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秋の夜長
もったいない
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「最近、宗治郎が外出を気にしていてね」
「ディ?」
「私が思うにこの見た目が問題なのだろうとね。この国の者は総じてシャイが多過ぎる。容姿や年齢、ギャップなんて気にする必要など全くないのにね」
ヴァンピールも年を取らないわけではない。ただそれは緩やかすぎて宗治郎に追いつく事はない。ここ数年、宗治郎が気にしている事をディーゼリィは気にしていた。
だからこそ容姿だけでも変えられないかとディーゼリィは考えた。
自身を形成する細胞を活性化させれば若返りは可能だった。実際その手管で老若男女落としてきた実績もある。しかし、その逆をいけば老けることも可能ではないかと考え、細胞を促進させてみたが老けいる行為は死に近づく事だ。それは本能として避け難い事。どうしてもうまくいかなかった。
だがここにきて魔法使いと再会した。これを好機と言わず何とするか。
そして向き直るディーゼリィを一哉は唖然としたまま見つめていた。
確かに年配の日本人男性と金髪美丈夫の若い男が連れ立って歩く姿は好奇的に見られるだろう。それも並の男ではないのだ。相手は魅了してなんぼのヴァンピール。毎回、認識阻害で町を歩くなど楽しくもないだろう。
「………できなくもない」
だがこの状況で頼み事など、郁人に仕掛けた事を思えばどの口が言うのか。
「では頼む」
けれど意気揚々とディーゼリィは微笑む。
「「え、」」
「なんやもったいない気ぃする」
しかし、口を開いたのは郁人の方が先だった。始めの、え、は宗治郎と被ったためにそのまま郁人は宗治郎を見つめて、
「なぁ!宗治郎さんもそう思うやなぁ」
「あ、うん。うん、そうだね」
そしてやや気押されるように頷く宗治郎の姿に、そやろ、と郁人は嬉しそうに頷く。
「だいたいや、なんで相手の話も聞かんと勝手に想像して勝手に理解した気ぃになっとるんや。そもそも、宗治郎さんは今、この姿のディーゼリィさんを好きなんやろ?そら確かに2人が揃って歩いてんと目惹くやろな。そやけど見たい奴には見せたればいいし、2人が納得しとんのに周りがとやかく言うことやない。オレかて成長過程からのこの姿のこいつが好きやし。その過程を一飛びされんのは本人が納得しとったてオレは嫌や。ちゃんと話してほしい。ディーゼリィさんは今なんや思いつきみたいに言うてんけどほんとにそれでいいんか?」
立ち上がりつらつらと告げる郁人はそこで、コホン、とひとつわざとらしく咳を溢した。そして。
「あと。……ぶちゃけて言うんやったら、こいつがディーゼリィさんになんらかの魔法を施すために近づくのも嫌やと思うくらいにオレはこいつを独占したい」
人種の違いを言うならばディーゼリィと宗治郎この2人は将来の自分たちだと郁人は漠然と理解していた。魔法使いは基本長命種だとディーゼリィは言っていた。ならばこれからの人生のどこかで年齢を気にする日が来るのだろう。だがそれを楽しまないのは勿体無い事だ。少なくとも郁人はそう思うし、え、と驚いた宗治郎もまたディーゼリィの提案には納得していないように思えるのだ。それにお互いを想い合っていても一緒にいる訳ではない両親にしても様々な形があるのだから今一緒にいられる事を無理に変える必要などないと思う郁人だった。
「歳とったオレがめちゃ若くてカッコ可愛ええ一哉を連れて歩くのもなんや背徳的でええと思う!」
…………………。
「はぁ⁉︎」
なんでそうなるんだ、と言いかける一哉だったが郁人は気にもせずディーゼリィに向き直る。
「やし、ついでに言うんなら、こっちに頼み事する前にオレのマーキングとやらを消してくれや。話しはそれからやないかな」
「は、はは!はははは!やはり君は楽しいねぇ郁人くん。それはそうだ。了解したよマーキングを解除するのが先だったね。そして————ちーちゃんカッコ仮改め、いちやくん。今度ぜひ漢字を教えておくれ」
「あ………」
その時始め自分がしでかした事に気付き、郁人はむぎゅっと口をつぐんだ。その姿に呆れたような表情をしていた一哉だったが、
「ふ、」と小さく声をこぼす。そしてそのまま、
「ははははは」
笑い出していた。あまりに郁人らしさ全開の考え方に絶対に勝てる気がしないと一哉は思う。
そして郁人もまた久しぶりの一哉の爆笑に、やばい、可愛ええ、と心の奥底がうずうずと疼き出す。あの頃とは違う。今は承諾などなくても両手に閉じ込めてしまう事が許されている。
だがしかし!
さすがに来客の前での行為は二の足を踏む。なにしろこの国の者はシャイな性格が多数派なのだ。
郁人が、うーーっと妙な葛藤に苛まれる中、軽く安堵の息を吐く宗治郎はぺしりとディーゼリィの頭を叩いた。
「早く解除しなさい。私だってあなたが他の方にマーキングしているのは嫌ですからね」
「ディ?」
「私が思うにこの見た目が問題なのだろうとね。この国の者は総じてシャイが多過ぎる。容姿や年齢、ギャップなんて気にする必要など全くないのにね」
ヴァンピールも年を取らないわけではない。ただそれは緩やかすぎて宗治郎に追いつく事はない。ここ数年、宗治郎が気にしている事をディーゼリィは気にしていた。
だからこそ容姿だけでも変えられないかとディーゼリィは考えた。
自身を形成する細胞を活性化させれば若返りは可能だった。実際その手管で老若男女落としてきた実績もある。しかし、その逆をいけば老けることも可能ではないかと考え、細胞を促進させてみたが老けいる行為は死に近づく事だ。それは本能として避け難い事。どうしてもうまくいかなかった。
だがここにきて魔法使いと再会した。これを好機と言わず何とするか。
そして向き直るディーゼリィを一哉は唖然としたまま見つめていた。
確かに年配の日本人男性と金髪美丈夫の若い男が連れ立って歩く姿は好奇的に見られるだろう。それも並の男ではないのだ。相手は魅了してなんぼのヴァンピール。毎回、認識阻害で町を歩くなど楽しくもないだろう。
「………できなくもない」
だがこの状況で頼み事など、郁人に仕掛けた事を思えばどの口が言うのか。
「では頼む」
けれど意気揚々とディーゼリィは微笑む。
「「え、」」
「なんやもったいない気ぃする」
しかし、口を開いたのは郁人の方が先だった。始めの、え、は宗治郎と被ったためにそのまま郁人は宗治郎を見つめて、
「なぁ!宗治郎さんもそう思うやなぁ」
「あ、うん。うん、そうだね」
そしてやや気押されるように頷く宗治郎の姿に、そやろ、と郁人は嬉しそうに頷く。
「だいたいや、なんで相手の話も聞かんと勝手に想像して勝手に理解した気ぃになっとるんや。そもそも、宗治郎さんは今、この姿のディーゼリィさんを好きなんやろ?そら確かに2人が揃って歩いてんと目惹くやろな。そやけど見たい奴には見せたればいいし、2人が納得しとんのに周りがとやかく言うことやない。オレかて成長過程からのこの姿のこいつが好きやし。その過程を一飛びされんのは本人が納得しとったてオレは嫌や。ちゃんと話してほしい。ディーゼリィさんは今なんや思いつきみたいに言うてんけどほんとにそれでいいんか?」
立ち上がりつらつらと告げる郁人はそこで、コホン、とひとつわざとらしく咳を溢した。そして。
「あと。……ぶちゃけて言うんやったら、こいつがディーゼリィさんになんらかの魔法を施すために近づくのも嫌やと思うくらいにオレはこいつを独占したい」
人種の違いを言うならばディーゼリィと宗治郎この2人は将来の自分たちだと郁人は漠然と理解していた。魔法使いは基本長命種だとディーゼリィは言っていた。ならばこれからの人生のどこかで年齢を気にする日が来るのだろう。だがそれを楽しまないのは勿体無い事だ。少なくとも郁人はそう思うし、え、と驚いた宗治郎もまたディーゼリィの提案には納得していないように思えるのだ。それにお互いを想い合っていても一緒にいる訳ではない両親にしても様々な形があるのだから今一緒にいられる事を無理に変える必要などないと思う郁人だった。
「歳とったオレがめちゃ若くてカッコ可愛ええ一哉を連れて歩くのもなんや背徳的でええと思う!」
…………………。
「はぁ⁉︎」
なんでそうなるんだ、と言いかける一哉だったが郁人は気にもせずディーゼリィに向き直る。
「やし、ついでに言うんなら、こっちに頼み事する前にオレのマーキングとやらを消してくれや。話しはそれからやないかな」
「は、はは!はははは!やはり君は楽しいねぇ郁人くん。それはそうだ。了解したよマーキングを解除するのが先だったね。そして————ちーちゃんカッコ仮改め、いちやくん。今度ぜひ漢字を教えておくれ」
「あ………」
その時始め自分がしでかした事に気付き、郁人はむぎゅっと口をつぐんだ。その姿に呆れたような表情をしていた一哉だったが、
「ふ、」と小さく声をこぼす。そしてそのまま、
「ははははは」
笑い出していた。あまりに郁人らしさ全開の考え方に絶対に勝てる気がしないと一哉は思う。
そして郁人もまた久しぶりの一哉の爆笑に、やばい、可愛ええ、と心の奥底がうずうずと疼き出す。あの頃とは違う。今は承諾などなくても両手に閉じ込めてしまう事が許されている。
だがしかし!
さすがに来客の前での行為は二の足を踏む。なにしろこの国の者はシャイな性格が多数派なのだ。
郁人が、うーーっと妙な葛藤に苛まれる中、軽く安堵の息を吐く宗治郎はぺしりとディーゼリィの頭を叩いた。
「早く解除しなさい。私だってあなたが他の方にマーキングしているのは嫌ですからね」
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文章全体が表現力が豊かで面白いです
これからも楽しませてくださいまし〜
ありがとうございます(*´꒳`*)
表現の仕方が面白いです
ワクワクします
いつもほんとうにありがとうございます。短編がやや長くなってますがお付き合い頂けると嬉しいです。面白い表現!どの辺りだろう⤴︎今度ゆっくりお聞かせください╰(*´︶`*)╯♡
修正前よりもさらにバワーアップして、良いです
短編も楽しみです
読み返して頂き、本当にありがとうございます!一度公開したものをこんなに修正するなどあまりあってはならないのでしょうが💦読み返して頂き、励みになります。ゆうこりんさんが楽しめるよう頑張ります!