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桃の章
甘いものは全てを解決する
しおりを挟む目が覚めてこの天井を見るのは2回目。昨夜は結局、駄々っ子になった一仁に部屋に返してもらえなかった。光くんにはメッセージで一仁の部屋に泊まると伝えて、一仁のベッドにお邪魔して一緒に寝た。ちなみに僕の下着はまだ乾いていなかったから、一仁の大きいTシャツ1枚で寝た。寒くはなかったけど、心もとなかった。
昨日の夕方にいっぱい寝たから、今朝は珍しく早起きをした。一仁がまだ横で寝てる。僕が一仁より早く起きることなんて初めてだからとっても新鮮だ。一仁の寝顔を見るのも初めて。じっくり見ると本当にかっこいい。僕もこんなイケメンさんになりたかった。具体的にどこがいいのって言われると、、えーと、凛々しい眉毛、とか? 考えながら顔に指を当てる。あ、眉間にちょっとしわよってる、伸ばしとこ。後は高い鼻とか? でも、頬っぺたはぷにぷにで可愛い。そう思いながら頬っぺたをぷにぷにしてたら一仁の目が開いた。僕は咄嗟に手を引いた。
「お、おはよう。」
「んー、おはよう。何してたの?」
「別に何も?」
一仁がまだ眠たそうに聞いてきたから適当に誤魔化す。僕が顔つんつんしてたから起きたのかもしれないけど、多分バレてないはず。
「ふーん。」
「ブッ」
急に一仁が僕の頬っぺたを鷲掴みしてきた。バレてた。一仁は笑顔でずっと僕の頬っぺたを揉んでる。もう!、僕そんなに一仁の頬っぺた触る時間なかったのに!
「楽しそうだね。」
「最高。唯、毎日早起きして。」
無理だよ…。
こんなやり取りをした後、僕たちは起き上がって、朝ごはんを食べた。一仁が食べるものあるって言うから部屋で食べた。パンとレタスとスープで完璧な朝食だ。朝にこんなにゆっくりするのは久しぶりで気分がいい。けどこれから桃くんと話に行かなきゃいけないんだよな。多分またすごく怒られる、うぅ、緊張する。桃くんが今どこにいるか分からないけど、光くんに聞けばたぶん分かるんじゃないかな。とにかくまずはこの部屋を出よう。
「一仁、僕そろそろ行かなきゃ。僕のジャージもう乾いてる?」
「待って。」
席を立って服を探そうとして止められた。一仁は少し悲しそうな顔。え、待って、ここで止めないよね? 昨日いっぱい話してわかって貰えたと思ったんだけど……。僕は少し緊張して一仁を見た。
「止めてって言っても、唯は行くんだよね。……だったらこの部屋でやって。今から彼らを呼ぶから、ここで話せばいいよ。僕が隣で見てるから、何かあったら唯を守れるように。」
一仁がそんなことを言うから、僕は今一仁の部屋で桃くんを待っている。ところで僕の服はいつまで経っても返ってこない。さすがにTシャツ1枚で話なんて出来ないから、今はとりあえず一仁の半ズボンを借りている。
待ってるこの時間が1番緊張する。まさか一仁がいるところで桃くんと話をすることになるとは思わなかった。桃くんに怒られるところ見られて、一仁に嫌われたらやだなぁ。いっぱい謝ったら許してくれるかなぁ。僕のことに一仁を巻き込むの申し訳ないなぁ。
たくさん考え事をしてたら、ドアをノックする音が聞こえた。来た! 僕は立ち上がって行こうとしたら一仁に止められた。
「僕が出る。唯は座って待ってて。」
そう言って一仁はドアの方に行ってしまった。この場に同席させるだけじゃなく、お出迎えまでさせるなんて!、僕は本当に一仁に申し訳なくなった。後で絶対ケーキ買って持ってこよう。
ドアの方で何か話し声が聞こえる。声が遠くて何を話してるかは聞こえなかった。一仁は何か言いたいことがあったから行ってくれたのかな。話し声が止まって、一仁が戻ってきた。その後に桃くんも来たんだけど、手に何かいっぱい持ってる。そして桃くんだけだと思ったらその後に長谷川くんまで入ってきて、びっくりして僕は慌てて立ち上がった。
「え、長谷川くん!? あの、僕、あの時、」
「待って、先に桃の話を聞いてくれる?」
そうだった。なんで長谷川くんまでいるのかは分からないけど、今日の目的は桃くんへの謝罪だった。僕は大人しく椅子に座った。一仁も隣に座って、桃くんも僕の前に座る、と思ったら立ったまま、勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!」
一瞬意味がわからなかった。僕が桃くんに謝ろうと思っていたのに、桃くんが僕に謝っている。
「え、なんで桃くんが謝るの。僕の方が、」
「謝らないで!、全部僕が悪いから。本当にごめんなさい!」
僕が何を言おうとしても桃くんは全力で謝ってくる。何が何だかわからないから、とりあえず話が聞きたいと思って桃くんに座って貰った。
「ごめんなさい。」
座っても桃くんはずっとこう言うだけでどうして桃くんが謝るのか全く分からない。
