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月に吠える
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◆
扉が二度叩かれ、一拍置いて三度。
事前に決められた手順で扉が叩かれる。
「入りなさい」
ローレンツが冷たい事で言うと、シェルミが静かに入ってきた。
部屋に一歩足を踏み入れたシェルミは、部屋の隅に無造作に転がされているモノに気付くと一瞬動きを止める。
すると──
「待て」
ローレンツが鋭く声を発した。
──なんだ?
何か妙だ、ローレンツはそう思った。
同じ鍛冶屋から購入した長剣の一本一本──ナリは同じでも振れば微妙に違和感があるように、これまで散々に虐げてきたシェルミの姿に何か違うものを覚えたのだ。
「なんでしょうか?」
しかし尋ねるシェルミの様子に不審なものはない。
──気のせいか……
この時、ローレンツはシェルミを縛っている鎖が既に外れている事に気付けなかった。
しかしこれは彼の未熟を意味するのではない。
剣士とて身体能力を向上するために魔力を扱う者は多い。
ローレンツもその例に漏れず、もしシェルミの全身と全霊に食い込んだ自身の魔力の残滓が取り除かれていたならば、彼はそれに気付いただろう。
違和感を覚えながらも完全に気付く事ができなかったのは、つまりは何かしらの小細工が為されているからだ。
──『月はそれ自体が光を発する事はありませぬ。しかし人々は月そのものが輝いているのだと思い込んでおります。さて、ローレンツという男が気付けるけどうか見物ですね』
シェルミの脳裏に悪辣な魔術師の姿がよぎり、そして彼女は内心で嗤った。
◆
「口づけを」
ローレンツは一糸まとわぬ姿で仁王立ちをし、シェルミにペニスを突き出した。
これは恒例の儀式だ。
女に跪かせてその先端に接吻させ、舌で奉仕をさせる。
そして何度か殴りつけ、優位を示した後は獣の様に犯す。
これ以外の性交のやり方を知らない男であった。
果たしてシェルミはローレンツに命じられた通りに跪く。
そして柔らかく、僅かに潤んだ美しい唇をそれに近づけ、微かな音と共に一筋の冷たい──とても冷たい、無限の拒絶を孕んだ吐息を漏らした。
・
・
"降る雪に咲く銀花 " という字名は彼女の両親が贈ったもので、本来は命を奪う死の季節に生まれた彼女の命の強さを讃える意味をもっている。
成長した彼女が氷術に高い適正を示したのは、まさに名は体を表すという言葉を体現したものと言えるだろう。
だが自然を敬う森人としては異端でもあった。
シェルミが森を離れたのは外の世界への純粋な興味もあったが、死を齎す恐るべき氷術師としての力ゆえに受けた冷たい差別が根底にあった。
・
・
シェルミの吐息が触れた瞬間、ローレンツの皮膚に氷の花々が一瞬で咲き誇る。
「がッ、あァァア!?」
苦悶の声をあげて床でのたうちまわるローレンツに、シェルミは絶対零度の視線をくれながら言う。
「その様に転がると、大切にしているモノがへし折れてしまいますよ」
ローレンツのペニスから広がった凍気はみるみるうちに下半身全体へ広がっていき──ばきり、と。
「あら。ふふふ」
不意にシェルミが嬉しそうに嘲笑った。
床に転がるそれは、まごうことなきローレンツのペニスだったものだ。
青白く変色し、中心からぽっきりと折れている。
「き、きききき……ぎざまァァ────ー!」
ローレンツは下半身を強く意識して魔力を流し、身体を賦活した。
すると凍り付いた下半身に再び血が巡りはじめる。
それは同時に、鈍化していた痛みを呼び覚ます事にもなるのだが、この時のローレンツは痛みを覆い隠す程の怒りによって一時的に無痛状態となっている。
「──ッ殺す!!」
ギラとした殺意、暴の気配はかつてシェルミが恐れたモノだ。
しかし今の彼女は──
「負け犬の遠吠えですか?」
冷笑を以てそれに応じた。
ローレンツの口元が怒りでひくりと震え、怒号。
「これを見て──同じ事が言えるか!?」
両眼が見開かれ、瞳が妖光を帯びる。
扉が二度叩かれ、一拍置いて三度。
事前に決められた手順で扉が叩かれる。
「入りなさい」
ローレンツが冷たい事で言うと、シェルミが静かに入ってきた。
部屋に一歩足を踏み入れたシェルミは、部屋の隅に無造作に転がされているモノに気付くと一瞬動きを止める。
すると──
「待て」
ローレンツが鋭く声を発した。
──なんだ?
