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フィルス殿は筋が良い
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◆
「サラディン、お前は普段何を食べているのです? その様に肥えてしまって、お肉ばかりではなくお野菜も食べなければいけませんよ」
サラディンの腕を枕にしながら、シェルミが言った。
完全に彼女面をしている。
ここはシェルミの家、そのベッドだ。
二人は全裸でピロートークらしきものをしていた。
「先日、貴殿の店で頂きましたよ。中々の味でした。しかし異物混入はいけませんね──まぁそのおかげで早期に危険な勇者の存在を知る事ができたのですが」
「そう、その話です。あの男には注意してください。特にあの目は絶対見てはなりません!」
「魔眼もピンキリですからね、せいぜい気を付けるとしましょう……」
魔眼には様々なものがあり、大抵の場合、相手と視線を合わせるというのが能力起動の条件となる。
そのハードルの低さは厄介だが、種を知られてしまえば対策が容易という弱みもある。
「ところでお前がそうして私の胸を触りながら豚の様にゴロゴロしているのはいいのです、私もお前とこうしているのは楽しいですから。しかしお前が目をかけているという勇者の事はいいのですか? 何も言わずに出てきたと言っていましたが」
「む!」
サラディンはフィルスの事をすっかり忘れていた。
「まあフィルス殿も子供ではありませんから、朝起きて私がいなくとも自分の事は自分でやるでしょうが……そうですね、今日はこの辺でお暇しましょう。シェルミ殿については──」
「ええ、分かっています。あの男と次に会うのは三日後。ですが、その間にお前の勇者の背景を調べ終える事はないでしょうね。あの男はいつも慎重すぎるほど入念に背景を調べます。仲間はいないか、いたとして関係性はどうなのか。貴族を初め有力者との繋がりはないか……居なくなっても誰も気にしない者を選ぶ狡猾な男です」
「結構。でしたら三日後に。それでは名残惜しいですが……」
サラディンはそう言いながらシェルミに口づけを落とし、そこから首筋、鎖骨、臍と一しきり愛でてからその場を去って行った。
・
・
・
「はあ、それにしても……勇者というのは本当に碌な者がいない」
サラディンは散々シェルミと交わった疲労を全身に感じながら、けだるそうに言った。
これまで複数の勇者に会った事がある彼だが、極々一部を除いて地獄みたいな性格をしているものばかりであった。
神の選定がどういった基準なのか全く分からず、そもそもその "神" とやらは本当に神なのかどうかという疑問もある。
──私が信仰を捧げる天輪、御影の二柱が選定していないことを祈りましょうか
そうして一しきり愚痴ながら歩いていると、やがて魔法の鏡亭に着いた。
──中天まではもう少し時間がありますが、さて。変に機嫌を悪くしてないといいのですが
◆
果たして部屋に戻ったサラディンは、部屋に充満する魔力に気付いた。
見れば、ベッドの上で瞑想の姿勢をとったまま微動だにしないフィルス♀がいる。
といってもサラディンの目から見ればまだまだ浅いが。
これはサラディンが教えた事で、言ってしまえば筋トレの魔力版の様なものだ。
魔力そのものをどうこうするのではなく、器の方を鍛えるという感じだ。
魔力が多くても器が小さければ意味がない。
特別な訓練法ではなく、魔術師にとっては極々スタンダードなものに過ぎないが──
──このように、体内魔力が外へ漏れ出す事は中々ないのですが
こういった事は当人の瞑想の技術が稚拙かつ、保有する魔力が多すぎる場合に起こる。
瞑想は魔力を直接操作するわけではないが、意識はする。
だが通常、意識するだけでは魔力が活性化することはない。
願いの型にはめ込まないと形にはならないからだ。
だが保有する魔力が多すぎると、意識するだけで魔力が活性化してしまう事がある。
そして、叶えるべき願いの形を持つことができなかった魔力は、当人も予想もしない事故を引き起こす事がある。
魔力暴走という言葉がサラディンの脳裏をよぎった。
・
・
「あ! サラディン、どこに行ってたの?」
「朝の散歩です、フィルス殿。ところで先ほどの瞑想を見て思ったのですが、そろそろ簡単な魔術をお教えしてもよさそうですね」
「え、ほんと!? 嬉しい」
「瞑想は魔力を意識し、より多くの魔力をたくわえる事が出来る様になる為の技術です。同時に、魔力とはどのようなものかを感覚的に理解するための訓練でもあります。この過程を省くと、変な癖がついてしまうので、通常はそのあたりの過程を経て魔術に触れるほうが良いのですが──フィルス殿はやはり筋が良い。なので少々指導方針を変える事にしました」
ただ、とサラディンは苦言を付け加える事も忘れなかった。
「先ほどの瞑想は集中しきれていない部分もありましたよ」
するとフィルスはやや俯いてしまい、ややあって少し照れたように「だって、最近胸が大きくなったみたいで……先が擦れて、その、なんか……。男の体ならそんな事はないんだけど、魔力っていうのがよくわからねくなっちゃうんだよね。女の体なら何となくわかるんだけど……」
生の女体を見た事がない哀れな者には想像の埒外の事だが、男と女の乳首の作りは大分違う。
単純な大きさ……表面積が段違いなのだ。
「なるほど……胸当てが必要かもしれませんな……」
状況を良く理解するため、自らの曇りなき眼にて確認すべきかと思うサラディンだが──
「そういえばそろそろギルドで講義を受ける時間では?」
優先順位というものもあるため、泣く泣くあきらめざるを得なかった。
