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可哀そうなトゥフタ

人工卵

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 皆から迫害された過去が無い事にほっとした。商店街を歩くスドゥルに向けられる女性達の目はどちらかといえば憧れの目だった事も思い出し、彼の言葉を素直に受け入れた。
「俺は女王を退任したウユチュ様と、旅人との子だ。旅人は黒髪黒い瞳で、俺も少しそれを引き継いだ。だからまあ……さっきの話に戻るが、俺が王になる事はありえない」
「なる、ほど……ほんとにウユチュ様はお前の母親なんだな?」
「ああ、珍しいが腹から生まれた」
 やっと一つ大きな疑問が解けた気がして安堵した瞬間、また意味の分からないスドゥルの言葉に理解が追い付かなくなって目を瞬かせた。
「………ん?」
「外では女性が腹で子供を大きくし、出産するんだろ?この国ではそれは珍しい」
「は?」
「この国には男は少ない。主な働き手は女達だ。皆が妊娠すればその間仕事の効率が落ちるだろ?」
「あ、ああ……」
 言ってる事はわかるが、わからない。まだまだこの国は分からない事ばかりだ。
「多分、外で暮らしていたタシュには理解しがたいはずだが、この国はほとんどの国民が親戚なんだ」
「……?!す、すまない、理解できるように頼む」
「この国では男の精と女の卵を取り出し、掛け合わせ人工卵の中で育むんだ」
「男の精と卵の話は聞いたが、人工卵ってなんだ……?」
「ようは女性の腹の中の機能を人工的に作ったんだ。そして、その卵の大本は最初の女王なんだ」
「はあ?!ま、待ってくれ」
 頭を抱えるタシュに、スドゥルは不服そうにしながらも言われた通りに待った。
「外では皆が腹で子を育むという噂は本当だったんだな」
 久しぶりに発言したエベツは不思議そうに自分の腹を撫でている。
「あ、当たり前だろ?!愛し合った夫婦の元に子が成されるんだよ!」
「我々はほぼ皆、女王の子だ。子は親に逆らえないように我々は女王へ歯向かえない」
「ご、ごめんエベツさん、俺言っている意味が良く……」
「女王の卵で生まれたのがアクバイの国民だ。私もそうだ。だから遺伝子的には私とスドゥルも父親が違うきょうだいだ」
「え?……???ご、ごめんキャパオーバー」
 額に手を当て、ベッドへごろんと寝転んだ。天井の木の板の染みが顔に見えてくる。
 タシュの中の常識は、男女がむつみ合い、女性が妊娠する。そしてお腹で赤子を育て、めでたく出産に至る。しかし、この二人はその常識を壊すような事をずっと言っている。分かる事は分かるのだが、タシュには理解が出来ない。
「……俺の理解力が乏しいのが悪いとは思うんだが、もう少し簡潔に教えてくれないか」
 再び起き上がったタシュは、スドゥルをまっ直ぐ見てそう言った。
「ご期待に沿えるかわからないが、やってみよう」
 数秒頭の中で言葉をまとめてから、スドゥルは口を再び開き、今まで話した内容を簡潔に説明してくれた。
「あ、ありがとう。分からないけど分かった。じゃあ、トゥフタが言っていた女王へ危害を加えられないってのは……」
「遺伝子にそういう命令が含まれている」
「じゃあ、スドゥルはウユチュ様の子供だから、クロレバ女王へ逆らえるって事か?』
「それは違う。ウユチュ様もクロレバ様も女王だから」
「ん~?直接の親じゃないのに、駄目なのか?」
 タシュの問いかけに、スドゥルとエベツは目を合わせた。何度か目を瞬かせた後、スドゥルは口を開いた。
「ああ、我々とお前たちとの最も大きな違いを説明するのを忘れていた」
「もう色々驚きすぎて驚く気もしないけど、なんだ?」
「女王は退任する時後継者として娘を産む。娘は人工卵ではなく腹から産む。女王が産む後継者は男の精がいらない。一人で産む」
「……は?」
「女王は後継者を産むとき大きなエネルギーを使う。そのエネルギーを込めて自分と同じ遺伝子の娘をこの世に送り出す。だからウユチュ様とクロレバ様は見た目はそっくりだ」
「な、なんだよその自然の摂理に反したような……」
「つまり、遺伝子上クロレバ様とウユチュ様は同じだ。だから俺もクロレバ様には逆らえない」
「はああああ?駄目!頭がぐるぐるする」
 大の字になってベッドに倒れ込んだ。
「大丈夫か?」
「……エベツさんはクロレバ女王の子なの?」
「いいや。私はウユチュ様の最後の卵とトゥフタ様の精の人工卵で生まれた。トゥフタ王に代わって一代目の子供だ」
「……も、もう、無理……」
 脳のキャパが限界を迎えたタシュは、それからしばらく一言も発する事が出来なかった。スドゥルとエベツのは久しぶりの会話が楽しいのか、他愛無い子供の頃の昔話に花を咲かせたのだった。
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