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少女期~新しい日々と、これからのあれこれ~
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セドリックが温室にあるベンチで寝転がっている時、ご令嬢たちが入ってきてお茶会が始まったことを知った。
自分の眉間に皺が寄っているのがわかって、指で眉間を揉む。
(面倒な……)
先日見つけたこの場所は、あまり人が来ないし、来たとしても誰がどこにいるか、植物に遮られてよく見えないところが気に入っている。
セドリック・イェール・ファランダールはれっきとしたこの国の第一王子である。成人になる誕生日の月に、王太子に即位する予定だ。他に男子がいないのだから、宿命であると悟っていはいるが、どこへ行っても自分が息を抜ける場所などないことに、少々うんざりしていた。
一人になりたいーーーたまには、侍従や従者、そして警護の騎士の目もないところで、日がな一日寝転んでいたい……。そんなささやかな楽しみを邪魔されたことに、思春期に入ったばかりのセドリックは苛立つ。
だが、ここで出て行けば、彼女たちの餌食になるのは目に見えていた。
巷で『氷の王子』と揶揄されていることは知っているが、表情を全く動かさないことも、それなりに苦痛なのだ。そんなことを言ったところで、誰にもわかってもらえないことも、もちろんわかっている。
元はと言えば愛想笑いの一つも出来ない自分を、それならいっそと王妃である母が、無表情でいろと言い付けたことから端を発している。我が母ながら手厳しいと思うが、意固地になってそれを実践しているうちに、いつの間にか氷の王子とあだ名が付いた。
ーーーこちらの位置からは鬱蒼とした木々が衝立となって、あちらからは見えないだろう。そう高を括ったセドリックは、王城でやれば侍従が目から目玉が飛び出さんほどの勢いで諫めるだろう、恰好で……片足を立て、腕を枕にベンチに寝転がって、ガラス越しの青空を見上げていた。
しばらくすると、また令嬢が増えたらしい。途切れ途切れに聞こえる会話でわかったのは、マッコール伯爵の娘が来たということだ。
おや、とセドリックは思った。
マッコールの令嬢と言えば『ローランドの再来』と言われている才媛ではなかったか。同じクラスにいるというのに、まともに顔を合わせたことなど一度もないが、それでもかの令嬢にまつわる噂は耳にしていた。
実際、母である王妃や、姉の王女などは、彼女が発案し、開発したとかいう商品に夢中になっていた。どこがどう違うのか、自分には全くわからなかったが、母曰く、夜会に出て燭台の光があたると、キラキラと反射するらしい。
姉たちは、特に庭園で催される茶会の時には必ずといっていいほど、白粉とともにはたいていた。
その彼女がこの場にいることに、違和感を覚えた。話したこともない令嬢だが、クラスでも誰かと連れ立っているところを見た覚えはないーーーそれでも、女性同士の繋がりというのもあるのかもしれないが。
二人の姉たちーーーリリアーナとエリアーナは、それぞれに取り巻きと言えるご婦人方がいるようだ。王妃ともなると、誰かと特に親しくすることはないようで、母は特に懇意にしている貴族婦人はいなかったように思う。もっとも、自分が知らないだけかもしれないが。
マッコール伯爵令嬢が加わったことで、やや興味を惹かれたセドリックは、会話の内容に耳をそばだてた。どうやら、オルヴェノクとリーベラの息子に近付くなと言われているらしい。彼らはまだ婚約者がいなかったはずだ、妙齢と言えば妙齢ではあるな、と自分のことなど棚に上げて、納得していたが、オルヴェノクと縁戚であるマッコールの娘は将来を約束した者がいると言って去って行った。
ーーー将来を約束した者がいるとは、初耳だ。
セドリックには妃候補として、何人かの令嬢がいる。セドリックが知っている限り、この王国では、七賢者を始祖に持つ三大侯爵家と四大伯爵家から王家に嫁した者、または降嫁した者はいなかった。そう言えば、その辺の事情を聞いたことは一度もなかったな、とふと思う。
貴族の婚約は王家の承認を以て成約となる。少なくともセドリックは、マッコールの娘の婚約が調ったという話は聞いたことがなかった。そもそも、前伯爵が長患いと他を欺き、実際のところは出奔をしているというのに、婚約などありえない。
