世界は嘘であふれてる

雪代

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嘘つき令嬢は船に乗る

酔っ払い、見送る

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 アポを取ったら絶対断られるので、病室まで強行突入してみました。
 ココアさんのお話をしたら朔夜さんは深さを計りたくなるほど眉間にしわを寄せましたが、彼女が病室に入ると同時にメイドモードへ移行しました。
「こぉーんにちはぁー。真夜姫様付きのメイドでぇ、朔夜って言いますー。よろしくお願いしますねぇー」
 こんな時でも金色の髪がキラキラしてるのは、きっと本性が美容師だからなんでしょうね。
 入院服なのは残念だけど、と思いましたが、ココアさんはとっても嬉しそうでした。
 朔夜さんはタブレットを広げて、ココアさんにこれまでに使ったヘアケア用品について話しました。
 俺も後ろで聞いていましたが、感想は一つ。
 ――高っけぇ。
 いや、分かってはいました。何せ世界中の人から崇め奉られる聖姫様ですからね。
 でも、たかが週一回髪に乗せるクリームでこんな。
「どうかしましたかぁ?アーサーさん」
「……何でもないっす」
 視野は広く持たないといけませんね。

*  *
 翌日の朝。
 俺は午前中半休を貰って、お家へと帰るココアさんのお見送りに来ました。
「ありがとうございましたわ」
 ぺこっと頭を下げる姿は本当に子犬みたいで、可愛いなぁと思いました。
 SPは別の人。どうやらお父さんが新しく雇ったみたいです。
 ってことは、昨日の連中はクビになったんですかね。
「いえいえ。また遊びに来てくださいね」
 ココアさんは、にっこり笑って答えませんでした。こんな小さい子でも、何か察したんでしょう。
「この度はご迷惑をおかけいたしました。こちら、報酬ということで」
 SPさんに手渡されそうになった封筒は慌てて断ります。
「あー、俺一応公務員なんで!副業ダメなんすよ」
 そう仰らずに、いえいえ、と何度か繰り返した後、ようやくSPさんは封筒を収めてくれました。

 さてそろそろ、と思った時。向こうから、コート姿の男性が走ってきました。
「隊長!」
 時間的には、姫様のお見送りを終えてすぐ。コートの前を閉めているのは、きっと勲章つきの制服を隠すためなんでしょう。
「昨日はすみませんでした、心愛お嬢様」
「こちらこそ申し訳ございませんでした、おに……黎、さん」
 隊長は、ようやくふっと笑いました。
「お望みは、こちらだったのでしょう?」
 ココアさんに差し出したのは、この辺では有名なお菓子屋さんの紙袋です。
「……!」
「一緒に食べるというお望みは叶えられませんが、とりあえずお帰りの際にでも」
「あり、がとう、ございます……」
 そっか。
 散々な騒ぎになっちゃいましたが、結局のところお兄様とおやつ食べに来ただけなんですね。

 大陸行きの船を見送って、隊長はさて、と本島の方へ向き直りました。
 そのまま向かうのは連絡船の乗り場――ではなく、すぐ近くの砂浜。
 まさか、感傷に浸りたくなったとでも言うのでしょうか?

「隊長、大丈夫なんすか?十分後には会議っしょ?」
「ええ、問題ありませんよ」
 海に向かって、すっと手を伸ばします。
 すると。
「……へっ?」
 波が円の形に割れて、隊長がその――水の上に立ったんです。
「た、隊長、まさか法が……?!」
 いやまあ確かに名家穂積家のご子息ですけど。
 でも穂積家は、今代・次代ともに法の使える子供が生まれなくて困っていたはずなんです。
 それが、散々苛め抜いて追い出した子が実はだなんて、そんな間抜けな話!
 隊長は珍しく、子供っぽく笑いました。
「うまく操れば、3分ほどで本島に着きます。乗っていきますか?」
 ああ、そう言えば隊長言ってました。『空飛べない』って。つまり、空は飛べないけど海の上ならーー。
「どうしました、アーサーさん?」
妙に自慢げな隊長に、俺は全力で叫びました。
「このスパダリめぇ!!」


*  *
 美しいものが好きだ。
 私は草原に寝そべりながら、そんなことを思った。
 この草原も、鼻先で揺れるタンポポも、そこここに行きかう虫たちも。この世のものは全て美しい。
「ねえ、ミカルもそう思うでしょう?」
 私の腰のあたりで丸くなっている友達は、喉をごろごろ鳴らしながらそうですね、と呟いた。
 ああ、美しい。
 このまま眠ってしまいそうだ。
「つかね―!つかね、いるんでしょ?」
 木立の方からいつもの声に呼びつけられて、私は渋々頭を上げた。
「ああいた!お兄ちゃんが呼んでるよ!早く来なさい!」
「はぁーい」
 泥だらけになったこのスカートも、見ようによっては多分、美しい。
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