110 / 135
-
しおりを挟む
見るとお弁当箱の中身も空だ。
「本当によく食べますね。」
片づけながら、感心します、というりんに、いや男はこれくらいが普通だから、と倖が即答した。
「あ、俺今日一緒に帰れないわ。商店のばあさんのとこ行かんといけん。」
「そんなにおばあさんと仲良くなったんですか?」
「いや、昨日ばあさんとこの洗濯機壊したから弁償の話しに。」
昼は客がいっぱいで話せなかったんだよな、とサランラップを集め始める。
弁当箱をハンカチで包みながら、どしたら他人様のおうちの洗濯機を壊すとかそんなことになるんですか、とりんは呟いた。
「……色々あったんだよ。」
「そうですか……。ちなみに、ほ、放課後ぶらぶらするのって、つ、続けるんですか?」
正直倖から『今日は』一緒に帰れない、と聞いて心臓が跳ね回っているのだ。ということは、だ。それは、明日からも毎日一緒に帰る予定だけれども『今日は』帰れない、ということなんだろうか?
「別にいーだろ、もう。どうせ暇だろ。」
「暇、ですけど……あ、でも今日は図書館に行くんでした。暇じゃありません。」
「図書館~?……おまえ、あの佐藤とかいうやつに愛想よくすんじゃねぇぞ。てか無視しろ。」
「できませんよ、何言ってるんですか。私に愛想よくしてくれる人なんて、そんなにいないから貴重なのに。それに、話しかけてくれてるのに無視するなんて失礼です。」
「失礼じゃねぇ。むしろ向こうが失礼だ。」
「……ちょっと何言ってるかわからないです。」
と、訳のわからないことを言い募る倖にりんは頬を膨らませたのだった。
◇◇◇◇◇◇
膨れっ面で水筒から汲んだお茶にふぅふぅと息を吹きかけているりんを見て、思わず倖は彼女から視線を外し口元を押さえて呻いた。
猫舌か。
チラリとりんを見ると、顰めっ面で怖々とコップに口をつけている。
倖もペットボトルの炭酸飲料を手に取りながら、また、りんから視線を外した。
さっき。
柴田と沢ちゃんの話になったとき。
狼狽えているりんを、一瞬。
本当に、一瞬。
か、かわいいとか、思ってしまった。
そして今目の前でぶーたれてんのも、ちっとかわいい、とか思ってる自分がいて死ぬほど嫌だ。
かわいくないのに。
小顔ではあるが、眼鏡とその奥に収まった目が全てを台無しにしているのだ。
客観的にみれば。
そうだ、客観的に考えればかわいくないだろ、どう考えても。かわいいと思ってしまったのは主観であるから、えっと、客観と主観てどっち優先すればいい?
それに、俺には一目惚れした〝あの子〟がいるし、いるのにな。
また軽く混乱する思考をりんに気取られないように、ごっそさん、と倖は手をあわせた。
それにりんも、ごちそうさまでした、と倖ににっこりと笑ってみせたので、倖はさらに客観と主観の狭間で悩むのだった。
「本当によく食べますね。」
片づけながら、感心します、というりんに、いや男はこれくらいが普通だから、と倖が即答した。
「あ、俺今日一緒に帰れないわ。商店のばあさんのとこ行かんといけん。」
「そんなにおばあさんと仲良くなったんですか?」
「いや、昨日ばあさんとこの洗濯機壊したから弁償の話しに。」
昼は客がいっぱいで話せなかったんだよな、とサランラップを集め始める。
弁当箱をハンカチで包みながら、どしたら他人様のおうちの洗濯機を壊すとかそんなことになるんですか、とりんは呟いた。
「……色々あったんだよ。」
「そうですか……。ちなみに、ほ、放課後ぶらぶらするのって、つ、続けるんですか?」
正直倖から『今日は』一緒に帰れない、と聞いて心臓が跳ね回っているのだ。ということは、だ。それは、明日からも毎日一緒に帰る予定だけれども『今日は』帰れない、ということなんだろうか?
「別にいーだろ、もう。どうせ暇だろ。」
「暇、ですけど……あ、でも今日は図書館に行くんでした。暇じゃありません。」
「図書館~?……おまえ、あの佐藤とかいうやつに愛想よくすんじゃねぇぞ。てか無視しろ。」
「できませんよ、何言ってるんですか。私に愛想よくしてくれる人なんて、そんなにいないから貴重なのに。それに、話しかけてくれてるのに無視するなんて失礼です。」
「失礼じゃねぇ。むしろ向こうが失礼だ。」
「……ちょっと何言ってるかわからないです。」
と、訳のわからないことを言い募る倖にりんは頬を膨らませたのだった。
◇◇◇◇◇◇
膨れっ面で水筒から汲んだお茶にふぅふぅと息を吹きかけているりんを見て、思わず倖は彼女から視線を外し口元を押さえて呻いた。
猫舌か。
チラリとりんを見ると、顰めっ面で怖々とコップに口をつけている。
倖もペットボトルの炭酸飲料を手に取りながら、また、りんから視線を外した。
さっき。
柴田と沢ちゃんの話になったとき。
狼狽えているりんを、一瞬。
本当に、一瞬。
か、かわいいとか、思ってしまった。
そして今目の前でぶーたれてんのも、ちっとかわいい、とか思ってる自分がいて死ぬほど嫌だ。
かわいくないのに。
小顔ではあるが、眼鏡とその奥に収まった目が全てを台無しにしているのだ。
客観的にみれば。
そうだ、客観的に考えればかわいくないだろ、どう考えても。かわいいと思ってしまったのは主観であるから、えっと、客観と主観てどっち優先すればいい?
それに、俺には一目惚れした〝あの子〟がいるし、いるのにな。
また軽く混乱する思考をりんに気取られないように、ごっそさん、と倖は手をあわせた。
それにりんも、ごちそうさまでした、と倖ににっこりと笑ってみせたので、倖はさらに客観と主観の狭間で悩むのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
シュガーグライダーズ
もっちり羊
青春
友情、恋愛、部活動。青春の熱であるはずのそれらすべてが退屈に感じられる高校生、『折節イチハ』。
楽しい青春を探すため、彼女は奔走し、学校から、そして世界の理から外れていく。
アルファちゃんと秘密の海岸 第1話 根も葉もない話
たいら一番
青春
少女ミチと、謎の少女アルファちゃん達の徒然なるお喋り。7000字程度の短いストーリーなので、暇な時に、暇つぶし、話しのタネになるかも。女の子たちがあーだこーだ話してるだけ。
切り抜き師の俺、同じクラスに推しのVtuberがいる
星宮 嶺
青春
冴木陽斗はVtuberの星野ソラを推している。
陽斗は星野ソラを広めるために切り抜き師になり応援をしていくがその本人は同じクラスにいた。
まさか同じクラスにいるとは思いもせず星野ソラへの思いを語る陽斗。
陽斗が話をしているのを聞いてしまい、クラスメイトが切り抜きをしてくれていると知り、嬉しさと恥ずかしさの狭間でバレないように活動する大森美優紀(星野ソラ)の物語
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる