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「結局なんだったの?胃潰瘍的な?」
「そうだったみたい。なんだろ?ストレス?胃痛がすごくて、起きあがれないくらいだったんだけど、結局小さい胃潰瘍があっただけでさ。でも大きくなる前でよかったよ、てお医者さんさんには言われたよ。」
照れながら答える篠田さんに、わはは、と豪快に笑いながら迫田さんがバシバシと背中を叩く。
「よかったじゃん!元気になって!もう痛くないんでしょ?」
「うん、おかげさまで。」
篠田さんははにかんで答えた。
「えー、胃潰瘍て、篠田そんなに繊細だった??」
「繊細だっつーの。……一応本当は一年前くらいからちょっとずつ痛かったからね。」
自分でもびっくりのナイーブっぷりさ、と篠田さんがおどけてみせた。
本当に大丈夫ー?と心配する友人達に、大丈夫大丈夫、と手をふり彼女は自分の席へと着席する。
迫田さんはそれでも気遣わしげに篠田さんに視線を送っていたが、困ったように笑う彼女からガッツポーズを返され自らも着席した。
りんはそれを眺めながら、ほっと胸をなで下ろす。
あれから、あれの置き土産は花壇横を通るときだけブロック塀に移動している。
もう、素通りしてしまおうと思うのだが、どうしても目に入ってしまい、そうすると気になって仕方ないので出来る範囲でどかしていた。
花壇には今、コスモスが植えられている。
色とりどりのコスモスは、新しい品種なのだろうか、りんが小さい頃に見ていたものよりも背が低く小振りだった。それが背後の灰色したブロック塀に映えてとてもかわいらしいのだ。
……そこに気持ちの悪いオブジェを並べてしまうのが後ろめたくなるくらいに。
まぁ、誰にも見えていないということは、わかっているのだけど。
先生がガラリと扉を開けて入ってくる。次の授業は美術だ。
スケッチじゃありませんように、と祈りながら美術の教科書を引っ張りだした、その時。
りんの席の右横から白いひらひらとした物が視界の隅にかかるのがわかった。
また、だ。
最近、よく、これが側を通る。
白い布地はよたよたと前方へ進み、眼鏡の端の視界から消える。最後にひらりと翻るその一瞬、視える、赤。
絵の具をこぼしたような、真っ赤な。
りんはぞくりと肌を泡立たせて、ぎゅっと目を瞑る。
何が、とも、言えないが。
ただ、その翻る赤がひどく怖かった。白いワンピースがただ、翻る。そこには赤いシミがついている。
ただ、それだけなのに。
怖い。
白いワンピース。
そういえば。
同じようなワンピースを、視たことがある気がする。
どこでだったか。
小さい頃に?
幼稚園とか?
もしかして小学校で?
目を瞑ったまま思考に没頭していたとき、美術の先生がスケッチ用の画用紙を今から配ると話す声が聞こえ、はっと我に返った。
どうやら願いむなしく、今日は本当にスケッチの授業だったらしい。絵、下手くそなのに、とさらに憂鬱な気持ちになった。
暗闇の中、カサカサと画用紙が配られる音がする。
りんはゆっくりと目を開けた。
眼鏡の端には、もう何も映っていなかった。
「そうだったみたい。なんだろ?ストレス?胃痛がすごくて、起きあがれないくらいだったんだけど、結局小さい胃潰瘍があっただけでさ。でも大きくなる前でよかったよ、てお医者さんさんには言われたよ。」
照れながら答える篠田さんに、わはは、と豪快に笑いながら迫田さんがバシバシと背中を叩く。
「よかったじゃん!元気になって!もう痛くないんでしょ?」
「うん、おかげさまで。」
篠田さんははにかんで答えた。
「えー、胃潰瘍て、篠田そんなに繊細だった??」
「繊細だっつーの。……一応本当は一年前くらいからちょっとずつ痛かったからね。」
自分でもびっくりのナイーブっぷりさ、と篠田さんがおどけてみせた。
本当に大丈夫ー?と心配する友人達に、大丈夫大丈夫、と手をふり彼女は自分の席へと着席する。
迫田さんはそれでも気遣わしげに篠田さんに視線を送っていたが、困ったように笑う彼女からガッツポーズを返され自らも着席した。
りんはそれを眺めながら、ほっと胸をなで下ろす。
あれから、あれの置き土産は花壇横を通るときだけブロック塀に移動している。
もう、素通りしてしまおうと思うのだが、どうしても目に入ってしまい、そうすると気になって仕方ないので出来る範囲でどかしていた。
花壇には今、コスモスが植えられている。
色とりどりのコスモスは、新しい品種なのだろうか、りんが小さい頃に見ていたものよりも背が低く小振りだった。それが背後の灰色したブロック塀に映えてとてもかわいらしいのだ。
……そこに気持ちの悪いオブジェを並べてしまうのが後ろめたくなるくらいに。
まぁ、誰にも見えていないということは、わかっているのだけど。
先生がガラリと扉を開けて入ってくる。次の授業は美術だ。
スケッチじゃありませんように、と祈りながら美術の教科書を引っ張りだした、その時。
りんの席の右横から白いひらひらとした物が視界の隅にかかるのがわかった。
また、だ。
最近、よく、これが側を通る。
白い布地はよたよたと前方へ進み、眼鏡の端の視界から消える。最後にひらりと翻るその一瞬、視える、赤。
絵の具をこぼしたような、真っ赤な。
りんはぞくりと肌を泡立たせて、ぎゅっと目を瞑る。
何が、とも、言えないが。
ただ、その翻る赤がひどく怖かった。白いワンピースがただ、翻る。そこには赤いシミがついている。
ただ、それだけなのに。
怖い。
白いワンピース。
そういえば。
同じようなワンピースを、視たことがある気がする。
どこでだったか。
小さい頃に?
幼稚園とか?
もしかして小学校で?
目を瞑ったまま思考に没頭していたとき、美術の先生がスケッチ用の画用紙を今から配ると話す声が聞こえ、はっと我に返った。
どうやら願いむなしく、今日は本当にスケッチの授業だったらしい。絵、下手くそなのに、とさらに憂鬱な気持ちになった。
暗闇の中、カサカサと画用紙が配られる音がする。
りんはゆっくりと目を開けた。
眼鏡の端には、もう何も映っていなかった。
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