6 / 78
旅人
美しい男
しおりを挟む
「~~っ?!」
「あ、わるい、つい……」
「は、なっ、せ!」
ぐいぐいと押し返してくる手首を、反射的にタシュは掴んでしまう。まともな鍛錬も積んでいないだろう非力な体は、それだけで身動きが取れなくなる。
「逃げんなって、これでも必死でここに来たんだから」
「手を、離せっ」
「だから聞いてよ。あ、そうだ、あんた名前は?」
「離せと言っている!」
わなわな唇を震わせる様子に、タシュの力が緩んだ。その隙に手を振り払うと、しばしの無音が二人の間に流れた。腕から雫が、ぽたり、ぽたりと浴槽に落ちる。
「ご、ごめん。そんなに怒……」
振り払われた手を迷わせながら、強い拒絶に動揺したタシュが詫びを述べようとした時、慌ただしい多数の足音が近づいてきた。
咄嗟にタシュの頭の中に嫌な予感が駆け巡る。いくら裕福な国とは言え、こんな立派な風呂がある屋敷に住むという事は、目の前の美しい男の身分はとてつも無く高いのではなかろうか。
「えーっと……す、すみませんでした!」
チャラけて、ウインクをして頭を下げると、タシュは湯をかきわけ、侵入してきた進路を遡って駆け出した。
「トゥフタ様!ご無事ですか?!」
武装した数人を引き連れてきた先頭の長い服を靡かせた背の高い女は、タシュの姿を目に捕らえると即座に後ろに指令を出した。
「侵入者だ!即刻捕えろ!」
ガチャガチャと刀を擦り合わせながら、衛兵たちがタシュを追う。
「トゥフタ様、ご無事ですか?」
「ああ……」
「申し訳ありません、湯浴みのお邪魔をしてしまい。あの者即刻捕えクロレバ様の元へ連行します」
「エベツ、クロレバへは秘密にあの男を捕え、私の元へと連れてきてくれぬか?」
「は……?しかし……」
エベツと呼ばれた長身の美女は、眉を寄せた。
「あの者アイムの名を口にしたのだ」
「アイムの……!」
「ああ、頼んだぞ」
湯から体をあげたトゥフタの体に、金色の長髪が絡む。さながら神話の神々の彫像のような美しさに、エベツは深く頭を下げたのだった。
「あ、わるい、つい……」
「は、なっ、せ!」
ぐいぐいと押し返してくる手首を、反射的にタシュは掴んでしまう。まともな鍛錬も積んでいないだろう非力な体は、それだけで身動きが取れなくなる。
「逃げんなって、これでも必死でここに来たんだから」
「手を、離せっ」
「だから聞いてよ。あ、そうだ、あんた名前は?」
「離せと言っている!」
わなわな唇を震わせる様子に、タシュの力が緩んだ。その隙に手を振り払うと、しばしの無音が二人の間に流れた。腕から雫が、ぽたり、ぽたりと浴槽に落ちる。
「ご、ごめん。そんなに怒……」
振り払われた手を迷わせながら、強い拒絶に動揺したタシュが詫びを述べようとした時、慌ただしい多数の足音が近づいてきた。
咄嗟にタシュの頭の中に嫌な予感が駆け巡る。いくら裕福な国とは言え、こんな立派な風呂がある屋敷に住むという事は、目の前の美しい男の身分はとてつも無く高いのではなかろうか。
「えーっと……す、すみませんでした!」
チャラけて、ウインクをして頭を下げると、タシュは湯をかきわけ、侵入してきた進路を遡って駆け出した。
「トゥフタ様!ご無事ですか?!」
武装した数人を引き連れてきた先頭の長い服を靡かせた背の高い女は、タシュの姿を目に捕らえると即座に後ろに指令を出した。
「侵入者だ!即刻捕えろ!」
ガチャガチャと刀を擦り合わせながら、衛兵たちがタシュを追う。
「トゥフタ様、ご無事ですか?」
「ああ……」
「申し訳ありません、湯浴みのお邪魔をしてしまい。あの者即刻捕えクロレバ様の元へ連行します」
「エベツ、クロレバへは秘密にあの男を捕え、私の元へと連れてきてくれぬか?」
「は……?しかし……」
エベツと呼ばれた長身の美女は、眉を寄せた。
「あの者アイムの名を口にしたのだ」
「アイムの……!」
「ああ、頼んだぞ」
湯から体をあげたトゥフタの体に、金色の長髪が絡む。さながら神話の神々の彫像のような美しさに、エベツは深く頭を下げたのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる