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雄星の消息は不明だが、親の仕事の左遷は着実に進行しているらしい。父親は次の取締役と話をつけているそうで、ほぼ決まりのようだ。母親はものすごく気を使って「今週はお買い物に行きましょう! 演劇を見に行くのもいいわね」なんて早口でまくし立ててきた。

お風呂からあがって肌を整える。聖薇のもちもちの肌は触っていてとても気持ちがいい。一日の疲れをゆっくり労わりながら、相沢や花園さんのことを考える。聖薇の苦悩は、私には想像できないくらい手の届かない雲の上の悩みだ。ブサイクには選択肢がないように、聖薇も金持ちなりに選択肢が限られていたのだろう。その中で幸せになろうと必死になっていたところ、ヒロインの花園さんが好きな人と婚約者の両方の気を引いてしまった。花園さんの魅力に罪はないけれど聖薇の心境としては辛いだろう。辛く当たってしょうがない。

聖薇が相沢のことを好きで好きでしょうがないことは伝わってくる。だからこそ可哀想な気がしたし、聖薇は切ない。どうにも聖薇の記憶を共有し始めてから、聖薇の主張が強くなってきている気がする。そもそも聖薇の体だから、私がいること自体が間違いなのだけど。

「はあ」

ため息をつく。聖薇のアンニュイな表情は美しいけれど、このままだと、私の成分がにじみ出て臭くなってしまうかもしれない。そんなのは聖薇じゃない。無理やり取り澄まして微笑んでみたりするけれど、やっぱり作り物は本物ではない。

あー、先生と電話したい。今日も授業でちょっと目が合った。すごい幸せだった。きっと私、可愛く笑えていた。ずっとああいう風に笑っていたい。

そんなことを考えていたら、携帯が鳴った。関先生だ。私は飛び跳ねるようにして携帯を受けた。

「もしもし、先生?」

「やぁ。何してるかなって思ってね。……迷惑だった?」

「いいえ、全然。私もちょうど先生とお話したかったところですわ」

「それはよかった。僕たち、気が合うね」

少し話をした。他愛もない話だ。だけど、今まで私はしたこともないような浮ついた話だった。聖薇は飽き飽きしているけれど、私は楽しい。「おやすみなさい」と言って切る電話は本当にドキドキした。

頭の中で聖薇が注意を促してくる。御崎の名前に恥じないように行動を慎めと言ってくる。

「……でも、恋したいよ」

私の言葉に聖薇が黙る。そもそも、聖薇はいわゆる多重人格のようにうるさく喋っているわけではなく、知識として存在している……のだと思う。だから、きっと私の意志のほうが強くて、感情が理性に勝ったような状態になった……のではないだろうか。

せっかく美人になれたのだ。渇望していたものが手に入るのだ。恋をしよう。
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