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花咲き誇る宮
手錠
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「なー、これキツイよ。女の子の手首に合わせて作ってんじゃない?」
金属が擦れる音を響かせながらタシュが両手を持ち上げた。枷に太陽の光が反射して、きらりと光った。
眩しそうに目を細めて、手をかざしながら一歩先を歩くエベツは足を止めた。
「周りが動揺する。この国はお前のいた国とは違い平和で、罪人もほとんどいないのだ。見えないように隠せ」
長身の衛兵は目立つ。しかし、その衛兵よりも背の高いタシュはもっと目立っていた。ちらちらと美女達の視線を感じるものの、誰も話しかけてこないのはエベツと衛兵が怖いからだろう。現に、エベツ一行の周りには一定の空間が開けられている。
「はいよ。ただ歩くのも暇だからさ、せめて話くらいはしてよ。なんでこの国の人は部外者を恐れないの?」
タシュが手を降ろしたのを確認して、エベツは歩き出した。衛兵もそれに続く。
「部外者を皆知らぬからだ。その恐ろしさも。民の多くは平和しか知らぬ、それゆえ恐れも知らぬ」
「それってエベツちゃんも?」
「――なんと?」
再びエベツが足を止め、顔を近づけ凄んできた。『ちゃん』は良くなかったらしい。
「す、すみません。エベツ……さん?恐れないなら俺も掴まえなくて良くない?何も悪い事しないよ」
「……本来ならお前を捕らえるのは私達の仕事ではない。不敬を働いたのはお前だろう」
「あ、あの時湯の所に走って来たのエベツさんか!見た事ある気がしたんだよなぁ」
「王の湯浴みを覗くなんて、即刻死罪でも良いくらいだ。しかしトゥフタ様の命がある」
「トゥフタ……」
「『様』をつけろ、無礼者。こちらもいくつか聞きたい事がある。スドゥルといたのは何故だ?ウユチュ様にも会ったのか?」
「えーっと、まあ流れで?そっちこそスドゥルとは知り合いみたいだったけど、どんな仲?」
「――とにかく歩け、トゥフタ様がお前を早く連れてこいとおっしゃっていたのだ」
「俺ってどうなるのー?」
再度タシュが枷を掲げると、エベツの眉間に縦に皺が入った。
「知らぬ。どうなっても不敬を働いたお前が悪い」
「うーん……わざとじゃないんだけどあ……」
瞼を閉じると、輝かんばかりのトゥフタの裸体が目に浮かぶ。神が人の形となったならああいう風になるんじゃなかろうかと思えるほどの神々しさを纏っていたように思う。
同時に、深い海のような青い瞳は悲しそうでもあって、男だと知った今でもどうしてか魅力を感じてしまう。
「故意かどうかはどうでも良い。私には人を裁く権限が無いからな。全てはトゥフタ様の御心のままだ」
金属が擦れる音を響かせながらタシュが両手を持ち上げた。枷に太陽の光が反射して、きらりと光った。
眩しそうに目を細めて、手をかざしながら一歩先を歩くエベツは足を止めた。
「周りが動揺する。この国はお前のいた国とは違い平和で、罪人もほとんどいないのだ。見えないように隠せ」
長身の衛兵は目立つ。しかし、その衛兵よりも背の高いタシュはもっと目立っていた。ちらちらと美女達の視線を感じるものの、誰も話しかけてこないのはエベツと衛兵が怖いからだろう。現に、エベツ一行の周りには一定の空間が開けられている。
「はいよ。ただ歩くのも暇だからさ、せめて話くらいはしてよ。なんでこの国の人は部外者を恐れないの?」
タシュが手を降ろしたのを確認して、エベツは歩き出した。衛兵もそれに続く。
「部外者を皆知らぬからだ。その恐ろしさも。民の多くは平和しか知らぬ、それゆえ恐れも知らぬ」
「それってエベツちゃんも?」
「――なんと?」
再びエベツが足を止め、顔を近づけ凄んできた。『ちゃん』は良くなかったらしい。
「す、すみません。エベツ……さん?恐れないなら俺も掴まえなくて良くない?何も悪い事しないよ」
「……本来ならお前を捕らえるのは私達の仕事ではない。不敬を働いたのはお前だろう」
「あ、あの時湯の所に走って来たのエベツさんか!見た事ある気がしたんだよなぁ」
「王の湯浴みを覗くなんて、即刻死罪でも良いくらいだ。しかしトゥフタ様の命がある」
「トゥフタ……」
「『様』をつけろ、無礼者。こちらもいくつか聞きたい事がある。スドゥルといたのは何故だ?ウユチュ様にも会ったのか?」
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「――とにかく歩け、トゥフタ様がお前を早く連れてこいとおっしゃっていたのだ」
「俺ってどうなるのー?」
再度タシュが枷を掲げると、エベツの眉間に縦に皺が入った。
「知らぬ。どうなっても不敬を働いたお前が悪い」
「うーん……わざとじゃないんだけどあ……」
瞼を閉じると、輝かんばかりのトゥフタの裸体が目に浮かぶ。神が人の形となったならああいう風になるんじゃなかろうかと思えるほどの神々しさを纏っていたように思う。
同時に、深い海のような青い瞳は悲しそうでもあって、男だと知った今でもどうしてか魅力を感じてしまう。
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