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第一章

第十二話 禁止令(2)

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「るーうーくーん!」

 遅刻届をユキチに渡し終え廊下を歩いていると前方から男にしては高めのエネルギッシュな声が飛んでくる。

「響はいつも元気だね」
「もっちろん!毎日楽しい!」
「瑠夏くん、おはよう」
「おはようかなで。はー、奏見ると落ち着く」

 陽気くんと陰気くんコンビは何と双子だったのだ。

 響は最初から距離感近めだったけど、奏は最近漸く目を合わせてくれるようになった。

 茜に弄ばれた後だからか、緊張しながらも控えめに話しかけてくれる奏がいつもの倍可愛く見える。

「ひっどーい!僕は?」
「響は別に落ち着きはしない」
「ちぇっ、僕よりカナの方がいいってことね」
「うーん、そういう話じゃないかな。響見てると楽しいし」
「………!るうくん好きー」

 響は茜に負けず劣らずの人誑しだな。
 愛嬌常備の響にこんな風にじゃれつかれて落とされないのは相当な堅物だけだ。

「瑠夏来たじゃん」
「はよー」
「今日ちょっと速くね?」

 三人で並んで教室に入るとクラスの皆は口々に挨拶してくれる。

「はよー」

 俺が喧嘩出来ないことを知ってか知らずか今のところいじめには合っていない。

 それどころか皆親切で、遅刻常習犯の俺を咎めることもなく当然のように受け入れていて態度には出さないけれど内心戸惑っていた。

 ちなみに擽ったい態度を取ってくるのはこの男も同じだ。

「瑠夏、メシ食ったか」
「んー、食った気持ちではいるね」
「気持ちだけじゃねえか」

 何故か平然と俺の席に座っているのは今日も最大限髪の毛を尖らせている淳希だ。

 佳奈美ちゃんのこともあるしもう二度と会話することはないと思っていた。

 しかし実際はあの日以降距離が縮まったとすら感じていて、休み時間は基本響、奏、淳希、俺の四人で纏まっている。

「よいしょ」
「おい、上に乗るんじゃねえよ」
「淳希が俺の席座るからじゃん」
「お前が来ねえからだろ」
「スキンヘッドくんおはよー」
「話聞けや!!」

 淳希が声を荒げる中スキンヘッドくんは太腿に置いている手を曲げながら礼儀正しく頭を下げた。

 うーん撫でたい。あのツルツルの頭を撫で回したい。

「るうくんってさ、マーには絶対挨拶するよね」
「確かに。お前正人まさとに変なことすんなよ」
「しないよ!俺はスキンヘッドくんと仲良くなりたいの!」
「正人くん嬉しそう………」

 スキンヘッドくんを見ると確かに少し顔が赤くなっている。なんと頭まで同じように染まっていた。

「く………っ、触りたい!」
「おい!!問題発言だろ!!!」
「え?何処が?」
「さ、さわ、さわ、触りたいっつったろ!」

「「「…………」」」 

「なんだよその目!!」

 なるほど。確かにこれは分かり易い。ドーテーが即バレするわけだ。

「淳希って気づいてないだけでモテてると思うよ」
「はあああ!?」
「その見た目で初心って、刺さる人には刺さるもん。そのままでいてね」
「テメェからかってんのか!」

「淳希………」

 淳希に向き合って立ち、大きな肩に手を乗せる。

「可愛いよ」

 微笑みながらそう言うと、スキンヘッドくんとは比にならないくらい淳希の顔が真っ赤になった。

「アッキー林檎みたい!」
「………赤い」
「………」

 大喜びの響。鋭く指摘する奏。無言で頷くスキンヘッドくん。

「表出ろ瑠夏!!」
「なんでよ。褒めただけじゃん」
「褒め方がおかしいだろうが!」
「………?思ったこと言っただけだよ」
「くっそがあああああ!!」

 ふむ。淳希をからかうのもなかなか愉快だな。


 ✽✽✽


 放課後、軽い足取りで旧家庭科室に向かう。

「ちーくん!今日は何?」
「カップケーキです。プレーンとチョコチップがありますよ」
「俺プレーン!」
「はいはい。焼き上がるまで隣で待っててください」
「あーい」

 室内ドアからそのまま隣に行くと、既に零と茜がソファーに座っていた。

「零………どしたん」
「………何がだ」
「いやいやいや。本気で言ってる?」
「………」

 気まずそうに目を逸らす零。どう考えても俺の方が気まずい。

「いやー、零は良い筋肉してるよね」

 コイツの差し金か!!
 あっけらかんと言ってのける茜に文句を言う気力すらない。

「ちゃんとボタン留めないと風邪ひくよ」
「風邪をひいたことはない」
「ふーん。零って馬鹿なんだね」
「怒るぞ」
「その前にボタン留めなよ」

 仕方ないので何故か一つも役割を果たしていないブラウスのボタンを留めてあげる。
 昨日まで中に黒T着てなかったっけ?

「手のかかる生徒会長だ」
「そんなことはない」
「あるよ!今の自分を客観視してみ!」

 飄々とした顔で言い切りやがって。

 力が全て。そう謳っているだけあって、何とこの見るからに素行不良そうな綺麗系イケメンくんがこの学校の生徒会長だという。

 茜、ちーくんも同じく生徒会のメンバーらしいが、ちーくん以外の二人が生徒会といういかにも優秀な人が集まるような組織に所属しているなんて到底信じられない。

「俺はこう見えて筋肉には自信がある」
「こう見えて?どう見てもの間違いじゃない?」

 確かに制服が窮屈に見えるような筋肉マンではないが、力は強いし一度触れれば直ぐに分かるほど肌は固い。

 モデル体型が崩れない程度の丁度良い筋肉具合だと俺は思う。実際腹筋はきちんと6分割されているし。

 ………てか何で零の筋肉についてこんなに真剣に考えてるん?

「そうか」
「うん」

 零は満足したようでもう筋肉について言及してこなかった。
 これ以上突っ込んで更に筋肉自慢が始まっても面倒なので何も言わずに零の隣に座る。

 四角いテーブルを囲うように二人用のソファーが3つ置いてあるが、一番奥のソファーに零と並んで腰掛けるのが定番だ。

 茜は左手のソファーを一人で伸び伸びと使っている。
 右手側は大事なちーくんの席だ。
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