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推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする
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しおりを挟む瞼の向こうにぼんやりとした月光を感じ、うっすらと目を覚ます。
次いで身体も起こそうとしたけど、何かに阻まれてそれは叶わなかった。
横を見ると長いまつ毛で縁取られる瞳を閉じ、薄い唇を小さく開け眠っているように見える男がいる。
(ね、眠ってても顔が良い…………)
反射的にぎゅっと目を瞑ると不意に目の前の男が笑った気配がして、俺の胴体に巻きついていた腕に力がこもった。
「……起きてたんですか?」
「というより、そもそも最初から寝ていないな」
気恥ずかしさから拗ねたような言い方になる。
腕で顔を隠そうとしたけど師匠の手によってすぐに剥がされた。
「まさかあれくらいで気絶してしまうとは。可愛いな? テオ」
「あっ!? あれ……あれくらいって……」
「ああ、うん、すまない。怒らないでくれ」
俺の人生で一番恥ずかしい出来事だったんですけど!?
師匠に散々あんなところやこんなところを触られほにゃほにゃされた出来事を思い出して徐々に顔が朱に染まる。
嬉しそうに目元を緩める顔を見て毒気を抜かれたような気持ちになるが、目は合わせられず視線を下に逸らす。
……逸らしたが、意外と鍛えられた師匠の身体が目に入りもう視線の行き所がなくなってしまった。
この人基本家にいるのに何でしれっと腹筋が割れてるんだ!!
俺の様子を眺めているのか頭上に師匠の視線をびしばしと感じる。
しばらくした後、不意に小さな声で「テオ」と名前を呼ばれ、ゆっくり顔を上げた。
「……何度でも言う。おまえの相手は俺だ。すまないが、逃す気はなかったから外堀は事前に埋めた。……嫌だと言っても抜け出させてやれない」
「ああ!! もうっ……大丈夫ですっ! 男の人紹介してくれなんて二度と言いません!」
「……いや、そうではなく……」
「ディランさん!!」
今度は師匠が俺から目を逸らす番だった。この人は今、俺に対して何を怖がっているのだろう。
両手を彼の頬に添えると、こちらを向いてくれるよう懇願する。
ちらりと俺を見た師匠の視線を捕らえ、耳まで熱が広がるのを感じつつも伝えなければならない言葉を口にする。
「大丈夫です! ……ああ、ええと、別にそれでも良いって意味じゃなく……。あの、俺も、多分おそらく……、いや、えと、多分じゃなくて……。……俺、ディランさんのことちゃんと好きですから」
人生初めての愛の告白は、あまり素直に言葉が出てこなかった。
……好きでもない人にあんな恥ずかしい行為を許すほど、俺の貞操観念は死んでいない。
師匠は切長の瞳を小さく見開き、俺の言葉を咀嚼する。
やがていきなり視界が暗くなったと思えば、師匠に思い切り抱きしめられていた。
「テオ。おまえが成長するたびにどんどん愛しくなっていって、絶対に誰にもやりたくないと思った。……俺のことを打ち明けてもいないのに、おまえを囲った。その上でテオに伝えなければならないことがある。許さなくてもいいから、俺の話を聞いてくれないか」
「……はい! 俺、師匠に何言われても大丈夫だと思います。多分ですが、だいたい予想もついてます」
「そうか……。おまえは聡い子だからな」
師匠の温もりと匂いを全身で感じながら、師匠が俺に打ち明けたいという内容を予測する。
前々から、師匠が俺と一緒にいない時の行動を度々知っているように発言することが気になっていた。
別に嫌な気持ちになっていたわけじゃないので深く考えていなかったが、多分、アレだ。
師匠は俺に盗聴か行動監視の類の魔法をかけていると思う!!!
これは名推理ではないだろうか。そりゃあ、弟子の行動を逐一監視してましたなんてこと告白できないだろう。
師匠相手だからされてても構わないけど、別の人にやられたら普通に訴えるもんな。
さあ、師匠!! どんとこい!!!
「俺は……――魔族の末裔だ」
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