何か妙だ、ローレンツはそう思った。
同じ鍛冶屋から購入した長剣の一本一本──ナリは同じでも振れば微妙に違和感があるように、これまで散々に虐げてきたシェルミの姿に何か違うものを覚えたのだ。
「なんでしょうか?」
しかし尋ねるシェルミの様子に不審なものはない。
──気のせいか……
この時、ローレンツはシェルミを縛っている鎖が既に外れている事に気付けなかった。
しかしこれは彼の未熟を意味するのではない。
剣士とて身体能力を向上するために魔力を扱う者は多い。
ローレンツもその例に漏れず、もしシェルミの全身と全霊に食い込んだ自身の魔力の残滓が取り除かれていたならば、彼はそれに気付いただろう。
違和感を覚えながらも完全に気付く事ができなかったのは、つまりは何かしらの小細工が為されているからだ。
──『月はそれ自体が光を発する事はありませぬ。しかし人々は月そのものが輝いているのだと思い込んでおります。さて、ローレンツという男が気付けるけどうか見物ですね』
シェルミの脳裏に悪辣な魔術師の姿がよぎり、そして彼女は内心で嗤った。
◆
「口づけを」
ローレンツは一糸まとわぬ姿で仁王立ちをし、シェルミにペニスを突き出した。
これは恒例の儀式だ。
女に跪かせてその先端に接吻させ、舌で奉仕をさせる。
そして何度か殴りつけ、優位を示した後は獣の様に犯す。
これ以外の性交のやり方を知らない男であった。
果たしてシェルミはローレンツに命じられた通りに跪く。
そして柔らかく、僅かに潤んだ美しい唇をそれに近づけ、微かな音と共に一筋の冷たい──とても冷たい、無限の拒絶を孕んだ吐息を漏らした。
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"降る雪に咲く銀花 " という字名は彼女の両親が贈ったもので、本来は命を奪う死の季節に生まれた彼女の命の強さを讃える意味をもっている。
成長した彼女が氷術に高い適正を示したのは、まさに名は体を表すという言葉を体現したものと言えるだろう。
だが自然を敬う森人としては異端でもあった。
シェルミが森を離れたのは外の世界への純粋な興味もあったが、死を齎す恐るべき氷術師としての力ゆえに受けた冷たい差別が根底にあった。
・
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シェルミの吐息が触れた瞬間、ローレンツの皮膚に氷の花々が一瞬で咲き誇る。
「がッ、あァァア!?」
苦悶の声をあげて床でのたうちまわるローレンツに、シェルミは絶対零度の視線をくれながら言う。
「その様に転がると、大切にしているモノがへし折れてしまいますよ」
ローレンツのペニスから広がった凍気はみるみるうちに下半身全体へ広がっていき──ばきり、と。
「あら。ふふふ」
不意にシェルミが嬉しそうに嘲笑った。
床に転がるそれは、まごうことなきローレンツのペニスだったものだ。
青白く変色し、中心からぽっきりと折れている。
「き、きききき……ぎざまァァ────ー!」
ローレンツは下半身を強く意識して魔力を流し、身体を賦活した。
すると凍り付いた下半身に再び血が巡りはじめる。
それは同時に、鈍化していた痛みを呼び覚ます事にもなるのだが、この時のローレンツは痛みを覆い隠す程の怒りによって一時的に無痛状態となっている。
「──ッ殺す!!」
ギラとした殺意、暴の気配はかつてシェルミが恐れたモノだ。
しかし今の彼女は──
「負け犬の遠吠えですか?」
冷笑を以てそれに応じた。
ローレンツの口元が怒りでひくりと震え、怒号。
「これを見て──同じ事が言えるか!?」
両眼が見開かれ、瞳が妖光を帯びる。
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