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二章

食べるものではなく、食べる人が重要なのである

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「ごめんね、待たせたわ」

「え、あ、いえ……。そんなに待ってません」

 女神様(仮)はやたら上品にカップラーメンを平らげる。あまりに所作が綺麗すぎて、ラーメンが高級料理に見えた。
 彼女はこれまた美しい動作で口を拭った後、俺にどうやってここまできたのか尋ねる。

(嘘ついても仕方ないよなぁ)

 どう説明したらいいものか少し迷うも、ここではない世界で生きた記憶のある友人が娯楽の一環でやっていたゲームに記載されていた道順通りに来たら来れた、としどろもどろになりながら説明した。
 あまりに荒唐無稽な話だけど、それ以外に説明のしようがないのだ。俺たちだってここまで半信半疑で来たわけで。
 うーん、信じてもらえなかったらどうしよう。不敬罪だろうか。でも本当だし……。

「……うん、はー、なるほど。なるほどね。降格と減給じゃ足りなかったかしら」

「えーと、信じていただけるかわかりませんが……僕が嘘言ってるかどうかはなんらかの神様パワーで判別していただければ」

「いえ、その必要はないわ。大丈夫よ」

 想像に反してするっと呑み込んでくれたものの、疲れたようにこめかみさすりながらでっかいため息をつく女神様になんだか不安になり、声が弱々しくなってしまう。
 そして、不意に気づいてしまった。

 あれ、ていうかリアムとマリアベルは?
 ここにいるの、俺一人?

 ハッと背後を振り返るもそこに広がるのは一面の白、白、白。
 嘘だろ。こんな不思議空間ではぐれたのか?
 ラーメンを食べる女神様のインパクトで吹き飛んでいた非日常体験の恐怖が一気に襲ってくる。
 アルロの家の地下にいた時より遥かにゾッとした。だってもし何かあっても、こんな圧倒的存在を前にして逃げ切るなんて俺じゃ不可能だ。
 慌てて自分の両腕を抱きしめて、さっきまで感じていたはずのリアムの魔力を探る。彼の優しい魔力に触れていないと女神様の前で失態を犯しそうだった。

(まだ、残ってる……。リアム、どこにいるんだ?)

 急に押し黙った俺を女神様が目ざとく見つけ何か声をかけてくるが、あの誘拐事件が思いのほか深層心理にダメージを与えているのかリアムと会えなくなってしまっていることに莫大な不安を感じている俺は上手く答えられない。

「……リアムが……」

「リアム……ああ、あの子ね。ちょっと待……、ん、ん? は?」

 女神様は不思議な陣を空中に描く。途端、飄々としていた表情が険しいものになった。

(まさか、リアムに何か!?)

 一気に血の気が引いて足元が寒くなる。
 青い顔をした俺とは逆に女神様の顔はみるみるうちに真っ赤になって……。

「アーメーリーアーー!! あんた、いい加減にしなさい!!!!」

 ……陣に片腕を突っ込みながら大声で誰かの名を叫ぶと、小さな少女の首根っこを掴んでその場に引きずり出した。





「リアムっ!」

 少女と一緒に義兄とマリアベルも空間に現れたのを見つけ、急いで彼の元に走る。
 リアムは呆然とした顔で周囲を見渡してから、俺を視界に入れると安心したように微笑んだ。

「シャノン、やっと会えた」

「はあ、び、びっくりした……。今度はリアムが攫われたのかと」

 人目も憚らず彼の胸の中に飛び込んで頬擦りする。胸いっぱいにリアムの匂いを吸い込んで、ようやく安堵することができた。
 その気持ちを汲んでくれているのか義兄は優しい手つきで俺の頭を撫で、お返しと言わんばかりにぎゅっと抱きしめてくれる。
 不安でバクバクと鳴っていた心臓も徐々になりを潜め、喉が楽になった。情けないが無意識のうちに呼吸が浅くなっていたようである。

「リアムはあの後どこに」

「ふ、う、うわあああん!! ごめんなさいぃいいい!」

 安心したところで今の今まではぐれていたリアムに経路を色々聞こうと思った瞬間、鈴を転がすような可憐な声を張り上げて泣いている少女の音が耳に飛び込む。思わず俺たちの間に静寂が訪れた。
 そのせいで余計少女の大声が辺りに響き渡る。
 めそめそ、しくしく……とかじゃない。ガチのギャン泣きである。
 泣き声の方向を見れば少女――というよりロリと言った方が正しいであろう、幼い見た目の女の子が女神様に向かってボロ泣きしていた。

 え、な、何? なんだ? 何事?

 目を白黒させて困惑している俺に義兄がそっと耳打ちする。

「……あの子が言うには、彼女は天使なんだそうだ。それで、なんというか……。……本当か分からないが、君とマリアベル嬢は彼女の愛し子、らしい」

「……ん?」

「アメリア! 私は言いましたよね。もう接触禁止だと! それをよくもまあぬけぬけと」

「ちがうぅ、ちがうんですぅ! 本当に今回は何もするつもりなくて、謝りたくて! ぐすっ、うう、だってアメリア夢渡りできないもん~! うわぁああん!」

 正座させられ大泣きしているロリ。大声で叱っている女神様。

 愛し子? なん……え?

(え? いやいやいや……俺ってテディの愛し子じゃないの? 愛し子ってダブルブッキングOKなの?)

「シャノン」

「マリアベルっ、無事?」

「見ての通りよ。今聞いたかもしれないけど、私たち……あの小さい女の子の使徒というか、愛し子というか……そういう存在らしいんだけど。今まで会ったことある?」

「いや、ないけど……」

 横目で天使を見てみる。
 女神様とお揃いの髪色、林檎色のほっぺに溢れそうなくらい大きな瞳。
 その辺を歩いていたら即誘拐されそうなくらい可愛い顔をしている女の子だ。ロリだけど。
 一度見たら忘れられないくらい可愛い見た目の子、今まで生きてて会ったどころか視界に入れたこともないはずだ。

 大困惑中の俺達をふと視界に入れた女神様が今日二度目になる大きな大きなため息をついて、申し訳なさそうに口を開く。

「ごめんなさい。貴方達の境遇は全部このバカのせいなの」
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