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桃の章

一仁の涙

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 目が覚めると、僕は知らない部屋にいた。

「どこ、ここ」

 僕はベッドの上に寝ていて、周りには誰もいない。僕の横にもう一人寝れるくらい空いていて、なんだか少し温かい。なんかいい匂いもする、、ん?、
 横になったまま布団を少しめくって下を見て、自分の格好に気がついた。いつもと違うパジャマだ。パジャマというか、大きめのTシャツ一枚。それはいいんだけど、僕今ズボン履いてない。ていうかパンツも履いてない、本当にTシャツ一枚! な、なんでだろう。どこかに落としたかな、どこかに忘れてきたかな。いや、そんなはずは……。うんうん考えてる途中で足音が近づいてきた。誰かが来たみたい。

「唯、おはよう。気分はどう?」

 来たのは一仁だった。上下ラフなスウェットで手に何か持ってる。僕はすぐに起き上がった。でも下履いてないから変な感じ。Tシャツの裾を頑張って下げて何とかベッドにお尻がつかないように座った。

「あ、一仁! おはよう。なんかわかんないんだど僕ここにいて、あの、服が」

「昨日のこと覚えてない?、体育祭終わって片付けの後、唯が泣いちゃって。疲れたのか寝ちゃったから僕の部屋に連れてきたんだけど。」

 あ、そうだ。桃くんと喧嘩して、一仁の前で泣いちゃったんだった。それであの後寝ちゃったんだ、恥ずかしい。

「ジャージは、体育祭後で汗かいてて気持ち悪いかなって思って変えたんだ。今洗濯中だよ。」

「あ、ありがとう。僕、起きたらこれしか着てなくてびっくりしちゃった。一仁がやってくれたんだね、安心した。」

 パンツは僕がどこかに忘れたわけじゃなかくてほっとした。会話をしながら一仁は近づいてきて僕の隣に座る。そして僕の顔を触りながら言った。

「目、少し腫れちゃったね。」

「うん、でも大丈夫。ねぇ、そういえば長谷川くんは?」

 体育祭の後のことを思い出してたら、長谷川くんのことを忘れてたのに気がついた。一仁と同室って言ってたから、この部屋にいるはず。

「彼は他の部屋に泊まってるよ。今までも結構居ないことあったから気にしないで。
 そんなことより、明日は体育祭の振替で休みだから、唯と2人でゆっくりしたいな。あと、ほら、メロン切ったんだ。食べな、」

「長谷川くん帰ってこないの?、僕お礼言いたいんだけど。」

「はい、あーん」

「あ、あーん……おいしい。」

 一仁が手に持ってたのはメロンだったみたい。素直に口を開けたら一仁が食べさせてくれた。おいしい、けど、話が進まない。

「それで、長谷川くんは、」

「お礼って、彼と何かあったの?」

「守って貰ったんだよ。あの時、も、」

 咄嗟に口を閉じた。桃くんがはさみを振り回してたの、言うの良くないな。

「えっと、ちょっと怪我しそうな時に守ってもらって、代わりに長谷川くんが怪我しちゃって。平気って言ってたんだけど、心配だし、お礼言いたいから会いたかったんだけど」

「そういうことなら彼が帰ってきてから言えばいいよ。」

「そうだね。明日には帰ってくるよね。その時でいっか。あ、あと僕、桃くんのことも気になってて、」

「唯、あーん」

「あーん、、、」

「おいしい?、はい、もう1個」

「いや、今はいい、」

「口開けて」

「あ、あー」

 一仁の圧がすごいから、話したいけど口を開けてしまう。まるで無理矢理餌付けされてるみたい。僕は確実に餌付けに慣れてきている。多分、毎日のように朝やられてるから。こんなのに慣れてないで早く話がしたいんだけどー。

 結局メロンは全部食べてしまった。だってお腹すいてたから。すごく美味しかった。

「そういえば光くんに何も言ってない、僕すぐに」

「何か飲み物もいるよね。紅茶でも入れようか、ダージリンでいい?」

 一仁には僕の声が聞こえてないのか、僕の言葉を遮ってくるし、なんかお茶まで用意しようとしてる。

「いや、ぼくそろそろ部屋戻らないと。今何時?、あと、何か着るものない? このままじゃ外出れない、」

「もう夜だよ。あ、お腹空いてる?、メロンだけじゃ足りないよね。何かちゃんとしたものを作ろうか。」

 いや、僕の声は聞こえているみたい。なんか一仁機嫌悪い?、わざと僕の話無視してるよね。なんで機嫌悪いか分からないけど、僕は今気になることがいっぱいあるから、一仁とゆっくりしていられないんだ。

