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第一章

第十三話 禁止令(3)

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 零の視線を感じながらちーくんお手製カップケーキにかぶりつく。

「ふまひ」
「感想は飲み込んてからでいいですからね」
「………っん、うまい!」
「よかったです」

 零の不躾な視線にもそろそろ慣れてきた。
 思えば初めて会った時も顔を見られていたし零は俺の顔好きなんだろうな。

 我ながら罪な男だぜ。

「何でドヤ顔しながらカップケーキ食べてるの?」
「安心して。茜も負けてないよ」
「何に?」 
「………」
「そこで無視するのやめてよ気になるんだけど」

 茜の声は聞こえないことにしてカップケーキを貪る。

 いつも通り色んな生徒がお裾分けを貰いに来る中見知った顔が登場した。

「失礼します!隣からケーキ一袋貰ってってもいいっすか?」

 生徒会の人達に憧れている淳希はこの人達の前だとなんだかしおらしい。

「淳希!ここで食べてきなよ!」
「いやそれは流石に………てかお前何でそんな馴染んでんだよ」
「ん?カップケーキ美味しいよ」
「日本語通じないのか?」 
「はい!あーん!」

 折角なので目の前まで行き、はるばるカップケーキを取りに来た淳希に俺の分を一つ贈呈してあげる。
 昼休み散々からかってしまったお詫びだ。

「あー…………いやいやいやおかしいだろ!」
「む。何がおかしいのさ」

 わざわざ持って来てあげたのに口をつけてくれなくて頬が膨らむ。
 でも次の言葉でそんな苦情は何処かへ行ってしまった。

「いや、ダチにあ、あーんとか、おかしいだろ!!!」

 淳希の叫びが生徒会室に木霊する。相変わらず林檎みたいに真っ赤っ赤だ。

「ダチ………ダチ?」

 聴き慣れない単語に首を傾げた。

「友達のことでしょ」

 茜の一言に余計頭が混乱する。

「………?淳希、茜と友達なん?」
「何で俺と茜さんが友達なんだよ、恐れ多いわ!」
「………?」

 じゃあ何で急に友達なんて単語出したのさ。
 良く分からず黙り込むと、零が自分の隣を叩きながら俺を呼んだ。

「瑠夏、戻って来い」
「あーい」
「淳希はお前に言ったんだ」
「ん?何を?」

 零は大人しく隣に座った俺の腕を操作して持っていたカップケーキを自分の口元に持って行く。そして一口食べた。

 零って偶に変な行動するよね。

「友達って、お前に言ったんだろ」
「俺?」
「そうだろ淳希」
「はい。そっす」
「………トモダチ………友達?」

 自分と淳希を交互に指差す。

「そうだろ?響も奏もそう思ってるぞ」

 淳希が躊躇いなく頷くのを見て突然周りの景色が色づいていくような胸の高まりを感じた。

「………!!友達!!零!俺友達できた!」
「ああ。良かったな」

 零は大きい口で残りのカップケーキを食べ終える。
 事の重大さを全く分かっていないようだ。

「俺教室行ってくる!」
「ああ?何でだ」
「だって響も奏も俺のこと友達だって思ってるかもしれないんだよ!確かめないと!!」
「んなもん明日でいいだろ。放課後はここに居ろ」
「いや!」
「………」

 淳希の腕を掴んで急いで教室に向かう。後ろから茜が大爆笑する声が聞こえてきた気がするけど、今はそんなこと気にしてる余裕はない。


「いやだって!あはは、駄目だ流石に面白すぎる」
「………」
「れ、零兄さん元気出して。あくまで友達って言葉に喜んでるだけだよ。零兄さんは友達になりたいわけじゃないでしょ」
「………」
「あ、ほら。ケーキ持ってってあげたら?」
「………いや。今は邪魔しない方がいい」
「あははははっ、零超良い男じゃん!超可哀想だけど!」
「茜さん!シー!!!」


 ✽✽✽


 これは一体どういう状況なのだろう。

 淳希は頭を悩ませる。

 生徒会室を出た時のあの勢いは何処へ行ってしまったのか、響と奏を前にした瑠夏は淳希の背中に隠れてしまった。

「るうくんどーしたの?放課後は生徒会室に居なきゃなんじゃ?」
「体調悪い?大丈夫?」

 二人も瑠夏の余所余所しい態度に戸惑いを隠せない様子だ。
 
 瑠夏は少し躊躇した後漸く二人に向かって質問することに成功した。

「と………友達って知ってる?」
「「「………」」」

 どういう質問だよ!!!

