黒に染まる

7瀬

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最終話

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「何処なの………一体何処に居るの………」

 白に包まれた部屋で女王が嘆く。
 美しい容姿は見る影もなく、目元は落ち窪み頬は痩せこけていた。

 人形も白の騎士も総動員であの子を探しているというのに未だに見つからない。

 まさかあの者がまだ生きていたというの。
 こんなことならもっとはやく白の身体を手に入れておけばよかった。

 何年もかけて編み出した白を手に入れる方法。
 それは極めて単純で、白を持つ者の身体に自分の魂を入れるというものだった。

 本来魂は身体を失えば天へ還ってしまうが、女王の持つ不死身の力を使えば困難ではあるものの不可能ではない。

 しかし成長途中の身体では不死身という強い魔法を持つ魂を受け止めきれない可能性があったのだ。

 だからギリギリまで待ったのに、まさかこんなタイミングで息を潜ませていたあの者が手を打って来るなんて。

 そもそも大した力もないあんな人間が神に近い力を持つ女王の捜索を逃れるなんてあり得ない。

「うぅ………っ、うううっ」

 長らく女王の嗚咽だけが聞こえていた部屋に、待ち望んでいた声が響いた。

「女王陛下、お待たせいたしました」


 突如後ろからかけられた声に女王は慌てて振り向く。

 ―――やっと叶う。何千年と抱き続けてきた夢が漸く叶う。

 そんな女王の希望は一瞬で塵となり霧散する。

「ああ………」

 女王の瞳から再度涙が溢れた。

 現れた青年の髪と目は、これ以上何にも染まらない黒色を纏っていたのだ。

「ふ、ふふふ。あはははははは!
 良いわ。あと千年くらい待ってあげるわよ。
 貴方はもういらないから死になさい。私は新たな白を待つ」

 女王は狂ったように笑った後、立ち上がり躊躇なくリュカに向かって魔法を放つ。
 何らかの攻撃系魔法だろうが、それが効果を発揮することはなかった。

 その前に女王の口から血が噴き出し、白い絨毯に倒れ込んだからだ。

「ど、して………」

 不死身の魔法が発動しない。肉体が焼けるように熱を帯び、花が枯れるように萎れていった。

「貴方は僕には叶わない。ラシオンの魔法は完璧で、僕は世界で一番の魔法使いなんだから」

 黒い皮となった女王に見向きもせず、リュカは部屋に火を付ける。それは勢いよく燃え広がり瞬く間に城は炎で覆われた。


 ✽✽✽


 リュカは白色のベッドの上ですっかり冷たくなったてしまったラシオンの身体を抱き締める。

「寂しい思いをさせてごめんね」

 離れ離れになったこの数分ですら胸が引き裂かれる思いだったというのに、ラシオンは千年もの間一体どんな思いで自分を待っていたのだろうか。

「これからはずっと一緒だよ」

 ラシオンを強く抱いたままリュカはそっと目を瞑った。

 小屋の外は鮮やかな緑を纏った木々が生い茂り、ところどころ野花が咲いている。青い空には高く日が昇り、爽やかな小鳥のさえずりが響いていた。



 ―――白が尊ばれ、黒が迫害される世界。
 これはたった二人の黒が繋いだ愛と復讐の物語。誰の記憶にも残らない、何処にでもある小さく儚い恋の話だ。



『黒に染まる』fin.




 ⚠作品内で説明出来なかった設定が多くあるため、次ページより設定集となる予定です。(キャラ紹介、ユバルの計画の説明など)

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