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第一章

第七話 生徒会

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「あれ?零クン良いものもってるね」
「やらねーぞ」
「欲しがってないし」
「ぬわあーーーーー!!!」

『生徒会室』
 確かにそう書いてある扉の中には、数時間前に見かけたあの男がいた。良くしてもらったしつい先程までは感謝していたけど今となってはとても憎たらしい。

「………うるせえ」
「イケメンくん降ろして!俺はあの男と話を付けないと!」
「分かったから暴れるな」

 ジタバタ藻掻くと、今度は素直に降ろしてくれた。ソファーに腰掛け携帯片手にヘラヘラと笑っている茜の胸倉を掴んだ。

「わざとだろ!」
「ん?何のこと?」
「知らばっくれるな!あんなに色々話したのに、俺が喧嘩できるか聞いてきたのに、この学校が強さが全てだって言わなかった!」
「えー?そうだっけ?もしかして早速絡まれたの?怪我してない?」

 あろうことか茜は激昂している俺の頭を撫でてくる。

「髪フワフワだねぇ」
「けっ、茜みたいなサラサラヘアー保持者はいいよな!」
「え?可愛いよ猫っ毛」

 昼に会った時は下ろしていたのに、今は少し長めの白髪をハーフアップにしている。こなれ感があって大変格好良いことで。ムカツク。

「ふんっ」 
「あははー、取られちゃった」

 大変癪に障ったので髪ゴムを取ってやったが、サラサラの髪には跡一つ残らず色気が増しただけだった。

「く………っ!」

 この上ない敗北感。もう戦えない。

 茜の座っているソファーの隣を殴っていると、お腹に太い腕が回ってきて引き寄せられるがままに持ち上げられた。

「え?今度は何?」
「………」

 イケメンくんは何も言わずに歩き出す。俵の次は猫になった。何方も大変息苦しい。
 
 隣の部屋へ続く扉があって、イケメンくんは迷わずそこに入って行く。

 室内はコンロと水道がセットになったものが2つ毎に四列並んでいて、後ろでは大きなオーブンが今正に稼働していた。

「次は誰ー?まだクッキー焼き上がってないって…………え?ほんとに誰?」
「いい匂い!!クッキー?俺食べたい!」
「転校生だ」

 下ろしてくれたので走ってオーブンの前を陣取る。目を凝らすと兎やハート、星、猫、兎に角色々な形のクッキーが見えた。

 漂ってくる香ばしく甘い匂いにお腹が音を立てる。

「そういえば、今日まだなんも食べてなかったな」

 そりゃあお腹が空くわけだ。納得して頷くと、強い力で腕を掴まれた。

「今なんて言いました?」

 突飛な髪型の人が多い白蘭にしては珍しくありのままの茶髪をナチュラルにセットした好青年だ。

 ブラウスの上に水色のエプロンを付けている。
 ポケットには熊のワッペンまで付いていて全く不良には見えない。

「クッキー食べたいです!」
「その前です」
「今日まだなんも食べてない………?」 
「それです」

 好青年は整った顔を近付けてやけに深刻な表情で頷くと、直ぐに隅に置かれている冷蔵庫を開けて何かを作り始める。

「何作ってるの?」
「大人しく待ってろ」

 気になって近寄ろうとした俺をイケメンくんが直ぐ側の椅子に座らせ、自分も隣に座った。
 丸い板に脚が付いているだけの簡単な椅子だ。

「………」
「………」

 ―――トントントントン

「………」
「………」

 ――――グツグツ、グツグツ

「………」
「………ねえ、俺帰ってよくない?」
「ちょっとは大人しくできないのか」
「大人しくしてたよ」
「………」

 この男、よくこうも動かないでいられるな。
 人形みたいな顔をして人形みたいに動かないならマネキンのバイトとかできそう。
 イケメンな顔と完璧なスタイルを持つこの男なら余裕で採用される筈だ。

「ねえ」
「なんだ」
「名前は?」
安西 零あんざい れい
「格好良い名前だね」
「………」

 すぐ黙るじゃん。話し相手には向かないな。

「俺の名前は何でしょう!」
「漣 瑠夏」
「何で知ってるの…?こわあ」
「お前が聞いたんだろうが」

 零は俺の頭を軽く小突いた。全く痛くはない。

「ふはっ、ね、もうちょっと力入れてみて」
「やらねえよ」
「なんで?」
「頭吹っ飛ぶから」
「あははっ、零って面白いね」
「………可愛くは?」
「ない」

 一体どうして『可愛い』に固執しているのやら。

 イケメン、クール、綺麗。そんな言葉を飽きるほど聞いている癖にわざわざそんなかけ離れた褒め言葉を求める気がしれない。 

 ―――グツグツ!!グツグツ!!

千早ちはや、鍋」
「は!ご、ごめん、驚き過ぎて手止まってた」

 床を眺めて零の可愛いへの欲求について真剣に思考していると、零の無機質な声が聞こえて顔を上げた。

 好青年が慌てて鍋をかき混ぜている。

「………千早?」
「あ、はい。安西 千早あんざい ちはやと言います」
「ん?兄弟?」
「いえ、零兄さんは従兄弟なんです。漣さん、仲良くしてくださいね」
 
 好青年は本当に好青年だった。
 何故か頬をほんのり赤く染めながら、俺の目の前に鍋敷きを置きそこに小鍋をのせる。中はネギののった卵雑炊で、お出汁の香りが広がった。

「これ、食べていいの?」
「勿論です」

 千早は自分も俺の隣に椅子を持ってきて座る。

 千早イコール神様!了解!

「いただきます!」
「はいどうぞ」

 蓮華にもりもりにしてフーフーしてから頬張る。

「ん~!!美味しい!」
「良かったです。ご飯はちゃんと食べないとですよ」
「ふぁーい!んっ、あつっ」
「急がないでいいですから。ゆっくり食べてください」

 千早の言う通りしっかり噛んでいると、隣から異様な圧を感じた。

「零………?どしたん?」
「いいから食べろ」
「………?」

 切れ長で冷たそうな目なのにその視線は熱烈だ。一切目を逸らさず俺を見ている。

 よく分からないが、千早のご飯があまりにも美味しいので取り敢えず食べ進めることにした。
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