 淳希は心の中で叫ぶ。

 生徒会室で瑠夏のことをダチだと言ったのに特に深い意味はなく、ただそう思っていたから自然と口に出ただけだ。

 そんな何気ない言葉にあんなに混乱したり喜んだりするなんて、今まで一体どんな生活を送ってきたんだろう。

「知ってるよ!僕達みたいな仲良しさんのことを言うんだよね!」

 単純且つ考え無しに見えて意外と勘の鋭い響は何となく瑠夏が何を聞きたかったのかを察した。奏も何度も頷いている。

「………!俺達友達!?」
「うん!そーだよ」

 響が肯定すると瑠夏は嬉しそうに笑ってみせた。

 まだ出会って一週間しか経っていない。
 加えて初日には揉め事まであった仲だが、淳希は瑠夏の自ら殴られにいくような言動をする姿と最後に見せた佳奈美への冷たい瞳が忘れられなかった。

 だから友達、なんてことを言いたいわけではなく、ただ単純にここ数日休み時間を一緒に過ごしておまけにあんな騒動を一緒に経験したのだから単なるクラスメイトという存在で終わるのはやっぱり寂しい。

 それは自分だけでなく響も奏も一緒のはずだ。

「友達って、必ずしも死ぬほど仲良くなってからなるもんじゃねえんだぞ」
「どーゆーこと?」

 本気で分かっていない瑠夏を見ると胸が痛む。

「お互いが仲良くなりたいって思ってたら、もう友達ってことだ」

 瑠夏は考える素振りを見せた後、思い立ったように淳希の背中を押しながら自分の席へ向かった。

 淳希のブラウスを強く掴んだまま顔だけひょっこり覗かせて、夕陽で頭を輝かせている正人に珍しく自信なさげに話しかける。

「あ、あの………」
「………」

 正人は何も言わないが真っ直ぐ瑠夏を見つめた。

「俺、正人と仲良くなりたいんだけど………」

 最後の方にかけて声量は小さくなっていたもののなんとか言い切った。瑠夏の手の震えが直に伝わっていた淳希も胸を撫で下ろす。

 それに対して正人はというと。

「………」

 静かに立ち上がり、丁寧に深く頭を下げた。

 瑠夏の手に力が入るのが分かる。淳希は全く動揺していなかったが、瑠夏にはこのお辞儀が意味するものを正しく理解する余裕が無かったのだろう。

「マー、多分伝わってないかも!」

 見兼ねた響が慌てて口を出す。
 正人も急いで顔を上げ、瑠夏の顔を見て現状を理解した。

「自分も仲良くなりたいんで。友達っす。よろしくお願いします!」

 野太い声を上げた後正人は再び頭を下げた。

「正人お前、それ分かりづらいんだよ!」

 淳希が笑いながらツルツルの頭を撫で回す。

「ほんとにね!よしよし瑠夏ー!ビックリしたねえ」

 響は未だ淳希の後ろで固まっている瑠夏に飛び付いた。

「待て待て待て!俺等も混ぜろ!」
「そーだよ!いっつもお前等で独占しやがって!」
「瑠夏ー、俺も友達な!!」
「俺も俺も!」

 響に続いて教室に残っていた生徒達が一斉に瑠夏の元に集まってくる。

 瑠夏は何度も瞬きを繰り返し、これが本当に現実なのかを確認した。

「瑠夏、応えてやれよ」

 淳希が瑠夏の背中をそっと押す。

「………」

 ―――コクン

 瑠夏は彼方此方へ視線を動かした後、噛み締めるように深く頷いた。

「ははっ、お前結構恥ずかしがり屋なんだな!」
「それな?でも可愛い!」
「テメーはそればっかじゃねえか!」

 途端に教室中が湧き上がる。

「コイツ等、ずっと瑠夏と話したかったんだと。瑠夏、来るの遅いし放課後は生徒会の皆さんのとこ行っちまうしで話す機会はないわ、零さんが怖いわで………」
「あ、淳希くん、それは言っちゃ駄目かも」
「は!いやまあ、兎に角皆お前と仲良くなりたいってずっと俺等に言ってて………」

「へへっ、うれしー」

 瑠夏は元々よく笑う。というか基本いつもヘラヘラしている。

 でも今日見せた笑顔は何時ものとは違う、蕾が開くような笑い方だった。

「「「「う………っ」」」」

 色んな意味で破壊力抜群の笑顔にクラスメイト達は胸を抑えて座り込む。

「え、撃たれた?」
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