「桃、ちゃんと言わないと伝わらない。」
横から長谷川くんに言われて、桃くんは少しずつ言った。
「一宮君に、手、出した…。あと、意地悪もいっぱい言っちゃった…。本当にごめんなさい。もう絶対にやらないから、許して欲しい……。」
「えっと、手出したっていうのは、僕別に怪我してないから大丈夫だよ。あと、意地悪言ったのは、僕も悪いから。僕が桃くんの言ったことをちゃんと考えないで、無視してたから。僕の方こそ桃くんの気持ち考えてなくて、ごめんなさい。」
僕も悪いところがあったから謝った。なのに桃くんは僕が悪いと言って全然聞いてくれない。優しいけど、僕も悪いからごめんなさいしたい。
「違う!、一宮君が謝ることなんて何も無い。全部僕の勘違いだから。僕が全部悪いの!」
「でも、桃くんも辛かったよね。僕みたいなポンコツが一仁の隣にずっといたから……。僕がすぐ一仁から離れてれば。」
「いや、本当に僕が間違ってたから。僕の言ったことなんて気にしないでいいから。」
「僕、友達少ないから、一仁と離れるの嫌だって思って……、ごめんなさい。」
一仁と離れると言ったからか、僕は少し涙が出てきてしまった。僕の涙を見て、桃くんが困ってる。早く止めなきゃ。
「あああ、えっと……、あ、ほら一宮君、ケーキあるから!、食べない? 」
桃くんが持ってきたのはケーキだったみたい。校内のケーキ屋さんのだ。色んな種類があって美味しそう。僕は少しずるいことを思いついた。ケーキを食べるならみんなで仲良く食べたいよね。桃くんも早く食べたいだろうし、ケーキのためなら僕の謝罪を受け入れてくれるかな。
「じゃあ僕のこと許してくれる?」
「別に、最初から怒ってない……、いや、うん、許すよ。」
「じゃあ僕も桃くんのこと許す。えへへ、仲直りね。」
僕は桃くんの手をとって握手をした。桃くんも笑って手を握り返してくれる。
「嬉しい。僕ずっと桃くんともお友達になりたいって思ってた。これからも仲良くしてくれる?」
「え、僕でいいの?」
「うん。僕、高校入るまで一仁しか友達いなくて。でも、今光くんたちとも友達になって毎日楽しいから、桃くんとも友達になりたい。僕、人と関わるの下手っぴなんだけど、頑張るから、友達になって欲しい。」
僕は桃くんの手を握りながら聞いた。嬉しくって勢いで言っちゃったけど、これで断られたら結構悲しいかも。でも桃くんの返事はいいものだった。
「僕でよければ。僕も友達少ないから、一宮君が仲良くしてくれたら嬉しい。」
何回も怒らせた僕とお友達になってくれるなんて、やっぱり桃くんはとっても嬉しい。もう絶対に喧嘩しないように、僕も頑張らないと。
「やったー。嬉しい。僕のこと、唯って名前で呼んで?」
「うん、唯ね。僕も名前でいいから。前、変なこと言っちゃったけど…」
「ううん、もう気にしてない。えへへ。一緒にケーキ食べよう?」
「うん。あ、でも先に、少し一仁とお話ししてもいい?」
桃くんが一仁の方をチラチラ見ながら言った。そういえば一仁のこと忘れてた。途中で何か言って来なかったから、多分そんなに嫌われてはないよね。桃くんは一仁と何を話すんだろう。二人は前から友達だったっぽいし、あ、でもわざわざ僕に確認とるってことは二人で話したいってことかな。
「うん。僕がいない方がいいよね。外で待ってるからゆっくり話して。」
そう言って立ち上がろうとしたら横から止められた。
「いい、唯はここでケーキ食べてて。僕たちが向こう行くから。」
一仁にそう言われて、確認のため桃くんの方も見たらうんうん頷いている。でも二人で座って話すならここの方が良くないかな?
「いや、僕が、」
「一宮君、ケーキ食べよ。どれがいい?」
「え、あ、うん。えっと、」
僕が出てくから二人は座って話を、と言おうとしたけど長谷川くんが話しかけてきて、離れていく二人をを引き止めることは出来なかった。
仕方ないのでケーキに気を向けたらあることに気がついた。
「長谷川くんは手大丈夫?」
「あぁ、全然平気だから気にしないで。それより一宮君は怪我しなかった?」
僕は長谷川くんへのお礼を忘れていたのに気がついて手を見たら包帯が巻かれていた。血も出ていたし、大怪我だったかもと心配したが、平気というどころか僕の心配までしてくれていた。
「そっか。僕は長谷川が守ってくれたから大丈夫だったよ。ありがとう。」
一仁の同室が優しい人で良かった。僕はルンルンでケーキを選び始めた。
幼稚園生の仲直りくらいで考えたら見れるかな。
なにせ今までこんな大きな揉め事に関わったことがないから仲直りが分からないかった。
モヤモヤしても腑に落ちなくても何も言わないでください。二人が仲良くなればなんでもいいんだよ。
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