上 下
22 / 49
少女期〜来るべき時に、備えあれば憂いなし〜

6

しおりを挟む
『トビアス・リーベラ』
『華と風の輪舞曲』の攻略対象の一人。藍色の髪と、澄んだ蒼い瞳を持つ。リーベラ伯爵家の嫡男で、弓術、馬術が得意。面倒見が良く、教師からの信頼も厚い。笑い上戸で、一度笑い出すとなかなか止まらない。ヒロインとは、他の攻略対象ルートでも親しくなり、気の置けない友人となる場合がある。

*****

事務手続きを済ませ、職員に従って、使われていない教室に案内されたミーティアは、ようやく一息つく事が出来た。
朝からエキサイトし過ぎて、試験がメインにもかかわらず、すでにお腹いっぱい、ご馳走様状態である。

(ルシアンはともかく、まさかトビーに会えるなんて……ヤバい、今日は眠れないかもしれない……それに、ジルの友人ですって?でかした、ジル!)
先ほどの言い争いなど、コミュニケーションの一つくらいにしか考えていないミーティアは口角が上がってしまうのを抑えることが出来なかった。

ジルベルトが何に怒っていたかについても、全く考えが及んでいないのだから、ジルベルトが気の毒としか言いようがない。
久しぶりの再会があんな風になってしまって、ジルベルトが物凄く落ち込んでいるとは、露ほども思っていなかった。


一方、その頃のジルベルトはーーー。

「はあぁぁぁぁ……」
机に突っ伏して、長い長いため息を吐き出していた。
隣の席のトビアスが、気の毒そうな視線を投げる。
「そんなに落ち込むんなら、もう少し言葉を選べばよかったのに」
「う、うるさい……」
突っ伏しているせいでくぐもっているが、明らかに迫力に欠けている。
「気持ちは分かるよ?一緒にいたのがあのルシアンだからね。でも、彼女には落ち度はなかったと……」
「あるだろ?知りもしない男に、のこのこ付いていく奴があるか」
被せ気味に抗議の声を上げるジルベルト。
「そうかなぁ、街中ならともかく、学園の中だからね。単純に、案内してもらおうとしてただけでじゃないかな?」

本当はジルベルトにもわかっているのだ、ミーティアが案内を買って出たルシアンについて行こうとしただけだと。
ただ、久しぶりに会えたミーティアが、他の男と一緒にいたというだけで腹が立って仕方なかった。
ーーーなぜ、こんなに腹が立つのかを自覚しているだけに、始末が悪いと自分でも思う。

ジルベルトが学園に入学する前、まだ領地にいる頃に、父からの手紙で婚約者が決まりそうだと知らされた時、息が止まるかと思った。その時初めて自分の気持ちに気付いたジルベルトは、どうしてもミーティアにそのことを告げることが出来なかった。

結局、決まることはなかったのだが、あの時ほど自分の立場を、家というものを感じたことはなかった。父には己の力で相応しい婚約者を見つけてくる、それまで待っていて欲しいと必死に頼んだ。
父は何かを感じ取ってくれたのか、難しい顔をしつつも頷いてくれたのだが。

「はぁぁぁぁ……」
また長いため息を吐いたジルベルトに、トビアスは呆れた声を出した。

「いい加減、きちんとしなさいね。骨は拾ってあげるから」
縁起でもないことを言うトビアスに、がばりと机から顔を上げて睨みつけるジルベルト。

「まだ何も始まっちゃいない。全てはこれからだ」
「はいはい、でも授業が始まるよ?」
ふと教卓に目を向けると、すでに教師が入ってきて黒板に書き込み始めていたのを見て、ジルベルトは慌てて教科書を取り出したのだった。

*****

「では、ミーティア・マッコール嬢。これから学園長による面談を始めます」
「はい」
ミーティアは神妙な顔つきで席に座っていた。筆記試験の後は別教室に移動して、面接試験だった。面談などと言ってはいるが、実質面接試験なのはわかっていた。

机の前には学園長と教師が二名座っていて、ミーティアは一人椅子に座っている。

「ミーティア嬢、貴女がこの学園で学びたいと思っていることはなんですか?」
一人の教師が質問してくる。この学園でのカリキュラムは、算術や歴史、地理と外国語、経営学の他にダンスや礼儀作法がある。あとは令嬢だけに課せられている刺繍や花の生け方、社交が主たるものだ。

「領地経営について、学びたいと思っております。父から学んではおりますが、専門的なことをぜひご教授いただけたらと」
「ほう……」
学園長が立派な顎髭をひと撫でして、ミーティアに尋ねる。

「珍しいですね、領地経営と答えたのは、ご令嬢の中では貴女が初めてです。なぜ、ミーティア嬢は領地経営を学びたいと思ったのですか?」
「はい、父が長患いで療養しておりまして、幼い弟が爵位を継いでおりますが、まだまだ未熟ですので、少しでも支えになればと思いまして」
領地の主だった村長は知っているが、対外的には父であるニールは長期の療養を余儀なくされて、領地内にある別館にいることになっている。出奔したなどと知られれば、醜聞以外の何ものでもないし、他の貴族に侮られかねないからだ……借金のせいで、だいぶ評判を落としているとは思うが。

「なるほど……では、それで奨学制度を利用しようと思ったのですか?」
「はい、幼い弟に出来るだけ負担をかけたくはありませんので」
それはミーティアの本音でもあった。ロビンもいずれは王立学園で学ばなくてはならない。少しでも節約出来るところはしたほうがいい。

学園長は一つ頷くと、左右に座る教師と何やら小声で言葉を交わしていた。やがて、教師が宣言する。
「ミーティア・マッコール嬢、後日結果はお知らせしますので、本日の面談は終了です」
「本日はお時間を頂戴しまして、ありがとうございました」
ミーティアは膝を折って挨拶をしてから、教室を出て行った。

(はあぁ~……やっと終わった……)

ミーティアは辺りを見回して、誰もいないことを確認してからグーっと伸びをする。

それにしても、ルシアンにトビーと、攻略対象に出会えたことは幸運だった。一応、ピンクのふわふわ頭も探してみたが、それらしき人物に遭遇することは出来なかった。

(ま、いっか。そのうち会えるしね)

ミーティア(ミコト)の記憶が間違ってなければ、ヒロインの令嬢は中途入学だったはず。ヒロインが入学して一年後の社交界デビューで、5人のうちの誰かと婚約発表だったからだ。バッドエンドなんてミーティアの辞書には存在していない、あってはならないから、そっちの記憶は不鮮明だった。もちろん、全てのエピソード回収のためだけにプレイはしたが。

ファランダールの成人は、男子は18歳、女子は17歳と定められている。社交界デビューは成人と認められた年齢に達していなければならない。
成人年齢より先に婚約が決まっていることも多々あるが、ゲーム内の攻略対象5人には、なぜか婚約者がいなかった。普通に考えたらありえないんだけどと、自身のことは棚に上げてミーティアは思う。そう考えると、自分の婚約はいつになるんだろうと、ふと現実的に考えてしまった。

七賢者の一翼の家といえど、借金がある家の娘を嫁にしようなんて奇特な家があるわけがない。仮にあったとしてもロクでもない考えの者しかいないだろう。そう考えると、ヒロインと攻略対象のキャッキャウフフ鑑賞も大事だが、自身の身の振り方も考えないとならないーーー。

やっぱり借金返済が第一だわ!

ここにきてミーティアは、決意を新たにするのだったーーー。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!

飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます! ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。 ※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。

お兄様が攻略対象者で妹のモブ令嬢のはずですが、攻略対象者が近づいてきて溺愛がとまりません。

MAYY
恋愛
転生先が大好きだったゲームの世界だと喜んだが、ヒロインでも悪役令嬢でもなく…………モブだった。攻略対象のお兄様を近くで拝めるだけで幸せ!!と浸っていたのに攻略対象者が近づいてきます!! あなた達にはヒロインがいるでしょう!? 私は生でイベントが見たいんです!! 何故近寄ってくるんですか!! 平凡に過ごしたいモブ令嬢の話です。 ゆるふわ設定です。 途中出てくるラブラブな話は、文章力が乏しいですが『R18指定』で書いていきたいと思いますので温かく見守っていただけると嬉しいです。 第一章 ヒロイン編は80話で完結です。 第二章 ダルニア編は現在執筆中です。 上記のラブラブ話も織り混ぜながらゆっくりアップしていきます。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

処理中です...