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逃亡先の安らぎ
小鳥で逃亡6
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「なにしとんや」
入り口は出口も兼ねているらしい。そこから出てきたスーツの男の低い声には聞き覚えがあった。
「絹田さん……?」
「やば」
ぽかんとする前川の横で、竜児は小さく呟いた。そのまま前川の背面へと身を隠すが、今更何をしても遅い。
「なにしとんや、坊。数日おらんだけで他の男たらし込むんか」
怒声ではない、淡々とした西の方の言葉は関東生まれ関東育ちの前川を余計に怖がらせた。
明らかにカタギではない様子の男が大事にしている青年と今自分は何をしようとしていたのか。
考えがそこまでやっと及んで、熱くなっていた頭が一気に冷めた。青くなる前川の背中を、竜児がきゅっと摘まんだ。
「い、いやあのこれは――」
「おのれにきいとらんわ。余計な事しよってほんま……」
冷たい目で言い放たれ、思わず口を噤んでしまう。
正直宅配先には同じような怖い人がたくさんいる家もあったが、皆表面上は穏やかだ。何より正規の仕事で行っている事だから、なんの気おくれをした事も無かった。
しかし、今回は明らかに前川に非があった。
「制服着たまんまこんなとこ入ってええんか?」
「そ、それは……」
よろしくないですね。とまでもいう間も無く、鋭い目の男は竜児の手を掴んだ。
「ち、ちがうっ!ピィちゃんが逃げちゃって、こっちに飛んでいったんだ!ね?!」
「――はい!」
必死の竜児にせっつかれ、前川も首をヘドバンのように振った。
二人の顔を見遣り、竜児の靴が見慣れないものだと気付いた鬼怒川は、ため息を吐きながら前髪を掻き揚げた。
おもむろにスマートフォンを取り出すと、何やら操作を始めると、ホテルの方へと歩き出した。
「――坊、お探しのもんはあれですね?」
指さした先にはピィちゃんがいる。竜児が驚きの声を上げる前に、鬼怒川がその口を塞ぐ。
「――しっ……少し待って下さい」
指を出し、ピィちゃんの近くで停止する。しばらくそうしていると、小さく鳴いたピィちゃんが鬼怒川の指に飛び乗って来た。
声を出さないまま、落ちているダンボール箱を取ってくるよう前川に指示をして、その中に入れる事に成功した。
「良かったぁ……」
「で、話聞きましょうか坊」
ほっとしたのも束の間、低く響く声に肩を震わせる。
「そ、それより……どうしてピィちゃんの居場所わかったの?」
話を逸らそうと必死な姿に、鬼怒川の口角があがっている。
「――念のため、ピィさんの足に仕込んでますから」
「何を?」
答えない鬼怒川の前で、竜児が小首を傾げている。そんな二人の様子を見ていた前川は、自身の身の振り方について考えていた。
「家戻って話聞きましょか、坊」
「えー……えっと……何を仕込んでたか教えて貰ってからでいい?」
「ええわけないやろが。帰る言うとんねん、はよ来い。話聞いたあとはしっかりおしおきしたるからな覚悟しときぃや」
そう言って歩き出した鬼怒川の後ろを、とぼとぼとしつつもにんまり顔の竜児がついていく。
「あ、あのぅ……」
何も触れられない事に逆に恐怖を感じた前川が、たまらず声をかける。鬼怒川がいたのかとでも言うように、視線を向けて向かってきた。
「坊のお世話ありがとおなあ。でもなぁ、仕込んだのは鳥の足だけちゃう。気付いて無いやろけどおまえにも仕込んどるねん。これに懲りたら坊に変な事しようとすんなよ」
耳元で凄まれた。
同時に、どこに何をいつの間に仕込まれていたのかと恐怖に包まれながら、二人が去っていくのを見送った。
入り口は出口も兼ねているらしい。そこから出てきたスーツの男の低い声には聞き覚えがあった。
「絹田さん……?」
「やば」
ぽかんとする前川の横で、竜児は小さく呟いた。そのまま前川の背面へと身を隠すが、今更何をしても遅い。
「なにしとんや、坊。数日おらんだけで他の男たらし込むんか」
怒声ではない、淡々とした西の方の言葉は関東生まれ関東育ちの前川を余計に怖がらせた。
明らかにカタギではない様子の男が大事にしている青年と今自分は何をしようとしていたのか。
考えがそこまでやっと及んで、熱くなっていた頭が一気に冷めた。青くなる前川の背中を、竜児がきゅっと摘まんだ。
「い、いやあのこれは――」
「おのれにきいとらんわ。余計な事しよってほんま……」
冷たい目で言い放たれ、思わず口を噤んでしまう。
正直宅配先には同じような怖い人がたくさんいる家もあったが、皆表面上は穏やかだ。何より正規の仕事で行っている事だから、なんの気おくれをした事も無かった。
しかし、今回は明らかに前川に非があった。
「制服着たまんまこんなとこ入ってええんか?」
「そ、それは……」
よろしくないですね。とまでもいう間も無く、鋭い目の男は竜児の手を掴んだ。
「ち、ちがうっ!ピィちゃんが逃げちゃって、こっちに飛んでいったんだ!ね?!」
「――はい!」
必死の竜児にせっつかれ、前川も首をヘドバンのように振った。
二人の顔を見遣り、竜児の靴が見慣れないものだと気付いた鬼怒川は、ため息を吐きながら前髪を掻き揚げた。
おもむろにスマートフォンを取り出すと、何やら操作を始めると、ホテルの方へと歩き出した。
「――坊、お探しのもんはあれですね?」
指さした先にはピィちゃんがいる。竜児が驚きの声を上げる前に、鬼怒川がその口を塞ぐ。
「――しっ……少し待って下さい」
指を出し、ピィちゃんの近くで停止する。しばらくそうしていると、小さく鳴いたピィちゃんが鬼怒川の指に飛び乗って来た。
声を出さないまま、落ちているダンボール箱を取ってくるよう前川に指示をして、その中に入れる事に成功した。
「良かったぁ……」
「で、話聞きましょうか坊」
ほっとしたのも束の間、低く響く声に肩を震わせる。
「そ、それより……どうしてピィちゃんの居場所わかったの?」
話を逸らそうと必死な姿に、鬼怒川の口角があがっている。
「――念のため、ピィさんの足に仕込んでますから」
「何を?」
答えない鬼怒川の前で、竜児が小首を傾げている。そんな二人の様子を見ていた前川は、自身の身の振り方について考えていた。
「家戻って話聞きましょか、坊」
「えー……えっと……何を仕込んでたか教えて貰ってからでいい?」
「ええわけないやろが。帰る言うとんねん、はよ来い。話聞いたあとはしっかりおしおきしたるからな覚悟しときぃや」
そう言って歩き出した鬼怒川の後ろを、とぼとぼとしつつもにんまり顔の竜児がついていく。
「あ、あのぅ……」
何も触れられない事に逆に恐怖を感じた前川が、たまらず声をかける。鬼怒川がいたのかとでも言うように、視線を向けて向かってきた。
「坊のお世話ありがとおなあ。でもなぁ、仕込んだのは鳥の足だけちゃう。気付いて無いやろけどおまえにも仕込んどるねん。これに懲りたら坊に変な事しようとすんなよ」
耳元で凄まれた。
同時に、どこに何をいつの間に仕込まれていたのかと恐怖に包まれながら、二人が去っていくのを見送った。
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