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推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする

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 期待と不安を胸に入学した学園生活は気づけば半年過ぎ、なかなか楽しいものではあった。
 知識面での学びはもちろんのこと、田舎では見かけないくらいキラキラした人がたくさんいたのでちょっとワクワクした。

 しかし師匠の顔面偏差値に慣れている俺はキラキラパワー全開の少年少女を見ても眩しさに目が潰れることはない。師匠様様だ。



「やぁ、テオドール」

「! ごきげんよう、イーサン殿下」



 だが例外もいる。例外筆頭が彼、第一王子殿下。
 光を反射する美しい金の髪に、青空のように澄んだ瞳がよく映えている。
 整った顔立ちが優しげな笑みを浮かべて俺に視線をよこす。ま、眩しい!
  


 俺がディランさんに魔法を教わっているということはかなり衝撃的な出来事らしい。
 なにせ入学早々第一王子殿下に直々にお声がけいただいたくらいだ。その時の俺はビビるあまり垂直に二センチくらい飛んだ。小物すぎる。


 探りを入れる気がないので師匠が本当は何者なのかは実は知らないのだが、俺が思ってるよりもっともっと雲の上の人なのかもしれない。



「長期休暇は実家に帰るのかい?」

「はい。家族と過ごそうと考えておりまして……」

「あぁ、そうだよね。久しぶりにディラン殿にも会いたいだろう」

「えっ!? あ! はい!」



 毎日会ってます! とは言えず、にこりと笑っておく。


 転移魔法で通うことを決めた時、師匠ととある約束をした。それは、俺がこんな距離転移できることを誰にも知られてはいけない……ということだ。
 ゆえにわざわざ寮の部屋自体は確保した上で、念には念を入れて部屋の中に俺のダミーも設置し、師匠の家に帰宅している。

 師匠直々に指導していただいている俺は長距離転移とかいう人外芸当をやってのけるが、こんな距離が飛べる魔法士なんてほとんどいないらしい。そりゃそうだろう。
 ゆえに、偉い人にバレてしまうと俺は軍の先頭に放り込まれた上に怖い人の手によって海に沈められると脅された。王都怖すぎるだろ。
 

 ゆくゆくは冒険者登録でもしてのんびり過ごしたいと思っている俺は、王都のヤバい権力に興味なんてないし捕まりたくもないのだ。バレてはいけないと師匠に力説され、一にも二もなく頷いた。



 ……ここだけの話、学園での魔法の成績も若干手を抜いている。
 ディランさんに師事している身として成績を落とすわけにはいかないので一位は譲らないが、優秀の範囲にとどめられる程度に抑えている。

 今でさえ卒業後の様々な勧誘をお断りするのに苦労しているのに、実はもっと魔力もあるしヤバい魔法も使えます! なんてバレたら海に沈められてピラニアの餌にされるに決まっている! 王都怖い!




「あぁ、うん、ふふ……。テオドールが今のまま、ディラン殿を好きでいてくれれば安泰だ」

「……? はい、お……私は師匠のことを尊敬していますので」

 ピラニアに食いちぎられる妄想をしてブルっていると殿下が真意の読めない発言をした。貴族、こういう言い回し大好きなところが困る。
 まあ悪い感情はないだろうと判断して俺も曖昧に微笑んでおく。

 俺の目が潰れる筆頭キラキラ人間の殿下は、満足そうに頷いてその場を去っていった。



 ちなみに師匠の顔面偏差値になれた俺の目をも潰す殿下以外のキラキラ人間は、だいたい殿下の側近だ。
 騎士団の息子、宰相の息子、魔法士団長の息子の三人である。
 なんだかどこかで組み合わせだなぁ。
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