2 / 43
息の詰まる暮らし.2
しおりを挟む
それから一ヶ月後。
侍女見習いが集められた部屋で、私は教育係から合格通知をもらった。
「おめでとう、リリーアン。あなたならできると思っていたわ」
「そんな、私なんて。いろいろ親切に教えてくださったおかげです。ありがとうございます」
頭を下げる私に、教育係は嬉しそうに頷き「これからも不安なことがあったら相談してね」と声をかけてくれた。
そのまま部屋の隅にいけば、先に合格通知をもらった学園時代からの友人パレスが赤茶色の髪を揺らしながら駆け寄ってくる。
「リリーアン、おめでとう!」
「パレスもおめでとう。王太子殿下のご子息テオフィリン様の侍女になるなんて凄いわ」
「まさか合格するなんて自分でもびっくりしているの。テオフィリン様付になれば王太子妃殿下にお会いすることもあるし!」
王太子妃殿下はハレストヤ王国の宝石と言われるほどの美人で、しかも才女なうえにお優しい。この国の令嬢の憧れの的だ。
ちなみに私がお仕えする宰相様は王太子妃殿下の父親で、渋さが滲むイケオジとご婦人方から人気。
血筋って凄いな。
「でもあまり王太子妃殿下に入れ込むと、婚約者が妬くわよ」
「そうなの。相手は女性なのに、彼、私のことが大好きだから誰にでも嫉妬するの。ふふ、困ったものだわ」
と言いつつ幸せな顔。はいはい、ご馳走様と私が笑っていると部屋の扉が開いて、文官見習いの服に身を包んだ男性が入ってきた。
「リリーアン、宰相様付きの侍女になったんだって。おめでとう」
「ルージェック! ありがとう」
入ってきたのはこちらも学園時代からの友人であるルージェック。
サラサラのライトブラウンの髪に、切れ長の濃紺の瞳。すっとした鼻筋に白磁のような肌、さらには文官なのに長身で引き締まった体躯をしている彼は、その見た目からとにかく目立つ。
今もルージェックが部屋に入ってきた途端に、あちこちで黄色い歓声が上がる。
「貴方はどうだったの?」
「宰相様付きの文官に受かったよ。これからは今まで以上によろしく頼む」
「凄いわ! 文官では最難関と言われているエリートになったのね」
「そうなのかもしれないけれど、俺はリリーアンと一緒に働けることのほうが嬉しいよ」
誰にでも気遣いのできるルージェックらしい言葉。友人と一緒の職場は私も心強い。
「私も友達が近くにいるのは嬉しいわ。テオフィリン様は宰相様のお孫様だからパレスとも顔を会わせることがありそうね」
「うーん。俺はいい加減この腐れ縁をなんとかしたいんだけれどね。オリバーさんの当たりも強いし」
ルージェックがほとほと迷惑だと眉を下げる。
パレスとルージェックは幼馴染で、パレスの婚約者のオリバー様は学年がひとつ上。茶色い短髪に榛色の瞳をした精悍な顔立ちの騎士だ。
私達が通う普通科の校舎とは離れた場所にある騎士科に通っていたのに、頻繁にパレスに会いに来ていた。そしてその度に、ルージェックを牽制するのだ。
パレスの幼馴染で親しくしているのがどうにも気に入らないらしいけれど、ようはパレスを溺愛してのこと。
そう思えば、微笑ましくもある、かも。
何度もパレスに「ただの幼馴染でそれ以上の感情はないとオリバー様に伝えれば」と助言したのだけれど、「話が複雑化していてそうもいかないの」とため息を吐くばかり。
何がどう複雑化しているのか、まったくの謎だ。
ちなみにパレスが子爵家、ルージェックはビーンハルト伯爵家の次男、オリバー様はベース伯爵家の長男で、今は全員がお城で働いている。
「ルージェックってオリバー様に嫌われているわよね」
「本当、いい加減にして欲しい。俺、パレスに女性としての魅力をこれっぽっちも感じないんだけれど」
「それ、オリバー様が聞いたら、俺のパレスに失礼なこと言うなって怒りそう。ねぇパレス、そう思わない?」
「ふふ、そうね。彼ならありえるわ」
「いやいや、笑いごとじゃないから。だったら俺はどうしたらいいんだ!」
頭を抱えるルージェックに、私とパレスは顔を見合わせ声を出して笑う。
ルージェックは高値の花のような容姿なのに、話せば気さくで男友達も多い。
それなのに婚約者も恋人もいないから不思議だ。
合格通知をもらった人が部屋を出て行くと、パレスもオリバー様にテオフィリン様の侍女になったことを伝えると言って、騎士練習場へと走っていった。
それを見送った私は、お腹が空いたと言うルージェックに頷き、ランチをするため食堂へ向かうことにした。
侍女見習いが集められた部屋で、私は教育係から合格通知をもらった。
「おめでとう、リリーアン。あなたならできると思っていたわ」
「そんな、私なんて。いろいろ親切に教えてくださったおかげです。ありがとうございます」
頭を下げる私に、教育係は嬉しそうに頷き「これからも不安なことがあったら相談してね」と声をかけてくれた。
そのまま部屋の隅にいけば、先に合格通知をもらった学園時代からの友人パレスが赤茶色の髪を揺らしながら駆け寄ってくる。
「リリーアン、おめでとう!」
「パレスもおめでとう。王太子殿下のご子息テオフィリン様の侍女になるなんて凄いわ」
「まさか合格するなんて自分でもびっくりしているの。テオフィリン様付になれば王太子妃殿下にお会いすることもあるし!」
王太子妃殿下はハレストヤ王国の宝石と言われるほどの美人で、しかも才女なうえにお優しい。この国の令嬢の憧れの的だ。
ちなみに私がお仕えする宰相様は王太子妃殿下の父親で、渋さが滲むイケオジとご婦人方から人気。
血筋って凄いな。
「でもあまり王太子妃殿下に入れ込むと、婚約者が妬くわよ」
「そうなの。相手は女性なのに、彼、私のことが大好きだから誰にでも嫉妬するの。ふふ、困ったものだわ」
と言いつつ幸せな顔。はいはい、ご馳走様と私が笑っていると部屋の扉が開いて、文官見習いの服に身を包んだ男性が入ってきた。
「リリーアン、宰相様付きの侍女になったんだって。おめでとう」
「ルージェック! ありがとう」
入ってきたのはこちらも学園時代からの友人であるルージェック。
サラサラのライトブラウンの髪に、切れ長の濃紺の瞳。すっとした鼻筋に白磁のような肌、さらには文官なのに長身で引き締まった体躯をしている彼は、その見た目からとにかく目立つ。
今もルージェックが部屋に入ってきた途端に、あちこちで黄色い歓声が上がる。
「貴方はどうだったの?」
「宰相様付きの文官に受かったよ。これからは今まで以上によろしく頼む」
「凄いわ! 文官では最難関と言われているエリートになったのね」
「そうなのかもしれないけれど、俺はリリーアンと一緒に働けることのほうが嬉しいよ」
誰にでも気遣いのできるルージェックらしい言葉。友人と一緒の職場は私も心強い。
「私も友達が近くにいるのは嬉しいわ。テオフィリン様は宰相様のお孫様だからパレスとも顔を会わせることがありそうね」
「うーん。俺はいい加減この腐れ縁をなんとかしたいんだけれどね。オリバーさんの当たりも強いし」
ルージェックがほとほと迷惑だと眉を下げる。
パレスとルージェックは幼馴染で、パレスの婚約者のオリバー様は学年がひとつ上。茶色い短髪に榛色の瞳をした精悍な顔立ちの騎士だ。
私達が通う普通科の校舎とは離れた場所にある騎士科に通っていたのに、頻繁にパレスに会いに来ていた。そしてその度に、ルージェックを牽制するのだ。
パレスの幼馴染で親しくしているのがどうにも気に入らないらしいけれど、ようはパレスを溺愛してのこと。
そう思えば、微笑ましくもある、かも。
何度もパレスに「ただの幼馴染でそれ以上の感情はないとオリバー様に伝えれば」と助言したのだけれど、「話が複雑化していてそうもいかないの」とため息を吐くばかり。
何がどう複雑化しているのか、まったくの謎だ。
ちなみにパレスが子爵家、ルージェックはビーンハルト伯爵家の次男、オリバー様はベース伯爵家の長男で、今は全員がお城で働いている。
「ルージェックってオリバー様に嫌われているわよね」
「本当、いい加減にして欲しい。俺、パレスに女性としての魅力をこれっぽっちも感じないんだけれど」
「それ、オリバー様が聞いたら、俺のパレスに失礼なこと言うなって怒りそう。ねぇパレス、そう思わない?」
「ふふ、そうね。彼ならありえるわ」
「いやいや、笑いごとじゃないから。だったら俺はどうしたらいいんだ!」
頭を抱えるルージェックに、私とパレスは顔を見合わせ声を出して笑う。
ルージェックは高値の花のような容姿なのに、話せば気さくで男友達も多い。
それなのに婚約者も恋人もいないから不思議だ。
合格通知をもらった人が部屋を出て行くと、パレスもオリバー様にテオフィリン様の侍女になったことを伝えると言って、騎士練習場へと走っていった。
それを見送った私は、お腹が空いたと言うルージェックに頷き、ランチをするため食堂へ向かうことにした。
33
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる