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勇者の恐怖

執事、親身。2

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フェンリルがあまりにも呆然とした様子なので、胸騒ぎがしてしまう。

すとん……。やたら静かに椅子へ座る彼に、どれが愛用のものかわからないままマグカップを選んで、適当に暖かいお茶を淹れた。

「すまん……」

一口、お茶をすする。それからマグカップの縁に額をぶつけた。落ち込み方は可愛かったが、今はそれどころじゃない……。

「ハルは今、どんな感じ?」

「順調だよ。怪我もなかったし、うちから送ったナビゲーターを仲間にしているから迷子もない。反対派の邪魔もあるけど、前もって視察して欲しい地区を回って、予定通りに魔力をつけてる。魔力がないと自力で城に入れないからな」

ふんわりと冒険の旅を捉えていたけど、そういう内容だったのか。最近、魔物が人里を襲うことが増えていたけれど、反対派の情報操作ってやつなのかな。


「恋愛してそう?」

私の問いかけに、フェンリルは腕を組んで「うーん……」と俯いてしまった。

「なぜか旅の仲間が全員女なんだよ。うちから出したナビゲーターも女だけどさ」

「……え?女の子に旅させてるの?危険じゃない?」

「なぁ?俺にもよくわからないんだ。資料によると全員強いらしいが……うちのはほぼゴーレムだし……」

「ゴーレム系女子?」

「俺の幼馴染、ゴリゴリの武闘派。それは置いといて。好かれてるみたいで完全にハーレムの様相を成しているけど、勇者は非常にぼーっとしてんな」

「あぁ~そう……そういうとこある……。モテるのに気がつかないっていうか、そういうフリして受け流してるのか、よくわかんないのよね」


過去を振り返ろう。

ハルはモテた。モテるのに他の女の子に構わないので、ハルに好かれてるのに冷たく当たる私は、嫉妬でけっこう酷い目にあわされた。


「多分、レミールに一途なんだよな」

ちらと私の顔色を伺うフェンリル。そんなこと言われても複雑だ……私はもう疲れてきた……。

「今魔王城にいるって言ったら、血相変えて斬りかかって来たんだ。でもお前たちの気持ちは噛み合ってないだろ。だから余計なお世話とは思ったけどさ、言ったんだよ」

なにを?と、視線で問いかける。フェンリルの目が後悔していた。

「『お前本当に幼馴染のこと大事にしてんのか?』って。そしたら『お前になにがわかる』って見たことないくらいキレた……」

「あー……そういうところ、ある……」

内側に溜め込むからキレたときヤバい。逆鱗もわかりにくい位置にあるけど、私はそこそこわかっている。泣きそうだ。


また過去の話をしよう。

ハルの件で私をいじめた女が、ハルに真水をかけられて泣いた。家までけっこう遠いところで、真冬の野外だった。

地味でキツい悪質なやり返しに、さすがに大人たちも事情を聞いた上で「女の子に暴力はいけません」と説いた。

けれど「でも俺、殴ってない。レミィのほうがかわいそうだった」と見えないところでぼやいていた。庇われた立場で言うのもあれだけど、危ないやつなのだ。


どちらに同情していいのか決めかねているようで、フェンリルは曖昧に口元を笑わせている。

「よくわかんねぇけどさ、一回ちゃんと話し合えよ」

「私は散々言ってきたつもりなんだけどね……」

やっぱり殺してもらった方がよかったのか……?

チラとそんなことも考えてしまった。
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