なるほど、この場から逃げ出すための口実か。だが、その口実が元で、マッコールの娘の婚期が遅れる可能性もなくはないのだが、あのクラスメートはそこまで頭が回っているのだろうか。
ゴロリと横になりながら、とりとめもなく考えていたのだが、ふとセドリックの上に影がさす。見ると、コーディが怖い顔をして立っていた。
「よくここがわかったな」
「殿下……」
それきり、コーディは黙る。この男は元々は近衛騎士で、今はセドリックの身の回りの世話と護衛を仰せつかっている、従者だった。
「わかっている、そんな顔をするな」
見つかったか、とセドリックは緩慢な動作でベンチから起き上がり、髪をさっと手で撫でつける。
「王城へ戻る」
「……御意」
本当は小言の一つも言いたかっただろうコーディは、結局何も言わずに出口へ向かうセドリックの後に続いた。
*****
ショコラを口にし、紅茶で喉を潤したミーティアは、先ほど会った令嬢たちを見て気付いたことがあった。
彼女たちの髪型を彩っていた髪飾りやリボンをよくよく観察していたのだが、もしかしたら新たな商材になるかもしれない、と思ったのだ。
さすが、転んでもただでは起きない女である。
領地では、相変わらず雲母の加工は順調だし、例のシフォンについても注文が増え始めたらしい。時折、母から届く手紙には、クリスが嬉しい悲鳴を上げていると書いてあった。
絹を強撚糸にしないと織れないので、そこにかなりの手間と時間がかかるのだが、それでも待つという貴族が後を絶たないそうだ。
ああ、そうだ。我が領地には毛織物もある、新しく梳毛で作るのを提案してみるのもいいかもしれない。エクストラファインウーステッドで織った生地は絹のような光沢のある美しい物が織り上がるはずだ。ミーティアの過去の知識が間違っていなければ。
それを綾織でサージ生地のように織り上がったものを仕立てれば、美しい上着が出来上がるだろう。トラゥザーズにするには強度は弱いが……生地が柔らかいので膝が出てしまうのだ。
ご婦人向けの軽く羽織れるマントにもいいかもしれない。夜会には必須だが、今流通しているものはやや重たいので、軽くてそこそこ暖かく、尚且つ光沢があって、絹よりは扱いやすいマント。これは売れる!きっと売れるに違いないと、ミーティアの口角が上がった。
ミーティア(ミコト)はカリスマ店員ではなかったが、それでもそこそこの予算を毎月しっかりクリアしていたのには訳がある。
そう、売れ筋をいち早く見抜き、ヲタで培った※掘り下げ上手スキルを発動していたのだ。当時は商品知識で右に出る者はいなかった。尤も、本人は全く気付いてもいなかったが。
あとはリボンだ、これについてはアンに教授してもらおうと考える。
仕立て屋ならば生地の余りが出るだろう、それをリボンにすれば余すことなく我が領地の生地を活かすことが出来る。
ゴムがあればなおいいんだけれど……。どうせなら、シュシュもいいんじゃないかと思うが、この時代のゴムは大変高価で、シュシュに使うなど考えられない。
とりあえずは、アンに手紙を書こうと自室の机に座って、引き出しから便せんを取り出した。
*****
ミーティアがヴァランタイン侯爵夫人に書くお礼状の他に三通の手紙を書いているうちに、もうすっかり外は暗くなっていた。ナンシーがさっとカーテンを引いて、こちらを向く。
「お嬢様、夕食のお時間を過ぎてらっしゃいますよ」
「そうね、遅くなってしまったわ。行きましょう、ナンシー」
ミーティアとナンシーは連れ立って廊下を歩いていると、向こうからもうすでに食べ終わったらしいアリスンが、侍女であるジニーを伴って歩いてくる。
「アリスン、ごきげんよう」
ミーティアが軽く膝を折ると、アリスンも同じように膝を折って応えてくれた。
「ごきげんよう、ミーティア。あら、これから?」
「ええ、手紙を書いていたら遅くなってしまって」
「そう、今日のお夕食も美味しかったわよ。学園の食事が美味しいお陰で、少し太ってしまったかも」
「そう?全然そうは見えないけど」
「最近、ちょっとドレスがきつくなってきたの、困ったものね」
アリスンは眉を下げて笑う。
確かにきつそうに見えるドレス……全体的なわけではなく、主に胸の辺りがきつそうに見えるのは気のせいじゃないだろう。アリスンの胸元を見てから、ミーティアは下を向く。
……ない。悲しいほどに、ない。
ミーティアの動きを見て、アリスンは察したらしく、曖昧に笑って部屋へと去って行った。
「お嬢様?いかがされました?」
「大丈夫、ちょっと成長が遅いだけよ」
「はい?」
「な、なんでもないわ、いきましょう?」
「……畏まりました」
ナンシーは訝し気に首を捻っている。アリスンの魅惑の胸元を見て、自分のがあまりに真っすぐ過ぎて落ち込んだなんて言えやしない、とミーティアは俯きそうになる自分を叱咤して前を向いた。
寮生活を送っているご令嬢たちを観察した結果、制服だけではなく普段のドレスであっても、どうやら皆コルセットを付けていないことを確認して以来、念のため持ってきてはいるものの、学園に入学してからコルセットなど身に付けたこともない。
もちろん、アリスンもだ。それを知っているから、余計に落ち込むのだ。
コルセットを身に付けていれば、ウエストの細さと共に胸元も強調される。だが、付けていなくてあの様子では……想像するだけで、羨ましいとミーティアの思考は魅惑から離れられない。
廊下を歩きながら、ナンシーに話しかける。
「ねえ?」
「はい、なんでしょう?」
「ちょっと、真っすぐ立ってみて?」
「……ここで、でしょうか?」
「ええ、お願い」
「畏まりました」
「ああ、違うわ、手を前にしなくていいの。両手の指先を脇にぴったりと付けてちょうだい」
「……これで、よろしいですか?」
……あるわ、ナンシーもしっかりあるじゃないの!
「ありがとう、ナンシー、もういいわ」
「は、はい……」
ミーティアは益々落ち込んだ。これは成長にいい物を食べなくてはいけないかもしれない、でも何を食べればいいのか見当もつかない。これは、後でナンシーにこっそり聞いてみよう。そう思いながら、食堂へと続く扉を開けたのだった。
※ 掘り下げ上手スキル=ヲタ活を行う上で必須なスキル。自らの探求心の赴くまま、ネサフをし、wikを読み漁り、対象への造詣を深めていく行為。よい子は真似しないでね!こっちの世界に戻れなくなるよ!…筆者談
自分の眉間に皺が寄っているのがわかって、指で眉間を揉む。
(面倒な……)
先日見つけたこの場所は、あまり人が来ないし、来たとしても誰がどこにいるか、植物に遮られてよく見えないところが気に入っている。
セドリック・イェール・ファランダールはれっきとしたこの国の第一王子である。成人になる誕生日の月に、王太子に即位する予定だ。他に男子がいないのだから、宿命であると悟っていはいるが、どこへ行っても自分が息を抜ける場所などないことに、少々うんざりしていた。
一人になりたいーーーたまには、侍従や従者、そして警護の騎士の目もないところで、日がな一日寝転んでいたい……。そんなささやかな楽しみを邪魔されたことに、思春期に入ったばかりのセドリックは苛立つ。
だが、ここで出て行けば、彼女たちの餌食になるのは目に見えていた。
巷で『氷の王子』と揶揄されていることは知っているが、表情を全く動かさないことも、それなりに苦痛なのだ。そんなことを言ったところで、誰にもわかってもらえないことも、もちろんわかっている。
元はと言えば愛想笑いの一つも出来ない自分を、それならいっそと王妃である母が、無表情でいろと言い付けたことから端を発している。我が母ながら手厳しいと思うが、意固地になってそれを実践しているうちに、いつの間にか氷の王子とあだ名が付いた。
ーーーこちらの位置からは鬱蒼とした木々が衝立となって、あちらからは見えないだろう。そう高を括ったセドリックは、王城でやれば侍従が目から目玉が飛び出さんほどの勢いで諫めるだろう、恰好で……片足を立て、腕を枕にベンチに寝転がって、ガラス越しの青空を見上げていた。
しばらくすると、また令嬢が増えたらしい。途切れ途切れに聞こえる会話でわかったのは、マッコール伯爵の娘が来たということだ。
おや、とセドリックは思った。
マッコールの令嬢と言えば『ローランドの再来』と言われている才媛ではなかったか。同じクラスにいるというのに、まともに顔を合わせたことなど一度もないが、それでもかの令嬢にまつわる噂は耳にしていた。
実際、母である王妃や、姉の王女などは、彼女が発案し、開発したとかいう商品に夢中になっていた。どこがどう違うのか、自分には全くわからなかったが、母曰く、夜会に出て燭台の光があたると、キラキラと反射するらしい。
姉たちは、特に庭園で催される茶会の時には必ずといっていいほど、白粉とともにはたいていた。
その彼女がこの場にいることに、違和感を覚えた。話したこともない令嬢だが、クラスでも誰かと連れ立っているところを見た覚えはないーーーそれでも、女性同士の繋がりというのもあるのかもしれないが。
二人の姉たちーーーリリアーナとエリアーナは、それぞれに取り巻きと言えるご婦人方がいるようだ。王妃ともなると、誰かと特に親しくすることはないようで、母は特に懇意にしている貴族婦人はいなかったように思う。もっとも、自分が知らないだけかもしれないが。
マッコール伯爵令嬢が加わったことで、やや興味を惹かれたセドリックは、会話の内容に耳をそばだてた。どうやら、オルヴェノクとリーベラの息子に近付くなと言われているらしい。彼らはまだ婚約者がいなかったはずだ、妙齢と言えば妙齢ではあるな、と自分のことなど棚に上げて、納得していたが、オルヴェノクと縁戚であるマッコールの娘は将来を約束した者がいると言って去って行った。
ーーー将来を約束した者がいるとは、初耳だ。
セドリックには妃候補として、何人かの令嬢がいる。セドリックが知っている限り、この王国では、七賢者を始祖に持つ三大侯爵家と四大伯爵家から王家に嫁した者、または降嫁した者はいなかった。そう言えば、その辺の事情を聞いたことは一度もなかったな、とふと思う。
貴族の婚約は王家の承認を以て成約となる。少なくともセドリックは、マッコールの娘の婚約が調ったという話は聞いたことがなかった。そもそも、前伯爵が長患いと他を欺き、実際のところは出奔をしているというのに、婚約などありえない。
なるほど、この場から逃げ出すための口実か。だが、その口実が元で、マッコールの娘の婚期が遅れる可能性もなくはないのだが、あのクラスメートはそこまで頭が回っているのだろうか。
ゴロリと横になりながら、とりとめもなく考えていたのだが、ふとセドリックの上に影がさす。見ると、コーディが怖い顔をして立っていた。
「よくここがわかったな」
「殿下……」
それきり、コーディは黙る。この男は元々は近衛騎士で、今はセドリックの身の回りの世話と護衛を仰せつかっている、従者だった。
「わかっている、そんな顔をするな」
見つかったか、とセドリックは緩慢な動作でベンチから起き上がり、髪をさっと手で撫でつける。
「王城へ戻る」
「……御意」
本当は小言の一つも言いたかっただろうコーディは、結局何も言わずに出口へ向かうセドリックの後に続いた。
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ショコラを口にし、紅茶で喉を潤したミーティアは、先ほど会った令嬢たちを見て気付いたことがあった。
彼女たちの髪型を彩っていた髪飾りやリボンをよくよく観察していたのだが、もしかしたら新たな商材になるかもしれない、と思ったのだ。
さすが、転んでもただでは起きない女である。
領地では、相変わらず雲母の加工は順調だし、例のシフォンについても注文が増え始めたらしい。時折、母から届く手紙には、クリスが嬉しい悲鳴を上げていると書いてあった。
絹を強撚糸にしないと織れないので、そこにかなりの手間と時間がかかるのだが、それでも待つという貴族が後を絶たないそうだ。
ああ、そうだ。我が領地には毛織物もある、新しく梳毛で作るのを提案してみるのもいいかもしれない。エクストラファインウーステッドで織った生地は絹のような光沢のある美しい物が織り上がるはずだ。ミーティアの過去の知識が間違っていなければ。
それを綾織でサージ生地のように織り上がったものを仕立てれば、美しい上着が出来上がるだろう。トラゥザーズにするには強度は弱いが……生地が柔らかいので膝が出てしまうのだ。
ご婦人向けの軽く羽織れるマントにもいいかもしれない。夜会には必須だが、今流通しているものはやや重たいので、軽くてそこそこ暖かく、尚且つ光沢があって、絹よりは扱いやすいマント。これは売れる!きっと売れるに違いないと、ミーティアの口角が上がった。
