27 / 47
桃の章
良くないスタート
しおりを挟む今日は待ちに待った体育祭。天気は快晴で、気温は少し暑いくらい。広い校庭にテントがいっぱい張られて、全校が集まっている。中央の壇上で生徒会長さんが開会式を行っている。
体育祭は紅、蒼、翠の三組に別れて総合点を競い合う。僕は蒼組だが他にどのクラスが同じ組なのか正直ちゃんとわかってないけど、ハチマキの色が分かれているから間違うことはないと思う。
開会式が終わって自分たちのテントに戻る途中、誰かに声をかけられた。
「ねぇ!」
4月に初めて会った時から何かと声をかけてくる、吉川桃くんだ。
「あ、えっと、桃くん。何?」
「気安く僕の名前を呼ばないで。お前、何回も言ってるのに本当に話聞かないね。一仁はお前みたいなΩが一緒にいていい人じゃないの。いい加減遠慮してよ。今日の体育祭でボコボコにするから、僕たちが勝ったらこれから一生でしゃばらないでよね。」
桃くんは緑色のハチマキを巻いている。一仁と同じチームなんだ……。
「別にでしゃばってなんて……、むしろ中学の時より一仁とは、」
「気安く一仁の名前呼ぶなよ、僕は一仁にいいって言われたから呼んでるの。とにかく、ただ中学が一緒だったってだけで調子に乗らないでよね、ふんっ。あ、一仁だ。それじゃ。」
言うだけ言って桃くんは去っていった。
「唯、気にしなくていいからね本当に。」
「うん。」
光くんの言うことに頷いたけど、気にしないなんて出来ない。去っていった桃くんを目で追うと、一仁の元に走っていって腕を絡ませている。距離が近く、楽しそうに喋っている。やっぱり前から友達だった?
「……。」
見てたくなくて無理やり目を離して僕たちの待機場所のテントに向かった。
いよいよ競技が始まる。一種目目は綱引きだ。
「ワクワクする。」
「これ終わったら玉入れだから準備しとこ。」
「うん、そうだね。」
光くんと璃来くんと三人で待機場所に向かう。その途中に翠組のテントの近くを通ったから、一仁に会った。さっき桃くんといるところを見たからちょっとモヤモヤするけど、一仁はいつもと変わらない様子だ。
「唯、これ着な。」
そう言って一仁は長袖のジャージを渡してくる。
「今日、寒くないから要らない。」
「でもこんなに晴れてるから日焼けしちゃうよ?」
「でも暑いから要らない。日焼けくらい大丈夫だよ。」
いつもなら受け取ってしまうかもしれないが、なんだか今は素直に受け取れない。
「じゃあ、日焼け止め塗ろう?、どうせ塗ってないでしょ、やってあげるから。」
「い、要らない!」
少し強く言い過ぎてしまったかもしれないがもう戻れない。
「どうしたの、唯。今日はわがままな日だね。いいの、後で肌痛くなっちゃうよ?」
「唯が要らないって言ってるんだから要らない。一日くらい大丈夫だよ、ずっと日の下にいる訳じゃないんだから。行くよ、唯。」
「……。」
光くんが口を挟んだら一仁が静かになった。僕は光くんに腕を引かれてその場を離れた。
「大変だな、唯も。」
「どうしよう、一仁ちょっと怒ってた。でもなんか、嫌だって思っちゃって……。」
僕は少し涙目になって光くんに抱きつく。
「でも唯、よく言った。時には自分の嫌なことをちゃんと伝えるのも大切だよ。一仁なら大丈夫、どうせ許してくれるから。」
「そうかなぁ。」
「そらそうだな。」
璃来くんも肯定する。二人が言うならそうなのかもしれない。後でちゃんと謝ろう。
「あと、さっきはああ言っちゃったけどやっぱり暑いから日焼け止め塗りたい。誰か持ってる?」
「俺が塗ったげるよー」
いや貸してくれれば自分で出来るんだけど、でもお言葉に甘えて璃来くんにやってもらった。
こうしている間に綱引きは終わって僕たち蒼組が勝ってた。流れに乗って僕達も玉入れを頑張ったが惜しくも二位だった。
「惜しかったー。」
「けどいい勝負だったよ。」
僕たちがプチ反省会をしているところに慶くんが駆け寄って来た。
「お疲れーっ! でも負けてんね、良くない!」
「うん、ごめんね。」
「まぁ、しょうがないね。次も俺が勝ってやるから、任せとけ。」
さっきの綱引きは慶くんが出てて勝ってた。なんか今日の慶くんテンションがとっても高い?
「なんか今日元気だね。こういうイベント好きなの?」
「ううん、小学校ぶりだから楽しくって。みんなで力を合わせるって楽しいな。これだけは高校入って良かった! あはは。」
体育祭をやらない中学校にいたのかな。疑問に思ったけれど、慶くんはハイテンションのまま他の人のところに行ったから聞くことは出来なかった。
その後は一仁の活躍をテントから見ていた。短距離走と騎馬戦と、すっごく速かったしいっぱいハチマキを取っていた。凄くかっこよかった。あ、僕たちが負けちゃうんだった。やっぱりかっこいいはなし。
その後はお昼だ。いつもの学食がお弁当になって配られた。雰囲気もあってかお弁当になっても凄く美味しかった。本当は一仁と食べて謝ろうと思ったけど、一仁は翠組のテントで桃くんと他の人と食べてたから無理だった……。
お昼の後は応援合戦という名の僕たちのダンスだ。なんと僕達は無事スカートを逃れられた。Tシャツとズボンのラフな感じで曲にもあってたと思う。そして僕は無事フリを間違えずに踊りきった。とても良かった。他の組の踊りも見たけどスカートの組は無くて、みんな上手だった。周りの歓声もこの時が一番大きかったと思う。そりゃあ男だけど可愛いΩの子が勢揃いだから興奮するに決まってるよね。
ダンスの後は一仁が障害物競走に出ていたからそれを見た。服を着替えていて、クマの着ぐるみを着てパンを咥えて走る一仁はすごく面白かった。
33
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
これがおれの運命なら
やなぎ怜
BL
才能と美貌を兼ね備えたあからさまなαであるクラスメイトの高宮祐一(たかみや・ゆういち)は、実は立花透(たちばな・とおる)の遠い親戚に当たる。ただし、透の父親は本家とは絶縁されている。巻き返しを図る透の父親はわざわざ息子を祐一と同じ高校へと進学させた。その真意はΩの息子に本家の後継ぎたる祐一の子を孕ませるため。透は父親の希望通りに進学しながらも、「急いては怪しまれる」と誤魔化しながら、その実、祐一には最低限の接触しかせず高校生活を送っていた。けれども祐一に興味を持たれてしまい……。
※オメガバース。Ωに厳しめの世界。
※性的表現あり。
俺らのその後
パワフル6世
BL
前作の「え?俺って思ってたより愛されてた感じ?」のその後とか、設定付け足したものとかです。
9/4 r-18に変更致しました。夜編では、がっつりヤる予定です。
2023/1/9 書ける気がしないのでR指定消しました。続き書くとしたら別バージョンでほんわかさせます。
Ωだったけどイケメンに愛されて幸せです
空兎
BL
男女以外にα、β、Ωの3つの性がある世界で俺はオメガだった。え、マジで?まあなってしまったものは仕方ないし全力でこの性を楽しむぞ!という感じのポジティブビッチのお話。異世界トリップもします。
※オメガバースの設定をお借りしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる