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推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする

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「……えっと」

「テオ、おまえの両親に俺のことはなんと言われている?」

「え? うんと……捨てられるなって言われました。そんなにすぐ破門になりそうに見えたんですかね? 俺」

「……………………なるほど」



 神妙に頷いた師匠を見て、これはもしかして真面目な話か? と俺も気を引き締める。
 キリッとした顔で師匠を見ていると、彼はソファに座り俺に向かって手を揺らしその場に呼んだ。

 彼に招かれるがままそばに近寄れば、ぐっと腰を引かれ声を出す間もなく師匠の膝に着地させられた。



「し、師匠?」

 彼と向き合う形で座る状態になっていると、必然的に二人の物理的な距離が近づく。
 端正な顔立ちが間近にあることが気恥ずかしくて、頰が熱くなった。
 顔を逸らそうとしたけど、師匠の指が顎に添えられて強制的に視線が交わる。


「テオ、おまえの相手は俺だ。俺以外にいるはずがない」

「…………? 何を……、か、揶揄ってますか?」

「俺がこんな冗談を言うわけないだろう。俺はテオの両親に挨拶に行った時からずっとおまえのことを未来の婚約者として扱ってきたつもりだったがな?」

「……え、あ……。……え? あの……んっ」


 次々に告げられる言葉に頭がこんがらがった。意味のない言葉しか紡げなくなり、喉に何か張り付いたように声が出なくなる。
 混乱したまま、でも師匠から視線を逸らすことは許されず、さぞ間抜けな顔を晒していたはずの俺に師匠の瞳が愉快そうに弧を描いた。


 その笑みに心臓が高鳴り、ただでさえ熱かった頬の熱が顔全体に伝染する。
 うろうろと視線だけを彷徨わせていると急に師匠の顔が視界全体に広がり、小さなリップ音を立てて唇に柔らかな感触が伝わった。



「…………ししょっ、んぅ」

「こういう時はディランと呼べ、テオ。はあ、可愛いおまえの初めての口付けを貰う日をずっと楽しみにしていたが、想像以上だ」

「はっ!? はじっ、初めてじゃない!!」


 ちゅっちゅ、と啄むように繰り返される口付けに脳が沸騰する。
 もうまともに考え事ができなくなり、思った言葉をそのまま口から出した。



「……………………なんだと?」

「し……、ディランさんっ、ちょっと前に俺の口の端にちゅーしたじゃないですか! 俺の初めてはアレです! 忘れちゃったんですか!?」

「は? ……ああ、ふ、あれを初めてにカウントするのか。可愛いなあ?」



 一瞬急激に部屋の温度が下がったがすぐ元に戻った。師匠ほどの魔法使いになると空間の温度も自由自在なのだろうか。



「はっ……、ちがっ、そんなことはどうでもっ……。どういうことですか? 師匠として俺の将来にそんな責任感じなくて良、ひゃっ、ん、んん~~~~!」



 真意を知りたくて師匠の口に手のひらを押し当てて口付けの嵐を止めたのに、ぺろりと手を舐められ俺が驚き力を緩めた隙にまた何度も何度も口に唇を押し当てられた。



「……師としての気持ちだけでずっと接してきたと? おまえの未来を貰い受けるのも師の責務からだと言うのか」

「だっ、だって……だって……」

「可哀想なテオ。おまえは初めて会った時から俺に見初められてたんだよ。せめておまえが十六になるまでは師匠として接してやろうと思っていたが、俺以外を選ぼうとする弟子には教えてやらないとな?」



 ――愛の前には歳なんて関係ないんだろ? と耳元で囁かれ、背筋にぞくりとした感覚が走る。
 耳まで真っ赤に染めた俺を見つめた師匠は、口の端を上げるとそのまま俺を抱きかかえ彼の部屋へと転移した。
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