるんだ」
「なあに?」
「まだ何かあるのか?」
ウユチュもスドゥルも自分達の事しか考えていなかった。そう、何よりもタシュが救い出したい相手の事だ。
「トゥフタも連れていきたい」
出された名前に、二人は顔を見合わせた。タシュは現役の王を国から連れ出したいと考えている。
ウユチュは元・女王だ。この元が付くか付かないかでは物事はかなり違う。
ウユチュとスドゥルが消えても、クロレバは怒るだろうが国は揺るがない。しかし、トゥフタが消えてしまってはどうだろうか。クロレバは追ってくるかもしれないし、何より国政に与える影響が大きすぎはしないだろうか。
否定的な思いが浮かんだ二人だが、タシュの真剣な眼差しにすぐに反論できずにいた。
「俺はあいつを助けたい。助けたいなんて烏滸がましいかもしれないが、今の現状が良いとは俺には思えないんだ」
「……どうやって、宮に入る?ウユチュ様は一人で長時間は歩けない。私やお前が宮へ行けば、騒動になるだろう」
強い決意を感じさせる言葉に、ついスドゥルは水を向けてしまった。
「――それなんだが、一つ、考えがあるんだ」
スドゥルはタシュが口にした、不敬とも言える計画を聞いてしまった事を後悔した。聞いてしまっては、協力せざるを得ない。なぜなら、タシュはスドゥルを友人だと認めてくれていたから。
スドゥルとタシュによる、トゥフタを奪う計画は、翌日実行される事となった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
君はキラキラを背負ってない
寺音
BL
高校二年生、空賀昴(くがすばる)は惚れっぽく、キラキラ王子様系イケメン男子に一目惚れしては短時間でフラれる、ということを繰り返していた。そしてその度に同級生、大木麦人(おおきむぎと)に失恋の愚痴に付き合ってもらっていた。
ある日昴は自分の恋愛遍歴を知る姉に、「いっそ麦人くんと恋愛すれば?」と提案される。
どう考えても「タイプ」じゃない麦人と恋愛なんてあり得ないと答える昴だが……?
『フラれた男と慰める男』をテーマにした全年齢BLアンソロジー『傘をさしかけるひと』に寄稿した作品です。
告知サイト↓
http://kasawosasikakeruhito.ltt.jp/
こちらの表紙イラストは、云野サク様(https://yunomizu33.wixsite.com/website)に描いていただきました。
素敵なイラストをありがとうございました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる