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第一章

第十四話 禁止令(4)

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「おはよーユキチ先生」
「おお、おはよ………夢?」
「ううん。現実」

 朝のユキチ先生はこんな感じなのか。
 いつも怠そうだけど昼の倍は人相が悪い。

 朝から登校しても何となく一番にユキチ先生に会いに行くべきな気がして、教室に行く前に職員室に立ち寄ると丁度ユキチ先生も廊下に出てきた。

「そーかそーか。漣にやっと俺の熱い思いが通じたか」
「熱い思い?」
「毎日諦めず声かけ続けてよかった」
「え?何の話?」

 確かに毎日会話はしていたけど、ユキチ先生からただの一度だって熱い何かを感じたことはない。 

「あれ!?るうくん!?」
「響、いい加減にしろって。瑠夏と遊びたいのは分かるけど変な嘘吐くんじゃねえよ」
「淳希くん、嘘じゃないかも………」
「ああ?奏まで共犯かよ」
「淳希おはよー。朝も俺の席座ってるん?俺のこと好きすぎん?」
「………夢?」
「ううん。現実」

 ユキチ先生と一緒に教室に入ると、皆信じられないものを見るような顔を向けてくる。

 一週間遅刻し続けただけなのにお化けでも見たような反応しなくても良いじゃんか。言っとくけど本物だからな。  

「熱あるんじゃねえだろうな?馬鹿は風邪に気づかないって言うだろ」
「違うし!昨日は一人でも眠れただけだし!」
「はあ?何言って………」
「お前等さっさと座れー!あ?何か漣急に厳つくなってね?髪尖り過ぎだろ」
「ユキチ先生寝坊けてるとかの時限じゃないでしょ………」

 ユキチ先生の一言で髪の尖り具合が気になり始めた淳希は手のひらに毛先を当てながら自分の席に戻って行った。

 初めてのホームルームを受けながら前方に座っている淳希の髪の毛を見る。

 一体セットに何分かけているんだろう。

 毎日同じ形を作って朝のホームルームに間に合うように登校して。見た目に寄らず丁寧な暮らししてそう。

「漣ー、お前どこ見てんだ?寝坊けてんのか?シャキッとしろシャキッと」
「せんせーには言われたくない!」
「あ?俺は無遅刻無欠勤だぞ。見習えヤンキーども」
「うーん。俺はこれから淳希を見習おうと思う」
「え、何で俺?」

 淳希が突然のご指名に振り向く。かなりの勢いだったけど毛先はビクともしない。

 あれどうやって固めてるんだろ?ケープ?ゼラチン?瞬間接着剤? 

 ますます淳希の髪の毛に興味が湧いてくる。

「るうくん明日からツンツンヘアにする気!?」
「そ、それはやめたほうがいいと思う………」
「駄目だぞ!頼むからそのままでいてくれ!」
「俺達の可愛い瑠夏が汚れる!」

「お前等俺を何だと思ってんだ!!!」


 ✽✽✽


「ねえ、髪の毛どうやって固めてるの?」 
「ストップ!るうくん聞いちゃダメ!るうくんはふわふわヘアでいてくれなきゃ!」
「僕もふわふわの髪のままが良い…」

 淳希がついでだと言って購買で買ってきてくれたパンを食べながらやはり気になって仕方ないツンツンヘアについて聞き込みを始めようとすると響と奏に止められてしまった。

 実は隣の席だった奏の机をくっつけ、四人で二つの机を囲って座っている。

「朝からずっと頭ディスってくんのやめてくんねえか?自信無くなってきたわ」
「なんで!?俺はその髪型良いと思うよ!淳希の粗暴そうに見えて実は繊細な心が現れてるだけじゃなく日々の努力の積み重ねと丁寧な暮らしぶりが透けて見える素晴らしい作品だよ!」
「ちけぇちけぇちけぇ!」
「おっと失礼」

 つい熱くなりすぎてしまった。
 いつの間にか立ち上がって前のめりになっていたのできちんと椅子に座り直す。

 一切理解出来ない授業を聞いている間ずっと淳希の頭を眺めていたせいで愛着が湧いてしまったみたいだ。

 もし淳希が髪型を変えたら俺はとっても落ち込むだろう。

 俺が熱弁したことでクラスの皆がまたおかしな心配をし始めて、淳希が再度髪型への自信を失いかけている。

 ―――事件が起きたのは、そんな平和なお昼の時間だった。
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