七不思議たちは餓死寸前

雪代

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その1 下駄箱の怪異

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 4年生から6年生までが使う下駄箱には、そこここに空きがある。
 最初の怪異は6年生の下駄箱の一番下の段の右端で起きるという。
 始まりはもうずっとずっと昔。
 千鶴代という生徒は、同級生から酷いいじめに遭っていた。
 そもそも家が貧乏で、周りの子ども達のような可愛らしい小物を持てなかったのも一因だと、本人は思ったらしい。
 上履きも兄のお下がりで、すでにぼろぼろ。頻繁に持ち帰り、母に繕ってもらって使っていた。
 ある日、母が気に入っていたはずの自分のスカートを切って、上履きにレースの飾りをつけてくれた。
 千鶴代は大層喜んで、大切にそれを履いたのだが、ある日の放課後それがいじめっ子に見つかって、レースをずたずたに引き裂かれてしまった。
 朝、学校に来てそれに気付いた千鶴代は泣き叫びながら校門を飛び出し、近くの大きな道でトラックに轢かれて死んでしまったという。

「だからね、その下駄箱を開けて、『かわいそうな千鶴代ちゃん』と言ってはいけないんだ。憐れまれて恥ずかしくなった千鶴代に、下駄箱の中へと押し込められてしまうから」
 良寛はそう言いながら、背負っていたリュックを下ろしてごそごそ漁り始めた。
「ふーん」
 薫子はじっと下駄箱を見つめている。
「よし」
 良寛が取り出したのは、小さな靴箱。
『ま、まさか……!』
 中には、可愛らしいレース付きの上履きが入っていた。
「ああ、だから昼間ずっとちくちく縫物してたのね」
「うん、3時間もかかっちゃった」
『しかも、そんなに頑張って……!!』
 良寛は、靴箱に努力の結晶を並べると、ぱんぱんと手を打った。
 これから無理矢理狭い靴箱の中に引きずり込んで喰らおうとしている怪異に向かって。
「かわいそうな千鶴代ちゃん。どうぞこれを履いてください」
『ア――――――――――!!!!!』
 絶叫と共に倒れた下駄箱の怪異を、他の怪異達がなんとか支える。
『下駄箱―!!耐えろ、耐えるんだぁ!!!』
 そんなことは知る由もない少年少女は、また手を繋いで次の怪異へと向かって行った。
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