54 / 78
正しい事
異国の友人
しおりを挟む
「一番って事は二番もあるんだろ?」
誘うような言葉を使った自覚が出たのか、少しバツが悪そうに俯き口を手で覆う。照れているようにも見えた。
「笑わないと誓えるか?」
「もちろん、俺は月を信じてる。だから月に誓うよ」
今は見えない月を指さすように、人差し指を立たせると、スドゥルは頭を掻いた。こんな仕草をするのも珍しい。
「……タシュにだから言うんだからな」
「もったいぶらずにそろそろ言えって」
「……親子として暮らしてみたい。幼い時のように『母上』と呼んでみたいんだ」
ぽつぽつと語られる言葉は、もったいぶった割りには肩透かしに思えたが、タシュは笑う事無く言葉を返す。
「スドゥルはホントに良くわからん事を言うな?呼べばいいじゃないか、母上でも母さんでもかあちゃんでも」
「そんな単純なものじゃないんだ」
「単純だって。多分お前は難しく考えすぎだと思う。……あ、ウユチュ様の願いってなんだ?」
会話する内に、タシュの調子も戻ってきたようだ。口の動きも滑らかになってきた気がするし、頭の疼きももうほぼない。
「……父親の故郷を見る事だ。海と山が見える美しい街。それを見て、死にたいと願っている」
「最後の願いってやつか?確かにウユチュ様は体が弱そうだけど、まだ死ぬような年じゃあ……」
そこまで言って、タシュたちとこの国の人の寿命がどうやら違うらしい事を思い出した。今までの話をまとめると、ウユチュの子供がクロレバでクロレバの子供がアイムだが、皆どれだけ高く見積もっても30代が関の山だ。タシュと年が変わらないと言われても、驚かないような容姿は、いつから留まっているんだろう。
「今更だが、お前たちの寿命ってどうなってるんだ?」
「ああ、そうか……それを説明していなかったか……我々の体の成長はお前たちで言う所の二十歳前後で止まる。それは、その期間が一番働ける体だからだ」
「お、おう?」
またタシュの脳の処理が追い付かない話が始まった。だが、水を向けたのは自分であるし、気になっていたのも事実だ。なんとか話に付いて行こうと相槌を打つ。
「そして、老いない」
「す、すごいな」
「見た目は若いまま死ぬ。国民の平均年齢はお前たち外の者達と変わらない」
「ん?いや、でも……」
タシュが何を聞こうとしているのかが分かっているかのようにスドゥルは頷いた。
「王族は違う。特に女王と王は特別長生きだ。その理由は、わかるな?」
「……最高の遺伝子をたくさん残すため……?」
「その通り」
「はあー……お前たち本当に人間か?もしかしたら異世界人か?」
「……あながち間違いで無いかもしれない」
「へ?!」
冗談で言ったつもりなのに、真剣な表情を向けられてタシュの動きが止まる。
「お前たち外の者は猿から移行したらしいが、我々は違う」
「え?な、何?こ、怖いんですけど……?」
「我々は虫から移行したと教えられている。主に蜂から」
「は、蜂?!……それ本気で言ってる?」
しかし、言われてみれば納得がいく事もある。異様に多い六角形のモチーフ。技術的に難しいとされている養蜂の成功。そして何より、蜂蜜のように美しい髪を持つ人々――。
「……冗談はこれくらいにして、そろそろ起きろ。ウユチュ様の所へ行くぞ」
「え?!冗談なの?!お前って冗談とか言うやつだったっけ?!」
後ろを向き、ドアを開けるスドゥルの肩が小さく揺れた。これは吹き出した時の揺れ方だ。
タシュにも色々あったが、スドゥルにも色々あったらしい。異国の友人の嬉しい変化に、こんな時だというのにタシュの心は暖かくなった。
誘うような言葉を使った自覚が出たのか、少しバツが悪そうに俯き口を手で覆う。照れているようにも見えた。
「笑わないと誓えるか?」
「もちろん、俺は月を信じてる。だから月に誓うよ」
今は見えない月を指さすように、人差し指を立たせると、スドゥルは頭を掻いた。こんな仕草をするのも珍しい。
「……タシュにだから言うんだからな」
「もったいぶらずにそろそろ言えって」
「……親子として暮らしてみたい。幼い時のように『母上』と呼んでみたいんだ」
ぽつぽつと語られる言葉は、もったいぶった割りには肩透かしに思えたが、タシュは笑う事無く言葉を返す。
「スドゥルはホントに良くわからん事を言うな?呼べばいいじゃないか、母上でも母さんでもかあちゃんでも」
「そんな単純なものじゃないんだ」
「単純だって。多分お前は難しく考えすぎだと思う。……あ、ウユチュ様の願いってなんだ?」
会話する内に、タシュの調子も戻ってきたようだ。口の動きも滑らかになってきた気がするし、頭の疼きももうほぼない。
「……父親の故郷を見る事だ。海と山が見える美しい街。それを見て、死にたいと願っている」
「最後の願いってやつか?確かにウユチュ様は体が弱そうだけど、まだ死ぬような年じゃあ……」
そこまで言って、タシュたちとこの国の人の寿命がどうやら違うらしい事を思い出した。今までの話をまとめると、ウユチュの子供がクロレバでクロレバの子供がアイムだが、皆どれだけ高く見積もっても30代が関の山だ。タシュと年が変わらないと言われても、驚かないような容姿は、いつから留まっているんだろう。
「今更だが、お前たちの寿命ってどうなってるんだ?」
「ああ、そうか……それを説明していなかったか……我々の体の成長はお前たちで言う所の二十歳前後で止まる。それは、その期間が一番働ける体だからだ」
「お、おう?」
またタシュの脳の処理が追い付かない話が始まった。だが、水を向けたのは自分であるし、気になっていたのも事実だ。なんとか話に付いて行こうと相槌を打つ。
「そして、老いない」
「す、すごいな」
「見た目は若いまま死ぬ。国民の平均年齢はお前たち外の者達と変わらない」
「ん?いや、でも……」
タシュが何を聞こうとしているのかが分かっているかのようにスドゥルは頷いた。
「王族は違う。特に女王と王は特別長生きだ。その理由は、わかるな?」
「……最高の遺伝子をたくさん残すため……?」
「その通り」
「はあー……お前たち本当に人間か?もしかしたら異世界人か?」
「……あながち間違いで無いかもしれない」
「へ?!」
冗談で言ったつもりなのに、真剣な表情を向けられてタシュの動きが止まる。
「お前たち外の者は猿から移行したらしいが、我々は違う」
「え?な、何?こ、怖いんですけど……?」
「我々は虫から移行したと教えられている。主に蜂から」
「は、蜂?!……それ本気で言ってる?」
しかし、言われてみれば納得がいく事もある。異様に多い六角形のモチーフ。技術的に難しいとされている養蜂の成功。そして何より、蜂蜜のように美しい髪を持つ人々――。
「……冗談はこれくらいにして、そろそろ起きろ。ウユチュ様の所へ行くぞ」
「え?!冗談なの?!お前って冗談とか言うやつだったっけ?!」
後ろを向き、ドアを開けるスドゥルの肩が小さく揺れた。これは吹き出した時の揺れ方だ。
タシュにも色々あったが、スドゥルにも色々あったらしい。異国の友人の嬉しい変化に、こんな時だというのにタシュの心は暖かくなった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる