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花咲き誇る宮

再会

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 連行されつつもタシュは城内にあるたくさんの草花に目を奪われた。ウユチュのいた家の庭も、商店街にも花は多かったが、城の中はレベルが違った。人の手を加えられ均整の取れた花壇は、美しく六角形で区切られている。思い出してみれば、家の窓や飾り、噴水等この国は六角形のモチーフが多い気がする。この国の流行りなのだろう。

 街の女人とは違い、城内ですれ違う女官たちに好意的な目では見てくる人は少なかった。物珍しそうに見てくる者、恐ろしそうに一歩退く者と反応は様々だ。

 いくつかの関を超えて、やっと大きな扉の前でエベツが足を止めた。一瞥してから両脇に立っている兵二名が仰々しく扉を引くと、ふわり、と緑と花の香りが風と共にタシュへと降りかかってきた。

 思わず目を瞑ったタシュが目を開くと、大きな窓枠に腰かける人物と目が合う。煌めく水面のような青い瞳は吸い込まれそうで、金糸の髪は太陽が嫉妬しそうなくらいに陽の光を受けて光り輝いている。

「トゥフタ……」

 思わず名を口にした。数分前にエベツへ言った事があの時は確かに本心であったはずなのに、嘘になってしまうと感じるほどの圧倒的な美しさがあった。

「タシュを捕らえました」

 エベツの言葉に頷くと、繊細な指を僅かに動かした。エベツがタシュを小突く。

 しばし逡巡した後、タシュは窓辺へと足を進めた。ウユチュに教えられた『不敬は死』の言葉に内心ビビっているが、ここまで来たならば腹を括るしかない。

「しばらくだな、タシュ――」

「申し訳ありませんでした!王様だとは知らず無礼を!」

 先手必勝である。トゥフタの言葉を遮り、傅き、頭を垂れる。大きな声に皆がびくっと体を震わせたのが分かった。

 トゥフタも美しい切れ長の瞳をまん丸にしている。

「ふむ……前とは態度が違うな」

 考え込むトゥフタに、エベツが何か耳打ちすると、表情が少し変わった。

「なるほど。ウユチュのところにいたのか。私の事を話したのか?――私に何をしたのかを」

 含みを持たせた言い方に、腹の底が冷える。

「い、いえ!でも、あの、不敬は極刑だと……」

「ふふふ、他には?」

「クロレバ女王は規律を重んじる方だと」

「なるほど。私はどうだと言っていた?」

 そういえば、あの時ウユチュはクロレバの事ばかりで、トゥフタが死刑にするだなんて事は一言も言っていない。もしかしたら彼には人をどうこうする権限が無いかもしれない。とすれば、この場さえ凌げればなんとかなるのでは無いか。

 一つの光明が差し、タシュの表情が明るくなった。

「ふふふ、タシュ。それは甘いよ。そこにいるエベツは私にとても忠実なんだ。今ここで気に入らないから君を刺すように命令すれば、その通りにしてくれるよ。ね、エベツ」

「もちろんでございます」

 花が綻ぶような笑顔で恐ろしい事を言うトゥフタに、エベツはさも当然と傅く。希望は早くも打ち砕かれたようだ。

「では……どうしても死ぬしかないという事ですか?」

「ふむ……」

 長い髪を払い、トゥフタが立ち上がる。スドゥルよりも小柄な体が、膝をついたままのタシュへと近づいてきた。

「まずはその態度を改めよ」

「と、言いますと……?」

「前の話し方に戻せ。借り物の言葉では何も面白くない」

「えーっと、それはその……?前の無礼な振る舞いをしろって事ですか?」

「その通り」

「えー?えーっとそれはでもほら、ねえエベツさん?」

「トゥフタ様がおっしゃるならその通りに」

「ええー?!」

 助けを求めたものの、意外にも思っていたような返答はもらえない。

「お前は今日からこのトゥフタのものだ。私を楽しませればここにおいてやる。面白くなければクロレバに全て話そう」

「そ、そんな……」

「クロレバは人を処す事をなんとも思わない女だ。話せばどうなるか、想像がつくな?」

 美しい顔での脅迫はどうしてこんなに凄みがあるのだろう。

 踊り子たちの一団に混ぜてもらった時に片っ端から手を出したのがバレた時より、腹が減った時に誘ってくれた女性に夫がいたのが分かった時よりも、トゥフタの笑顔での脅しが恐ろしかった。

 このような脅迫から、タシュの城での暮らしが始まったのであった。
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