「ううん、いらない。光くんが心配してるかもしれないから、先に部屋に戻らないと」

「唯さ、僕といるのに他の人のことばっかり気にしてるね。」

「えっ」

 急にそんなことを言われて一瞬意味がわからなかった。お茶を用意してた手を止めて一仁はこっちに戻ってきた。

「僕が明日は1日ゆっくりしたいって言ったの聞こえなかった?」

「いや、でも明日は僕、やらないといけないことが」

「僕より大事な用事?」

「一仁とはまた今度、」

「明日が終わったらまた学校が始まるんだよ?、」

 一仁の表情が曇る。ベッドに座り目線が合った。優しい口調だけど、圧があって怒ってる感じがする。

「高校入ってから唯との時間が圧倒的に減ったよね。平日は学校で、ご飯の時くらいしか会えないけどそれも偶にで。休日は唯は他の子達と楽しそうにしてるもんね。」

 確かに最近減ったけど、でも一応毎日会ってるよね。これ、怒ってるんじゃなくて拗ねてる感じだ。一仁の気持ちが分からなくて僕は一仁の顔から目が離せない。僕はじっと一仁を見つめた。

「明日一日くらい僕と一緒に居てくれない? 唯を傷つける様なやつと話しに行くんじゃなくてさ。
 ……それとも、僕のこともうどうでもよくなっちゃった?」

 一仁の目から涙が溢れた。違う、これ本気で寂しがってるやつだ! 一仁が泣くのは滅多にない事だから僕はすごく焦った。やばい、早く泣き止ませなきゃ。

「そんなわけない。一仁のことはもちろん大事だよ! 言ったでしょ?、ずっと親友って。どうでもよくないよ。でも今は桃くんとはすぐに話がしたいんだよ……。」

 早口でフォローしたけど一仁の表情は晴れない。二人で無言になった。僕は一仁の機嫌を直す方法はないかとぐるぐると思考を巡らせた。けど先に口を開いたのは一仁の方だった。

「……寂しいのもそうだけど、僕は泣いてる唯を見て腹が立った! 僕の……幼馴染、の唯を傷つけた。だから僕は唯に行って欲しくないんだ、もう危ない目に遭って欲しくない。なのに唯は、唯を傷つけた方を選ぶの?」

 一仁の言葉を聞いてはっとした。一仁はただ寂しがって意地悪しようとしてたんじゃなくて、僕を心配してくれたんだ。それを僕は機嫌悪いとか拗ねてるとか言って……。

「……ごめん、一仁は僕を心配してくれてたんだね。でも大丈夫だよ。今回はそんなに危ない目にあった訳じゃないし、僕も悪い所があったから話がしたかっただけなんだ。一仁のこともちゃんと大事だし、心配してくれて嬉しいよ。」

 一仁は少し赤い目を隠す様に僕の肩に顔を埋めて言った。

「……じゃあ行かないで。」

「でも、桃くんが心配で、一仁といても集中出来なくなっちゃうし……。」

「……放っておけばいいじゃん。」

 一仁がまるで駄々をこねる子供の様になってしまった。どうしたらいいんだろう。今はすぐに桃くんと話したいけど、一仁をどうでもいいって思ってる訳じゃないし。一仁にもわかって欲しい、一仁も大切だけど、他の人も大切にしたいってこと。少し考えて、僕はゆっくり口を開いた。

「一仁に聞いて欲しいことがあるんだけど、」

 そういうと、一仁は僕の肩から顔をあげた。僕は一仁の目をしっかり見て言った。

「これは、一仁だけに言う内緒なんだけど。人に順番をつけるのは良くないって思ってるんだけどね、でも、」

 一仁の耳元に寄って少し小声で続けて言った。

「僕の一番は、一仁だよ。ダントツでね。」

 一仁は目を見開いて僕の方を見た。僕の一仁が1番だよアピールは多分、効いてる。そして、言ったあとに最後のひと押し、一仁の好きな(僕調べ)可愛い上目遣いだ。

「だから、明日だけ。明日だけは桃くんと話をさせて欲しい。そのかわり、次の日曜日は一仁と遊ぶから!」

 言い切って一仁の反応を待ってると、急に抱きつかれて、そのまま後ろに倒れてしまった。そして首を舐められた、と思った次の瞬間、

「イテッ!」

 首に痛みが走った。え、噛まれた!? 軽くだったけど、噛むってことは、ダメだった? 首の痛みに気を取られつつ待ってると、一仁が口を開いた。

「~~ッ!、それだけじゃ足りない。毎朝もう少し早く来て。」

 一仁が首に顔を埋めたまま言った。表情は見えないけど、声が弾んでるから多分機嫌直ったんだと思う。良かった。逆に、毎朝の早起きを要求されて、僕の方がたじたじだ。

「え、が、頑張るね。」

「放課後も一緒に帰ろうね。」

「出来たら、ね。」

「毎週末はここに来て一緒に遊ぼうね。」

「それは……、長谷川くんもいるし、来づらいから、、無理かも…………イテッ!」

 一仁の提案を却下したら、また首を噛まれた。

















 一仁は「泣き脅し」を覚えた!




 一仁視点で解説入れたいけど我慢。でも1個だけ、最後一仁が折れたのは唯が可愛かったからもあるけど、唯の襟元から中見えてたのと、動いたからお尻見えてたから。可愛すぎて許しちゃった。


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