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幼少期〜伯爵家の実状について〜

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ミーティアは朝から図書室に籠っていた。

いつもそばにいてくれたニナも、最近は人手不足の影響で、本来ならばやらなくてもよい仕事に駆り出されている。

今、ミーティアは伯爵家の帳簿を見ながら、ひたすら計算している。借金を完済してプラスに転じるには、あとどのくらいの金額と年月が必要なのか、確認しているのだ。

それもこれも、あのお人よしのせいである……。


マッコール伯爵領は、王都から馬車で半日程、ピラード山脈を望む緑豊かな土地だ。街道沿いには小規模だが町もあり、織物を中心とした集落が多いが、牧場や農業を営む集落もあり、豊潤な土地を有する。
本来ならば、経営に頭を悩ます必要など全くない領地だったのだが、父であるニールがある友人の連帯保証人になったばかりに、莫大な借金を抱える羽目になってしまった。

当初は返せると思っていたのだろうが、借りた先の金利が高く元金返済の目途が立たず、王都のお役所に泣きついた結果、土地を担保にお金を借りて、金利が高いほうの借金は返済出来たようだ。
しかし、金利は安くとも借金は借金である。こちらも早く返せると踏んでいたところに、天候不順が続き、作物の不良や、蚕の餌である桑も枯れてしまい、結果、土地を担保に……というループ状態らしい。

ここ1~2年はなんとか持ち直しているものの、次に天候不順が長引いたりすれば、噂通りに全てが王家直轄領になる可能性は十分にあるだろう。

カリカリと羽ペンを動かしながら、ミーティアの手はフルフルと震えていた。

……もちろん、怒りのあまりに。

ニールは、領主としては良い部類だと思う。借金をしたからと言って、領民へ税の負担を多くかけはしなかったが、見通しの甘さは洒落にならないほどだった。中身がバリバリ庶民の40半ばのミーティアだってわかる、現状のままでは返済など出来るわけがないと。

とりあえず、経費をかけずに稼ぐ方法を見つけなければならない。

社交界で噂になって、すぐにご婦人たちが飛びつくような、何か。

我が家の窮状では夜会に出向くこともままならないが、別の誰かに販促を依頼する方法もないわけじゃないだろう、その辺は下ぼ……父がなんとかするだろう、てか、しろ。

気分転換に立ち上がり、図書室を出て厨房へと向かう。もう、この屋敷では誰かにお茶を入れて貰うことなど望めない。全て自分のことは自分で、である。

厨房に入ると、ちょうどニナと母、料理長が昼食の準備を始めていた。

「あら、ミーティア。喉が渇いたの?」
「おかあさま、おゆをいただけるかしら?」
「もちろんよ、少し待っていてね」

茶器がしまわれている戸棚へ向かい、小さな丸椅子に上ってガラス戸を開ける。ポットを取り出してテーブルに置き、また椅子に上ってカップとソーサーを取り出す。正直、子供の身体だとイラつくことも多い。中身は大人だから余計にだ、ギャップを感じるたびにイライラしてくるのだ。

母がお湯を持ってきてくれ、茶葉を入れたポットにそっと注いでくれる。ポットは熱いので触らせてもらえないのだが、それも仕方ないだろう。

「ミーティアはしっかりしているから大丈夫だろうけど、女の子だから心配なのよ」
母はミーティアのイラつきを、お茶を入れさせてもらえないことだと勘違いしたらしい。
「おかあさま、わかっているわ、だいじょうぶよ」
茶葉が開いてくるのを待つ間、少し頑張って椅子によじ登り、足をぶらぶらさせていると、奥から料理長がお菓子を差し入れてくれた。

「旦那様には内緒ですよ?」とウィンクしながらクッキーを入れたお皿を置いてくれる。

父は大の甘党で、クッキーやお砂糖をまぶしたパンが大好物なのだが、最近は控えているらしい。クッキーはバターや砂糖を使うので、材料費が高くなってしまうからだ。

「おかあさま、ロビンにもすこしおすそわけしてもいい?」
「ミーティアはいいお姉さんね、いいわよ」
母は微笑んで、紅茶をカップに注いでくれた。母の入れてくれた紅茶は、ふわりと優しい香りがした。







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