ミーティア(ミコト)はカリスマ店員ではなかったが、それでもそこそこの予算を毎月しっかりクリアしていたのには訳がある。
そう、売れ筋をいち早く見抜き、ヲタで培った※掘り下げ上手スキルを発動していたのだ。当時は商品知識で右に出る者はいなかった。尤も、本人は全く気付いてもいなかったが。
あとはリボンだ、これについてはアンに教授してもらおうと考える。
仕立て屋ならば生地の余りが出るだろう、それをリボンにすれば余すことなく我が領地の生地を活かすことが出来る。
ゴムがあればなおいいんだけれど……。どうせなら、シュシュもいいんじゃないかと思うが、この時代のゴムは大変高価で、シュシュに使うなど考えられない。
とりあえずは、アンに手紙を書こうと自室の机に座って、引き出しから便せんを取り出した。
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ミーティアがヴァランタイン侯爵夫人に書くお礼状の他に三通の手紙を書いているうちに、もうすっかり外は暗くなっていた。ナンシーがさっとカーテンを引いて、こちらを向く。
「お嬢様、夕食のお時間を過ぎてらっしゃいますよ」
「そうね、遅くなってしまったわ。行きましょう、ナンシー」
ミーティアとナンシーは連れ立って廊下を歩いていると、向こうからもうすでに食べ終わったらしいアリスンが、侍女であるジニーを伴って歩いてくる。
「アリスン、ごきげんよう」
ミーティアが軽く膝を折ると、アリスンも同じように膝を折って応えてくれた。
「ごきげんよう、ミーティア。あら、これから?」
「ええ、手紙を書いていたら遅くなってしまって」
「そう、今日のお夕食も美味しかったわよ。学園の食事が美味しいお陰で、少し太ってしまったかも」
「そう?全然そうは見えないけど」
「最近、ちょっとドレスがきつくなってきたの、困ったものね」
アリスンは眉を下げて笑う。
確かにきつそうに見えるドレス……全体的なわけではなく、主に胸の辺りがきつそうに見えるのは気のせいじゃないだろう。アリスンの胸元を見てから、ミーティアは下を向く。
……ない。悲しいほどに、ない。
ミーティアの動きを見て、アリスンは察したらしく、曖昧に笑って部屋へと去って行った。
「お嬢様?いかがされました?」
「大丈夫、ちょっと成長が遅いだけよ」
「はい?」
「な、なんでもないわ、いきましょう?」
「……畏まりました」
ナンシーは訝し気に首を捻っている。アリスンの魅惑の胸元を見て、自分のがあまりに真っすぐ過ぎて落ち込んだなんて言えやしない、とミーティアは俯きそうになる自分を叱咤して前を向いた。
寮生活を送っているご令嬢たちを観察した結果、制服だけではなく普段のドレスであっても、どうやら皆コルセットを付けていないことを確認して以来、念のため持ってきてはいるものの、学園に入学してからコルセットなど身に付けたこともない。
もちろん、アリスンもだ。それを知っているから、余計に落ち込むのだ。
コルセットを身に付けていれば、ウエストの細さと共に胸元も強調される。だが、付けていなくてあの様子では……想像するだけで、羨ましいとミーティアの思考は魅惑から離れられない。
廊下を歩きながら、ナンシーに話しかける。
「ねえ?」
「はい、なんでしょう?」
「ちょっと、真っすぐ立ってみて?」
「……ここで、でしょうか?」
「ええ、お願い」
「畏まりました」
「ああ、違うわ、手を前にしなくていいの。両手の指先を脇にぴったりと付けてちょうだい」
「……これで、よろしいですか?」
……あるわ、ナンシーもしっかりあるじゃないの!
「ありがとう、ナンシー、もういいわ」
「は、はい……」
ミーティアは益々落ち込んだ。これは成長にいい物を食べなくてはいけないかもしれない、でも何を食べればいいのか見当もつかない。これは、後でナンシーにこっそり聞いてみよう。そう思いながら、食堂へと続く扉を開けたのだった。
※ 掘り下げ上手スキル=ヲタ活を行う上で必須なスキル。自らの探求心の赴くまま、ネサフをし、wikを読み漁り、対象への造詣を深めていく行為。よい子は真似しないでね!こっちの世界に戻れなくなるよ!…筆者談
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