OH MY CRUSH !!

文月 七

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 見るとお弁当箱の中身も空だ。
「本当によく食べますね。」
 片づけながら、感心します、というりんに、いや男はこれくらいが普通だから、と倖が即答した。
「あ、俺今日一緒に帰れないわ。商店のばあさんのとこ行かんといけん。」
「そんなにおばあさんと仲良くなったんですか?」
「いや、昨日ばあさんとこの洗濯機壊したから弁償の話しに。」
 昼は客がいっぱいで話せなかったんだよな、とサランラップを集め始める。
 弁当箱をハンカチで包みながら、どしたら他人様のおうちの洗濯機を壊すとかそんなことになるんですか、とりんは呟いた。
「……色々あったんだよ。」
「そうですか……。ちなみに、ほ、放課後ぶらぶらするのって、つ、続けるんですか?」
 正直倖から『今日は』一緒に帰れない、と聞いて心臓が跳ね回っているのだ。ということは、だ。それは、明日からも毎日一緒に帰る予定だけれども『今日は』帰れない、ということなんだろうか?
「別にいーだろ、もう。どうせ暇だろ。」
「暇、ですけど……あ、でも今日は図書館に行くんでした。暇じゃありません。」
「図書館~?……おまえ、あの佐藤とかいうやつに愛想よくすんじゃねぇぞ。てか無視しろ。」
「できませんよ、何言ってるんですか。私に愛想よくしてくれる人なんて、そんなにいないから貴重なのに。それに、話しかけてくれてるのに無視するなんて失礼です。」
「失礼じゃねぇ。むしろ向こうが失礼だ。」
「……ちょっと何言ってるかわからないです。」
 と、訳のわからないことを言い募る倖にりんは頬を膨らませたのだった。


  ◇◇◇◇◇◇


 膨れっ面で水筒から汲んだお茶にふぅふぅと息を吹きかけているりんを見て、思わず倖は彼女から視線を外し口元を押さえて呻いた。
 猫舌か。
 チラリとりんを見ると、顰めっ面で怖々とコップに口をつけている。
 倖もペットボトルの炭酸飲料を手に取りながら、また、りんから視線を外した。

 さっき。
 柴田と沢ちゃんの話になったとき。
 狼狽えているりんを、一瞬。
 本当に、一瞬。
 か、かわいいとか、思ってしまった。

 そして今目の前でぶーたれてんのも、ちっとかわいい、とか思ってる自分がいて死ぬほど嫌だ。
 かわいくないのに。
 小顔ではあるが、眼鏡とその奥に収まった目が全てを台無しにしているのだ。

 客観的にみれば。

 そうだ、客観的に考えればかわいくないだろ、どう考えても。かわいいと思ってしまったのは主観であるから、えっと、客観と主観てどっち優先すればいい?
 それに、俺には一目惚れした〝あの子〟がいるし、いるのにな。
 また軽く混乱する思考をりんに気取られないように、ごっそさん、と倖は手をあわせた。
 それにりんも、ごちそうさまでした、と倖ににっこりと笑ってみせたので、倖はさらに客観と主観の狭間で悩むのだった。
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