「サラディン、お前は普段何を食べているのです? その様に肥えてしまって、お肉ばかりではなくお野菜も食べなければいけませんよ」
サラディンの腕を枕にしながら、シェルミが言った。
完全に彼女面をしている。
ここはシェルミの家、そのベッドだ。
二人は全裸でピロートークらしきものをしていた。
「先日、貴殿の店で頂きましたよ。中々の味でした。しかし異物混入はいけませんね──まぁそのおかげで早期に危険な勇者の存在を知る事ができたのですが」
「そう、その話です。あの男には注意してください。特にあの目は絶対見てはなりません!」
「魔眼もピンキリですからね、せいぜい気を付けるとしましょう……」
魔眼には様々なものがあり、大抵の場合、相手と視線を合わせるというのが能力起動の条件となる。
そのハードルの低さは厄介だが、種を知られてしまえば対策が容易という弱みもある。
「ところでお前がそうして私の胸を触りながら豚の様にゴロゴロしているのはいいのです、私もお前とこうしているのは楽しいですから。しかしお前が目をかけているという勇者の事はいいのですか? 何も言わずに出てきたと言っていましたが」
「む!」
サラディンはフィルスの事をすっかり忘れていた。
「まあフィルス殿も子供ではありませんから、朝起きて私がいなくとも自分の事は自分でやるでしょうが……そうですね、今日はこの辺でお暇しましょう。シェルミ殿については──」
「ええ、分かっています。あの男と次に会うのは三日後。ですが、その間にお前の勇者の背景を調べ終える事はないでしょうね。あの男はいつも慎重すぎるほど入念に背景を調べます。仲間はいないか、いたとして関係性はどうなのか。貴族を初め有力者との繋がりはないか……居なくなっても誰も気にしない者を選ぶ狡猾な男です」
「結構。でしたら三日後に。それでは名残惜しいですが……」
サラディンはそう言いながらシェルミに口づけを落とし、そこから首筋、鎖骨、臍と一しきり愛でてからその場を去って行った。
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「はあ、それにしても……勇者というのは本当に碌な者がいない」
サラディンは散々シェルミと交わった疲労を全身に感じながら、けだるそうに言った。
これまで複数の勇者に会った事がある彼だが、極々一部を除いて地獄みたいな性格をしているものばかりであった。
神の選定がどういった基準なのか全く分からず、そもそもその "神" とやらは本当に神なのかどうかという疑問もある。
──私が信仰を捧げる天輪、御影の二柱が選定していないことを祈りましょうか
そうして一しきり愚痴ながら歩いていると、やがて魔法の鏡亭に着いた。
──中天まではもう少し時間がありますが、さて。変に機嫌を悪くしてないといいのですが
◆
果たして部屋に戻ったサラディンは、部屋に充満する魔力に気付いた。
見れば、ベッドの上で瞑想の姿勢をとったまま微動だにしないフィルス♀がいる。
といってもサラディンの目から見ればまだまだ浅いが。
これはサラディンが教えた事で、言ってしまえば筋トレの魔力版の様なものだ。
魔力そのものをどうこうするのではなく、器の方を鍛えるという感じだ。
魔力が多くても器が小さければ意味がない。
特別な訓練法ではなく、魔術師にとっては極々スタンダードなものに過ぎないが──
──このように、体内魔力が外へ漏れ出す事は中々ないのですが
こういった事は当人の瞑想の技術が稚拙かつ、保有する魔力が多すぎる場合に起こる。
瞑想は魔力を直接操作するわけではないが、意識はする。
だが通常、意識するだけでは魔力が活性化することはない。
願いの型にはめ込まないと形にはならないからだ。
だが保有する魔力が多すぎると、意識するだけで魔力が活性化してしまう事がある。
そして、叶えるべき願いの形を持つことができなかった魔力は、当人も予想もしない事故を引き起こす事がある。
魔力暴走という言葉がサラディンの脳裏をよぎった。
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「あ! サラディン、どこに行ってたの?」
「朝の散歩です、フィルス殿。ところで先ほどの瞑想を見て思ったのですが、そろそろ簡単な魔術をお教えしてもよさそうですね」
「え、ほんと!? 嬉しい」
「瞑想は魔力を意識し、より多くの魔力をたくわえる事が出来る様になる為の技術です。同時に、魔力とはどのようなものかを感覚的に理解するための訓練でもあります。この過程を省くと、変な癖がついてしまうので、通常はそのあたりの過程を経て魔術に触れるほうが良いのですが──フィルス殿はやはり筋が良い。なので少々指導方針を変える事にしました」
ただ、とサラディンは苦言を付け加える事も忘れなかった。
「先ほどの瞑想は集中しきれていない部分もありましたよ」
するとフィルスはやや俯いてしまい、ややあって少し照れたように「だって、最近胸が大きくなったみたいで……先が擦れて、その、なんか……。男の体ならそんな事はないんだけど、魔力っていうのがよくわからねくなっちゃうんだよね。女の体なら何となくわかるんだけど……」
生の女体を見た事がない哀れな者には想像の埒外の事だが、男と女の乳首の作りは大分違う。
単純な大きさ……表面積が段違いなのだ。
「なるほど……胸当てが必要かもしれませんな……」
状況を良く理解するため、自らの曇りなき眼にて確認すべきかと思うサラディンだが──
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