星野さんは死ぬ前にデリヘルを呼ぶことにしました。

星を見失った男

星野さんは人のおうちでお盛んなようです。

「こんな……知らない人の家で……」
「すみません、慧斗さん。巻き込んでしまって……でも、慧斗さんにしか助けてほしくなくてっ」
　いつもより余裕の無いアヤの言葉に、心がかき乱される。
「アヤさん……っ」
　はぁはぁと息を荒げ、座ったままのアヤの首筋へと舌を這わせる。汗ばむ体を、ゆっくりと降りていく。
「はぁっ、ンっ」
　胸の突起に達すると、アヤが可愛らしい声を上げた。いつもより感じやすい体に、否応なしに下腹部が熱くなる。
「何か、お口に欲しいっ」
　ねだる言葉に、本来なら陰茎をしゃぶらせたい気持ちがあるが、足の無い慧斗には無理な注文だ。慧斗はアヤの頬を撫で、その指を慧斗の口へと挿入する。
　蠢く舌は優しく、生き物のように指へと絡みついてくる。疑似的なフェラチオを受ける指は、性感帯に早変わりだ。
　アヤの左手が慧斗の勃起しきった陰茎へと触れ、優しく上下を始める。片手をベッドへ括りつけられ、やや動きにくそうに扱き続ける表情は真剣で、それだけ本気を感じさせられる。
「おちん、ちん、かったいよぉ？」
　利き手じゃないからか、いつもよりもどかしい手淫に庇護欲が掻き立てられる。こてんを小首を傾げそんな風に甘えられたら、慧斗の目には色っぽくも可愛らしいアヤしか入らない。
「も、もう、良いですか？」
「すぐに、すぐに欲しいよぉ……！」
　今までのプレイとは違う、切羽詰まった声にもう挿入する事しか考えられなくなる。
　誰かの家だろうがなんだろうかどうでもいい。今はただ、アヤに挿れて果てたくて仕方がない。
「こっち、こっち来てぇ！」
　ベッドのフレームに背中を預け、座り込む。手錠とフレームがカチャカチャ擦れさせながら、その上にアヤが腰を下ろしていくが、上手く入らない。
「もってて！」
「はい！」
　自身の陰茎をアヤの菊門にあてがうと、ゆっくりとアヤの体の中に飲み込まれていった。待ちきれなかったとでも言うように、喘ぎ声を上げながら、アヤは何度も腰を振り続けた。
「あ、あっ、ンくっ、あぁっ、あ、あぁっ」
　夢中になって腰を振る様は、淫魔のようだ。好きな人が、自分の陰茎で貪るように感じている様を見て正気でいられる男が存在するのなら見てみたい。
　もう、全てがどうでも良かった。いつも何事においても慧斗よりも上手なアヤが、夢中になって腰を振り、感じる事に必死になっている。その全てが慧斗を興奮させる。
「くっ、アヤさん……っ」
「あ、あぁっ、イ、イぃよぉ慧斗さんっ、も、もうすぐ、いく、イく……っ」
「俺、もう……！」
　頭まで熱くて、今にも鼻血が出そうだ。アヤをイかせるまで、必死で達しないように勤めてはいるが、もう長くは持たない。
「まだダメ！もうちょっと！あ、あっ、ア、イ、イっちゃう……！」
「アヤさん！アヤさん！！――ぐっ」
「ア、あ、あっ、アぁ……！イくぅぅぅっ！」
　絶叫にも似た嬌声と共に、アヤが慧斗に縋るように抱き着いてきた。その後、すぐにアヤの中がぎゅっと締まる。搾り取るような中の動きに、慧斗の精子はすっかり飲み込まれてしまう。
「あ、すみませんアヤさん、俺ゴムつけて無くて……！」
　密着した部分が汗ばんでいる。慌てるような慧斗の声に、アヤのいつもの笑い声が聞こえてきた。
「ふふ、良いんですよ慧斗さん。僕妊娠しないですから」
「そ、それはそうですけど……！」
「それよりも見て下さい、コレ」
　アヤが指さす先には、ピコンと天井を向いたままのアヤの陰茎が鎮座している。ふと、違和感を感じた。
「え？……あれ？さっきイった筈なのに、精子が出て無くないですか？」
「よくわかりましたね。さっきのはドライってやつで、射精せずにイッちゃうんです。……女の子みたいでしょ？」
　慧斗の大好きな悪戯っ子のような笑みが戻ってきて、安堵する。
「ドライ！聴いた事あります」
「久しぶりに夢中になっちゃいました。……慧斗さん、引いてません？」
「引くなんてそんな！」
　ぶんぶんと首を振る慧斗に、またアヤが笑った。
「じゃあ、もう一回出来ますよね？いつも三回はして下さるんですから」
「え？！え、っと……でも家主が帰ってきたら……」
「大丈夫ですよ。坂下さんも鹿深さんもしばらく戻ってこないですから」
「でもほら知らない方の家ですし……」
　射精した事により、冷静さを取り戻した慧斗は、今の状況の異様さに改めて怯むみそうになる。
「僕まだ勃起してるんですよね……」
　しかし、アヤにそんな風に言われてしまっては断る事なんて出来ないし、したくない。
「じゃあ、とりあえず手錠の鍵外してからにしましょうよ。アヤさんの手が痛くなっちゃいますし……？！え？！」
　慧斗が小休憩を取ろうとした提案を言い終わらないうちに、アヤは枕の下に手を突っ込み、小さな鍵を慧斗に見せた。
「鍵、これですかね？」
「ど、どうして枕の下に？！」
「どうしてですかねぇ」
「知ってたんですか？！」
「まさか！さっき何か音が鳴ったなって思って見てみただけですよ。でもほら、これで二回戦目、出来ますね」
　小さな鍵で器用に手錠を外す。外した手錠を慧斗の目の前でぷらぷらと揺らした。
「……次は慧斗さん縛られてみます？」
「え？！」
「なんてね、冗談ですよ？……でも、いつかしてみましょうね」
　ふぅ、と息を吹きかけられると、情けない声が出た。その声にクスクスと笑うアヤが、いつも通り慧斗を押し倒していった。
　投げた手錠が床に落ち、他人の家での二回目開始の合図になった。
　慧斗の慌ただしい一日は、こうして幕を閉じた。