鬼怒川さんと坊

花田トギ

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逃亡先の安らぎ

小鳥で逃亡2

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「どこに行ったんだろ……」
 とぼとぼと歩く竜児の横には、制服姿の横川が付いていた。人が疎らな商店街で、裸足の美青年に皆異様な目を向けている。お節介なおばさんが声をかけようとはしてきたりもするが、顔を見知った横川がいる事で声をかけられる事も無かった。
 それでも向けられる好奇心に溢れた目線を気にすることなく、竜児は歩いている。
「これだけ探して見つからないなら、家に戻っているとかないですかね?」
「そうだと良いんだけど……」
「それより、少し休憩しませんか?走りっぱなしで疲れたでしょう」
 こくりと竜児が頷くのを見て、横川は喫茶店へと竜児を案内した。
 馴染みの店主が、何かを感じ取ったのか目線だけで合図を寄こしてくるが、横川は首を横に振る。
「さあどれにします?オレ給料日後なんで、なんでも奢りますよ」
 暗い雰囲気を払拭するように、横川がわざと明るく言うが、竜児はメニュー表に目もくれない。
「甘いの好きでしたよね。ケーキとかもありますよ。プリン、パフェ、メロンソーダ……あーオレも食べたくなってきた」
「……メロンソーダが良い」
「お!良いですね!じゃあオレも同じのにしよーっと」
 店主に注文を済ませると、横川は席を立った。
「ちょっとだけ待っててください」
「え……?」
 不安げに揺れる瞳に、横川の心臓も揺れる。こんなに追いすがる瞳があるのだろうか。
「――っメロンソーダ出てくるまでに戻りますから」
 安心させるようにゆっくりと言葉を紡ぐと、竜児はチラリと作業に取り掛かっている店主を見た。きっと、多分、そんなに時間はかからないはずだ。
「わかった」
 そう言って、目線を窓の外に戻した。もしかしてピィちゃんを探しているのかもしれない。
 鬼怒川がいない中での出来事だ。鬼怒川への連絡手段を竜児はもっていない。こんなにも孤独なのかと、一人の寂しさを感じ始めていた。
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